過酷すぎる異世界で欠損少女を治したら病んだ狂犬と化した

AteRa

第1話

 陰鬱とした空気の街。

 人々の目には常に光が宿っていない。

 皆、死んだような目だ。


 そんな街を俺は歩いていた。


 どうしてこうなったのか。


 つい先ほどまで、俺は普通に日本で暮らしていたはずだった。

 平穏な日本、確かにこちらの人々も目に光が宿っていなかったりもするが。

 それでも、ここまで陰鬱とはしていなかった。


 転生したのだ。

 異世界に。


 俺は左手の手のひらを見る。

 そして左手を払うように振れば、目の前に半透明のウィンドウが表示される。


――――――――

Name : ジン

Age : 18

Skill : 治癒魔法〈リペア・エボルブ〉

――――――――


 簡易的なステータス画面。

 俺がこの世界に転生して得たスキルは治癒スキルだった。


 さらに治癒スキルの詳細を見ていく。


――――――――

・治癒魔法〈リペア・エボルヴ〉


Lv1. 傷を止血する。

Lv2. *********

――――――――


 どうやらこの治癒魔法にはレベルがあるみたいだった。

 要するに進化していくらしい。


 まあ、そんなことはどうでもいい。

 目下の悩みはそんなことではない。


 俺は家に帰る足を速めた。

 家で待っているあの少女のために、俺はなけなしの金を出して買った飯を手に帰路を急いだ。




「ただいまぁ」


 俺が家に着くと、少女は部屋の隅で蹲っていた。

 銀髪の、どこか儚げな美少女である。


 彼女には

 それに加えて、左目も見えていないらしい。


 どうやら魔獣に襲われて怪我を負ったらしいが……。


 助けてくれる両親もおらず、一人で死にそうになっていたところを俺が拾った。

 まだ心は開いてもらっていない。

 まあまだ出会って半日程度だ。

 心に傷を負った少女がそう簡単に心を開いてくれるわけもなく。


 俺はキッチンに立ち、野菜たちを煮込んでいく。

 今日は野菜スープだ。

 しかも香辛料たっぷりの。


 この世界は流通というものがほとんど死んでいる。

 というのも、街の外に出れば強力な魔獣が跋扈しており、危険度が一気に跳ね上がるからだ。

 街と街を歩き渡って商売しようなんて物好きは少ない。

 だから、野菜とかの食料は全部街で自給自足している。


 でも、いないわけではないのだ。

 そういう一部の物好きが、香辛料とかを持ってきて街に卸してくれる。


 俺は治癒スキルを使って稼いだなけなしのお金を全部使って、香辛料を買った。

 美味しいものを食べれば少女も元気が出るかなと思ったのだ。

 グツグツと野菜を煮込んでいく。


 この世界では、止血が出来るというだけで重宝される。

 俺のスキルは今のところ、ただの止血くらいしか出来ない。

 でも、大怪我をする人が多くて、そういう人は大量失血で死んでしまうことも多い。

 俺がこの街に来てから死亡率が下がったと言う人もいるくらいだ。

 それくらい止血が大事になってくる。


 だから、そこそこ稼ぎも良いのだ。

 この少女も、俺がいなかったら今頃はとっくに死んでいたことだろう。


 沸騰し、野菜たちに火が通っていく。

 俺は野菜が十分に柔らかくなったら、香辛料を入れてスープを完成させた。

 皿にスープを盛り付ける。


「飲めるか?」


 少女が顔を上げた。

 美しい顔が俺を見上げる。


 少女は首を横に振った。


「一人じゃ飲めないか?」


 少女はまた、首を横に振った。


 う~ん、どういうことだろう。

 野菜が苦手なのだろうか。


 俺が困惑してると、少女は小さいか細い声で言った。


「私には……勿体ないから……」


 なんだ。

 そんなことか。


 俺はしゃがんで少女と同じ目線になった。

 そしてスプーンで野菜をすくうと、彼女の目の前に差し出した。


「ほら、飲みなよ」

「……だめ」

「いいからいいから。美味いぞ~、このスープ。なんてったって俺が作ったんだからな」


 俺はそう言ってにこっと笑いかけた。

 少女はしばらく逡巡していたが、結局思い切ってパクッとスープを飲んだ。


「……おいしい」

「だろ? ほら、言ったとおりだったろ?」

「……うん」


 それから俺は少女にスープを飲ませ続けた。

 彼女は泣きながらスープを飲み続けた。


 やはり、両親はとっくに死んでいたか。

 なかなかまともな食事にもありつけていなかったのだろう。

 この世界の住人は自分のことで精一杯だ。

 他人のことに気を回せる人は少ない。

 彼女もおそらく見捨てられた少女の一人だったのだ。


「美味しかったか?」

「うん」


 スープを飲み干した少女は眠たげな瞳をしていた。

 お腹いっぱいになって、安心して、眠たくなってしまったのだろう。

 虚ろな目をしている。


「眠るか?」


 俺が尋ねると少女は首を横に振った。


「まだ寝ないのか?」


 もう一度、少女は首を横に振った。

 少女は震えていた。

 そして俺の服を掴むと言った。


「……一緒がいい」


 俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 あのスープだけで随分と懐かれたみたいだった。

 俺は頷いて立ち上がった。

 そして不安そうにこちらを見上げてくる少女を横抱きに抱えると、ベッドに寝かせた。

 俺もその横に寝転がると、言った。


「おやすみ。ゆっくり休めよ」

「……おやすみなさい」


 こうして異世界での一日が過ぎていく。

 過酷な異世界。

 その中で、俺は一つ守るべきものができたみたいだった。

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