第5話 「ケンカの流れを止める男」

朝八時。

ゴミ収集車の音が、商店街の端から近づいてくる。

その音は、なぜか人の気持ちを急がせる。


「だから言ってるでしょ!」


「こっちだって忙しいんだ!」

隣同士の家から、声がぶつかり合っていた。

原因は、可燃ゴミ。

出す日、出す時間、袋の口。

どれも、取るに足らない。

けれど、積もると重い。


流れマンは、少し離れた電柱の影に立った。

直接は、入らない。

それは、流れをせき止めるだけだからだ。


代わりに、通りすがりを装って、

ぽつりと声を落とす。

「……昔、この辺、よくビー玉転がってましたよね」

一瞬、怒鳴り声が止まる。

「夕方になると、道路いっぱいに」


「ああ……」


「やってたわね」

声のトーンが、少し下がる。

流れマンは続ける。


「この家の前、夏になるとスイカ割りしてませんでした?」

沈黙。

そして、くすっと笑い。


「棒が短すぎて、割れなかったのよ」


「お前が目隠し外したんだろ」

笑い声が、朝の空気に混ざる。

ゴミ袋は、まだそこにある。

でも、もう誰も見ていない。


「まあ、いいか」


「次、気をつけるわ」

ゴミ収集車が、角を曲がってきた。

二人は並んで、袋を持ち上げる。


流れマンは、その背中を見て、静かに歩き出した。


町は、

完璧じゃない。

でも、

思い出が一つ流れ込むだけで、

ちゃんと元に戻る。


ケンカを止めるのに、正論はいらない。

流れが変われば、それでいい。


朝の通りには、

もう、収集車の音しか残っていなかった。

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