スノードロップ☆スキップ
ろく
《関口里香》
明るい 青い空から
降ってくる
小さな白
静かに いくつも いくつも
「うわぁ 降ってきたな」
「やった ホワイトクリスマスじゃん?」
華やかな音楽の中に飛び込んでくる
真由ちゃんと海斗君の声
静かな空に吸いよせられていた視線を戻す
商店街は
赤 緑 金 銀
沢山の色があふれて
いつもより浮足立っていて
いつも通る帰り道じゃないみたい
お花屋さんのショーウインドウ
雪だるまのイラスト 可愛い
クリスマスセールかぁ
買いそびれたスノードロップの球根
鉢植えになって売っていないかなぁ
「何か欲しいものあった? 寄っていく?」
気が付くとお花屋さんで足が止まっていて
前を歩いていた真由ちゃんと海斗くんが戻ってきてくれた
「気になるけど でも がまん 春咲きの球根に散財したばっかりだもん」
「オッケー わかった 行こう!」
真由ちゃんはわたしの手を握る
わたしたちはまた歩きはじめる
でも
ちょっとだけ
ちょっとだけ振り返っていい?
やっぱり見るだけでもすればよかったかな
ううん
今月はパパとママにプレゼント買ったもん
もうお小遣いの残りも少ない
がまんだよ
真由ちゃんが すっと顔を近づけてくる
「我慢してるエライ子な里香に私からささやかなプレゼント」
ものすごく にこにこ
「明日サッカー部の練習だから学校おいでよ 今年ラストの練習日だよ」
どきんと胸の奥が鳴る
知っていたよ
狭い校庭だから
外の部活は交代で練習日が決められていて
明日ならサッカー部の練習見られるって
実は チェックしていたもん
「園芸部は? あるんでしょ?」
「ある……でも 明日じゃなくても……」
わたしのばか なんで行くって言わないの
「練習の後にプチクリスマス会やるんだ コンビニでお菓子とか買い込んでさ」
え
「でも わたし サッカー部じゃないよ」
「ちがうちがう 私と海斗とコータ それと里香の四人 仲良しメンバーオンリーだよ!」
「こ」
琥大くん……!?
な 仲良し!?
「待って わたし こ ここ 琥大くんとほとんど話したことないのに」
い 行きたい
でも なにを話せばいいの
真由ちゃんは全部お見通しって顔
バチンとウィンク
「よっし決まり! なんにも用意とかいらないからね! 明日朝迎えに行くからね! 一緒に学校行くよ!」
『どうしよう』が心の中で たくさんグルグル
そこに隠れてる『うれしい』『やった~』が どんどん大きくなって
真由ちゃんと海斗くんを そっと見上げた
二人はもう違う話題で盛り上がっている
友達とクリスマスパーティー
中学二回目の冬休みの始まりは
今までで 一番 どきどきする
冬休みの学校は音がとても少なくて
まるで知らない場所に来たみたいで
少し 怖い
職員室に鍵を借りに行った後
何となく密やかな足取りで
温室へ向かう
鍵を開けて
中に入って
ようやくホッと息をついた
ここはいつもと変わらない
温室の植物たちから
そっと 枯れた葉を取り除く
誰に急かされるわけでもない
ゆっくりとした時間
園芸部は幽霊部員さんが多い
だから
温室はいつも わたし一人だけの空間
少し曇ったガラスの外に見える グラウンド
練習しているサッカー部
昨日の雪で黒く濡れている土の上なのに
軽やかに走る
ボールを追って 蹴って
ゴールネットが揺れる
誰にも干渉されない
ずっと眺めていられる
みんな 子犬みたい
真剣の合間に じゃれ合う姿が楽しそうで
真由ちゃんはあの輪の中にいるんだなぁ
少し
ほんの少しだけ
うらやましい
うそ
ほんとは すごく うらやましい
でも 思うんだ
あそこは自分のいる場所じゃない
わたしには ここが合っている
大好きな植物に触れながら
こうして見ていられるだけで
こんなに嬉しい
真由ちゃんがこっちに向かって手を振っている
練習 終わったみたい
真由ちゃんの振る手に気が付いて
はしゃいでいた海斗君達が こっちを見る
こんなに離れているのに
視線なんて合うはずがないのに
気のせいなのに
わたしは慌てて目をそらす
どうしよう どうしよう
あ そうだった
真由ちゃんが迎えに来ちゃう
片付けないと
ジョウロと枯れ葉の入ったゴミバケツ
それから それから……
がしゃん と大きな音がして
思わず肩が飛びはねた
入口を大きく開けて 立っている真由ちゃん
ああ びっくりした
「待って まだ片付け終わっていなくて……」
「里香! 大きいバンソーコー持ってるよね!?」
真由ちゃんは温室に駆け込んできて 早口に言う
「うん 持ってるよ」
よく転ぶから いつも持ち歩いているもん
真由ちゃんも知っているよね
「コータが怪我したんだけど大きいやつ切らしちゃって……」
琥大くんが……
急いで鞄から絆創膏の入った箱を取り出した
真由ちゃんに渡す手が 震える
怪我って……
怪我って……どんな……
すぐに温室を駆け出して行った真由ちゃん
目で追いかける
温室横の水場
そこに何人か集まっている
温室のガラスに顔を近づけた
琥大くんは?
よく見えないよ
すぐ近くなのに
よく 見えない
だけど あそこへ行く勇気もない
こわい
ここで何もできずに 立っているのも
温室の鍵を閉めて職員室へ走った
勇気のない わたし
駄目な わたし
琥大くん
大丈夫かな
怪我 ひどいのかな
大丈夫かな
鍵を返したら もうあの水場に戻るしか思いつかなくて
こわごわ戻ると
そこにいたのは真由ちゃんと海斗君だけ
琥大くん
迎えの車が来て帰っていったって
プチクリスマス会は中止なんだって
もう 新学期まで会えないんだって
1月1日
元旦
TVから身近なところまで
おめでたムードに包まれる日
とても賑やかで
だけど
いつも 少しさみしい
「あけましておめでとう」
スマホで友達に送って送られて
でも 少し寂しい
1月1日
私の誕生日
パパとママが祝ってくれるけど
親戚の人も祝ってくれるけど
忙しさに紛れて どこか「ついで」の空気
いつも少し寂しい
日付が変わってすぐ
スマホに「Happy New Year!」と「HappyBirthday!」のメッセージ
真由ちゃんと海斗君から
毎年変わらない
うれしい!
でも 学校は休み
今年はいつもより寂しい
学校に行きたいよ
今年の元旦もぼんやり眠い
少し夜更かししちゃったから
お昼ご飯の前だけど
パパとコタツでみかんを食べようかな
TV見ながらみかんを剥いていたら
玄関でチャイム
親戚のおじさんたちかな?
約束の時間には少し早いけれど
玄関を見に行ったママの大きな声が廊下に響く
「里香! お友達よ!」
あ 真由ちゃんと海斗君だ!
来てくれた!
コタツから飛び出して廊下に出た
そして
玄関を見た瞬間 わたしは凍る
こ……琥……琥大くん……
どうして!?
嘘!
待って!!
わたし……はんてん羽織ってる……それに裸足……靴下はいてな……あ……髪……前髪をピンで留めただけ……それも小学生の時にパパに買ってもらったパッチンピン……
やだぁあ
もう 倒れたい
ママ 何で真由ちゃん達じゃないって言ってくれなかったの?
「お!」
「はい!」
琥大くんの大きな声
反射的に返事が出た
「お……めで……とう」
「あ うん あけましておめでとうございます」
「ちがう!」
ええっ⁉
それから
わたしたちは言葉もなく向き合った
後ろ手に立つ琥大くんの膝には包帯
痛そう
「足 大丈夫?」
「大したことないのにみんな騒ぎすぎなんだよ」
口の中で小さく言って
眉の間に皴を作って
難しい顔をして
「こっち きて」
「あ はい」
わたしは考える間もなく言われた通り琥大くんの前へ歩いていく
足を動かすたびに裸足がひたひた音を立てる
恥ずかしい
琥大くんの目の前に立った
瞬間
目の前に現れる
琥大くんが後ろ手に隠していたもの
これ……
「スノードロップ!」
スノードロップの鉢植え
欲しかったの!
わたしの手の中に納まったスノードロップ
まだ開いていない
これから開くところ 見られる!
「これも」
続いて目の前に出てきたのは
「雪だるま!?」
植木鉢の上に雪だるまが……
スノードロップをそっと靴棚の上に置いて
雪だるまを受け取った
「玄関入る前にクーラーボックスから出したから 溶ける前に 見て」
「はい」
ミニ雪だるまが鉢に植わっているの
こんなの初めて
あ カードがついている
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
この春咲きの野花たちは
雪解けとともに目覚めます
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
雪だるまで冬季休眠……
すごい! それに可愛い!
カードの裏に
商店街の花屋さんの名前
ああ あの雪だるまのポスター!
「おめでとう はっ」
琥大くんの声に わたしは視線を上げる
「誕生日だから」
あ……
「ありがとう」
嬉しい……
「じゃ」
短く言って琥大くんは回れ右
玄関を開けて
そして何故だかそこで立ち止まって
「あけましておめでとう!」
外を向いたまま号令みたいに大きな声で新年のあいさつ
それから
「っていうの忘れてた」
小さくつけ加えた
「うれしい ありがとう」
「なんでだよ 意味わかんない」
そう言いながら玄関ドアを閉めて見えなくなったから説明できなかったけれど
とってもうれしいの
だって それって
誕生日のお祝いが新年のあいさつより先ってことだから
こんなに嬉しい誕生日 初めて
ありがとう 琥大くん
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