第2話 はじめての利用



 朝の登園がひと段落した頃、扉の前で足音が止まった。


 ノックはない。

 少し迷った末に、ゆっくりと扉が開く。


 冒険者の男が一人、子どもの手を引いて立っていた。

 装備は軽く、まだ新しい。


 メイ

「おはようございます」


 男は一瞬だけ戸惑ったあと、頭を下げた。


 冒険者

「あ、はい……その、今日から……」


 言葉が途中で切れる。


 メイ

「初めてのご利用ですね」


 冒険者

「……分かりますか」


 メイ

「だいたい」


 名簿を受け取り、名前を確認する。

 登録は済んでいる。書類も問題ない。


 エルナは少し離れた場所で、その様子を見ているだけだった。


 メイ

「お名前、呼んでもいい?」


 子どもは小さく頷いた。


 メイ

「じゃあ、ここで靴を脱ごうか」


 男はその様子を見ながら、落ち着かない様子で立っている。


 冒険者

「……泣きませんか」


 メイ

「泣く子もいます」


 正直に答えると、男は少し肩をすくめた。


 冒険者

「ですよね」


 メイ

「でも、だいたいはすぐ慣れます」


 リンが横から顔を出す。


 リン

「慣れないのは、だいたい親の方なんですよね」


 冒険者

「……そう、ですね」


 子どもはすでに、部屋の奥のおもちゃに目を向けていた。


 ガルドが通りかかり、動きを止める。


 ガルド

「問題ない。ここは安全だ」


 声が大きい。


 メイ

「ガルドさん、声」


 ガルド

「……うむ」


 男は少しだけ笑った。


 冒険者

「……あの」


 メイ

「はい」


 冒険者

「迎え、遅れても……」


 メイ

「延長になりますが、預かります」


 エルナ

「規則の範囲内で」


 冒険者

「……ありがとうございます」


 男はもう一度、子どもを見た。

 子どもは振り返らない。


 それを確認してから、男は静かに背を向けた。


 扉が閉まる。


 メイは名簿にチェックを入れる。


 今日も、特別なことは起きていない。


 初めて預ける親も、

 そうでない親も。


 ここでは、同じだ。


 子どもを預かり、

 仕事が終わるまで待つ。


 それが、この場所の役目だった。

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