Re:Born ―召喚編
@STORYSEEKER
プロローグ
校長のくぐもった声が大講堂に響き渡り、灰色のコンクリート壁に力なく跳ね返っていた。深紅のカーテンに飾られ、校章がスクリーンに映し出されたステージは、いつもより厳かな雰囲気を醸し出している。もっとも、生徒たちのほとんどは欠伸を噛み殺すのに必死だったが。
「――以上をもって、今学期を締めくくります。休暇の間、諸君らが自らの過ちを省み、自分自身を超えていくという決意を持って戻ってくることを期待しています……」
後方の列、空席に紛れるように座っていた**霧沢 秋浩(きりさわ・あきひろ)**は、軽蔑を込めて目を丸くした。校長の言葉は、どれもこれも空虚にしか聞こえない。彼は頭の中で欠伸の回数を数えていた。十九回。いや、二十回目だったか。
講堂内の空気は、形式的な退屈さに支配され、淀んでいる。外では太陽が大きな窓を照らしつけ、埃の舞うカーテン越しに差し込む光が、通路に幾筋もの模様を描いていた。
(過ちを省みる? 自分を超える? はっ……そんなこと、どうだっていいんだよ)
校長が独白を終えようとした時、予定調和の時間がやってきた。
「忘れないでください。偉大さとは努力と規律によってのみ成し遂げられるものです。生徒会長である**霧沢 英明(きりさわ・ひであき)**君を模範としなさい。彼は今回もまた、本校の最優秀生徒に選ばれました」
強制的な熱を帯びた拍手が沸き起こった。「英明」という名は、まるで反射的に拍手するように訓練された観客を動かす、魔法のトリガーのようだった。
そして、彼が現れた。神童。完璧な息子。霧沢英明は、一度も失敗したことのない人間特有の、洗練された優雅さでステージへと歩を進めた。スーツには外科手術のような正確さでアイロンがかけられ、足取りは真っ直ぐで、その表情は計算され尽くしたかのように穏やかだった。
秋浩は暗い隅から、その姿を凝視していた。
(誰もがヒーローみたいにアイツを称える……。アイツが一度も何かに苦労したことがないなんて、知りもしないで。皮肉なもんだ。俺の兄貴だっていうのに、まるで別の惑星の住人みたいだ)
対する秋浩は、その正反対だった。存在感のないオタク。劣等生。試験では赤点ギリギリを彷徨い、現実の退屈さから逃げるように仮想世界へと引きこもる男。だが、彼はもうそんなこと気にしていなかった。社会という名の不条理な劇場で、自分が演じるべき役割にはとっくに折り合いをつけていたからだ。
「それでは最後に、生徒会長から一言」校長がわざとらしい熱意を込めて告げた。
英明がマイクを手に取る。自信に満ち、慈愛さえ感じさせるその声が、まるでモチベーションアップの演説用に設計されたかのように講堂を満たした。
「校長先生、ありがとうございます。私にとって、この一年もまた成長の機会であり、皆さんと価値観を共有できる素晴らしい場となりました……」
秋浩は聞くのをやめた。背もたれに寄りかかり、異次元への出口でも探すかのように天井を見上げる。
(神様、頼むからあいつを黙らせてくれ)
彼の意識は、すでにここにはなかった。自分の部屋で、奇跡的に手に入れたフルダイブ型MMORPGのデモ版をテストする場面を想像する。当選者はわずか三万人。その一人に彼は選ばれたのだ。宇宙もそれほど自分を嫌っているわけではないらしい。
その時だった。まるで彼の思考が、日常という名のベールを突き破ったかのように。
――それは起こった。
目が眩むような白い光が、神の裁きのように天井から降り注いだ。生徒たちが悲鳴を上げる。逃げ惑う者、その場に凍りつく者。宙に黄金の紋章が現れ、完璧な円を描きながら、催眠的なパターンを織りなしていく。床が振動し、壁が軋み、講堂全体が時間の中に停止したかのようだった。
秋浩が立ち上がる暇さえなく、不可視の力が彼の体を地面から浮かび上がらせた。視界のすべてがぼやけていく。音が消えた。
そして――明晰で、感情を排した声が響いた。
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