車窓から見える家

平中なごん

一 団欒

 これは以前、私が通勤に利用していたある路線の電車内で体験した出来事である……。


 そのはじまりは、ほんとになんていうことのない偶然のものだった。


 その日、定時で退社した私はいつものように最寄駅から電車へ乗り込み、これまたいつものように窓辺へ立つと、流れゆく車窓からの景色をぼんやりと眺めていた。


 と、そんな時。線路から家々までの距離がわりと近い、戸建ての古い民家が建ち並ぶ住宅街へとさしかかったところで、車両の速度が急にゆっくりになりはじめた。


 時間調節だったのか? それとも何かアクシデントでもあったものか……理由はわからないがともかくも減速してのろのろ運転になったことで、線路沿いにある家々の様子が自然とよく見える状況が生まれた。


 すると、ある一件の家の中で食卓をとり囲んでいる住人達の姿が、カーテンの閉まっていないガラス窓越しに私の視界へと飛び込んでくる。


 時刻は日暮れ時。橙色オレンジの太陽は沈みかけ、よりいっそう薄暗さの増した夕方の景色をバックにして、そこだけ電灯の点いている明るい部屋は一際、鮮やな光景として私の目に映った。


 部屋にいたのは30後半から40代くらいの父親と母親に、小学校高学年ぐらいの姉と低学年と思しき弟の四人。おそらくはこの四人家族で暮らしているのだろう……。


 建物も一昔前のスタイルの木造家屋だし、ちょうど夕飯を食べていたところだったらしく、その一家団欒の温かな雰囲気がなんだかサザエさんを彷彿とさせて、なんとはなしに昭和な香りが漂ってくる懐古的な情景だ。


 やがて、車両はまた速度を取り戻しはじめ、そのレトロ感あふれる一家の住宅から徐々に徐々にと遠ざかってゆく……。


 それは一瞬見ただけの、とるに足らない日常の景色だったのだが、私はその日以来、その家のことをなぜだか妙に気にかけるようになった──。

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