ギャルに捧げる赤

ごとうもろい

ギャルに捧げる赤

吸血鬼は全てに飽きていた。多くの人間の赤を集めて生きてきた。人間は短い人生にくだらない名声を求めて無駄にしているように思えた。吸血鬼にとって美しいのは赤だけだった。


ある夕方、吸血鬼は団地への坂を下るギャルを見かけた。彼は気まぐれに自身の赤を集めて薔薇を一輪作った。

「ねぇ君」

吸血鬼はギャルの前に立つと薔薇を彼女に差し出した。ギャルは少し驚いたようだった。でも薔薇はあまりに美しく、いい香りだったので、おそるおそる手を伸ばし、それを受け取った。

「ありがと」

ギャルは言った。


その夜、吸血鬼は久しぶりに楽しかった。ギャルの頬が赤く染まったのを思い出した。美しいと思った。


次の日の夕方、またギャルが坂道を下るのを見た。彼は自分の赤をたくさん使って、バラの花束を作った。

「ねぇ君」

ギャルは目を丸くした。見事な花束だった。頬を染めて両手を差し伸べた。

「ありがと」

受け取ってくれた。笑顔で。


その夜、吸血鬼は自分の生を振り返った。彼女のはにかんだような笑顔を思った。あんなに美しいものは彼の記憶になかった。彼にとって人間はただの食料だったから。


次の日、ギャルはまた坂道を下っていった。吸血鬼は自分の赤をすべて使って大きな完全なルビーを作った。ルビーの王様だった。

「ねぇ君」

ギャルはとても驚いているようだった。頬が真っ赤に染まった。手を伸ばそうとして、途中で止めた。

「だめだよ」

ギャルはまっすぐ吸血鬼を見た。

「こんな高価なものは受け取れない。あんたにとって大事なものなんじゃないの?」

美しいルビーを手に吸血鬼は戸惑った。

「あんたと話がしたいよ、デートとか、どう?」

吸血鬼はなにか話そうとした、でも話せることが無かった。彼には奪うと与えるしかなかった。

吸血鬼は無言でルビーをしまうと坂道を登り始めた。ギャルはそのとぼとぼした背中を困惑して眺めていた。


夜になった。吸血鬼は自分が長い長い時間になにも得られなかったと思った。下らない人間たちともっと話せばよかったと思った。夜露が彼の体を濡らした。夜が明けるころ吸血鬼は霧に溶けるように消えていった。あとにはルビーの王様が残った。


集会を終えたネコがルビーの王様を見つけた。彼女にとってはいいおもちゃだった。前足でつついて転がして遊んだ。勢いよくはじいて、ルビーは側溝から下水に落ちてしまった。ネコはちょっと残念に思ったが、もうすぐご飯の時間だと気づいた。ルビーのことはもう忘れていた。


ルビーは下水の底で永遠に美しい完全な赤い光であり続けた。

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