名称未定
朝だった。
都市は、いつも通り動いている。
交通網は正常。
システム障害の報告はない。
昨日と、
何一つ変わらない。
ニュース端末では、
新型アンドロイドの広告が流れている。
「より人間らしく」
という、
古い言葉を使って。
人々は、
それを見て笑う。
あるいは、
見ない。
どちらでも、
生活は続く。
俺は、
駅へ向かう。
義足の駆動音が、
コンクリートに響く。
一定のリズムだ。
異常はない。
ホームで、
子どもが泣いている。
母親が、
抱き上げる。
あやす声は、
少し震えている。
完璧ではない。
だが、
問題はない。
向かいのベンチに、
アンドロイドが座っている。
外見は、
人間と変わらない。
瞬きをし、
呼吸の真似をし、
視線を彷徨わせる。
通行人は、
誰も気にしない。
それが、
共存だ。
電車が来る。
人と、
人でないものが、
同じように乗り込む。
区別は、
表示されない。
必要ないからだ。
扉が閉まる直前、
アンドロイドが、
小さくつぶやく。
音量は、
記録に残らない程度。
「……大丈夫です」
誰に向けた言葉か、
わからない。
俺は、
それを聞いた。
聞いただけだ。
電車は、
走り出す。
都市が、
窓の外へ流れていく。
人間性保存法は、
今日も有効だ。
人は、
守られている。
何からかは、
定義されていない。
俺は、
自分の手を見る。
生身の部分と、
機械の部分。
境界は、
もう曖昧だ。
それでも、
名前は一つしかない。
この社会では、
それで足りる。
だが、
足りないものが、
確かにある。
それは、
測れない。
保存も、
できない。
削除は、
簡単だ。
だから、
残されなかった。
俺たちは、
それを、
何と呼んできたのだろう。
生身か。
脳か。
心か。
心は、
存在しないと、
言われている。
見えないからだ。
だが――
見えないものを、
見えないまま、
守ろうとした瞬間が、
確かに、
そこにあった。
それを、
人間と呼ばずに、
何と呼ぶ?
人間性保存法 縷々 @_ru_ru_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます