わたしの幼なじみだった話

そんな経緯でわたしたちは幼なじみへと戻りました。

通う大学は異なりますが、Kともまた遊びに行くようになり、たまにボウリングやダーツに赴いたり、或いは3人で飲みに出かけたり。

兎も角、昔の様にわたしたちは予定さえ合えば集まるようになりました。

Hはまた女の子を引っ掛ける様になりました。昨日なんて急に「助けてくれ」というメッセージと共に住所が送られて来て焦って言われた場所に向かえば二人の女の子に詰め寄られているHが居ました。どうやら、二股がバレたようです。なんとか彼女らを宥め、Hの頬に張り手をもらうだけに落ち着きました。

Kはあれ以来、“呪い”の類とはさっぱり縁を切った様です。それでも「諦めきれない」という宣言の通り、Hへのアプローチはやめていませんが。Hの痴話喧嘩を納めた後に合流したときに、綺麗に腫れた彼の頬を見てまた何かあったと察したようですが「最後は私が仕留めるからいい」なんて言って少し拗ねるに留めて居ました。


思えば、わたしたちがこんなふうに気兼ねなく何とは無しにフラりと集まりどこかに遊びに行くなど中学生以来のことです。


だからこそ、あの日わたしの抱いた思いは口にできません。


あの日、わたしがKの頬を張った瞬間。

わたしの胸に飛来したのは、想い人を叩いてしまったという罪悪感だけではありませんでした。

わたしはあの日、Hのために、Kがこれ以上悪業を重ねぬために、まるで正義と友情のために動いたかのような行いをしました。

「おれがどんな思いでHを心配したか知らないで…」

「おれがどんな思いでお前を見ていたか知らないで…」

 そんな言葉が口から出たとき、わたしの胸には別の思いが湧き出していました。

わたしたちの仲で、わたしがいなければこんなにも縺れることはありませんでした。Hはわたしに気兼ねしてKを袖にし続けることが無く、KもHへの執着を拗らせることはありません。


おれが邪魔なんだ。


それはHのため、Kのため、そんな純粋な思いではありません。

わたしはただ、幼なじみの間で居たいだけなのに、わたしのせいで、わたしの行いで関係が壊れていきました。

Kの想いに気付いているはずなのにKに追い縋り。

Hが気遣うのを知りながらその優しさを利用する。

わたしのせいなのです。

だから、あの時、そんな思いが爆発しました。

正しいことのため、友達のためだと自分を騙しても、彼らと遊んで居る時に、或いは独りで一息ついたとき、その事実はわたしを責め立てます。

わたしはまるで子供のように自分の思いどうりにならないことに腹を立てて、癇癪を起こして、想い人を叩いたのです。

頭によぎる度に後悔と絶望がわたしを支配します。

 なにが、正義だ

 なにが、友情だ

 二人に隠して、自分も騙して

一番醜い存在がわたしです。

三人で居たいという思いとKが欲しいという思いが同居します。

Kを欲するということはKの意思を無視するということです。Hのためと嘯いて、Kに喚き散らしたのがバカみたいです。結局、わたしこそが二人の思いを見ないで、まるで幼なじみという役割を持った人形かのように扱っているのですから。

幼なじみであり親友のH

幼なじみであり彼女のK

そんなわたしにだけ都合のいい存在であることを彼らに求めているのです。


わたしはあの日、Kの部屋で割った鏡の破片を一つくすねていました。

もはや何がしかの力など無いただの鏡の欠片ですが、これを覗き込んでわたしの目を一杯に写したとき。


まるでKの視線を独り占めしたかのように思うのです。

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わたしの幼なじみの話 来栖 @Yorihisa-Okuniya

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