福袋

命野糸水

第1話

「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


1月1日、おそらくこの言葉、この文面か似た文面が飛び交う日。この日だけで流行語を決めるのなら、おそらくこの言葉が選ばれるであろうこの日、俺は元日から開いているショッピングモールにいた。


子供の時、お年玉を持ってワクワクしながら店を訪れていた。元日からお店が開いている、それに対しては特に何も思わなかった。


開いていて当然と思っていた。開いていない店があったら何で開いていないんだよと文句すら言っていたかもしれない。


ただ大人になった今大晦日や元旦に空いている店に対して感謝の気持ちしかない。開いているのが当たり前ではないということが分かったからである。


元旦、元日に俺たちが福袋などを買いに行くことが出来るのはその店で働いてくれている店員さんのおかげなのだ。 


彼らも本当は休みたいのだ。休みたいのに会社の意向で働かなければならない。店員に感謝、毎日店員には感謝しなければならないことかもしれないが、この日ばかりは特に感謝した方がいい。俺はそう思うようになった。


俺はショッピングモールを一通り周った。いつも混んでいるショッピングモールも今日は元日ということもありいつも以上に混んでいた。


店の前には福袋や初売りセールを知らせる張り紙やそれを宣伝する店員の姿が見える。これらの光景がお正月という時期をより明確にしている。


さて、俺がこのショッピングモールに来た目的、それは福袋を買うためである。俺は毎年何かしらの福袋を買っては開封している。


今年も何個か興味がある福袋に関しては抽選に応募した。しかし見事に全て外してしまった。それは仕方がないと思うしかない。人気なものは誰でも欲しい。よって抽選という選択になり選ばれた人しか買えない。


そうこうしているうちに数量限定の福袋の予約期限は過ぎていたり高いやつだけ残っているという状況になってしまった。


高いやつが残っているからそれを買えればいいのだが、俺にはそんな余裕はない。高い系の福袋は誰かが買って動画配信サイトに投稿しているはずだ。それを見て中身を把握すればいい。余裕がないのに見栄を張る必要はない。


何か福袋を買って開封しなければ俺の新年は始まらない。新年だけに俺は福袋に対する信念は人一倍あるのだ。


俺は一通りショッピングモールを周りディスカウントストアで税入り3000円の【今年馬く行けるように願います】福袋を買った。


今年も馬く行くように願います。これがこの福袋の商品名である。


おいおい、新年早々誤字してるよ。上手くいくを馬くいくと書いてしまっているよ。この商品名を見てそう思った人もいるかもしれないがこれは誤字ではない。


今年は午年。馬と上手くいくをかけているのである。あえてそう書いている。誤字ではないのだ。


もしかしたらこの商品名を見て店員にこれ漢字間違ってますよなんていう客もいるかもしれない。そんな客には言いたい。干支を理解しろと。


福袋の表に付いている張り紙を見るとその福袋には馬にちなんだ馬関係のもの、雑貨が入っているらしい。


レジで会計を済ませ福袋を左手に持ちながら俺は出口に向かった。これで俺も福袋を買ってショッピングモール内を歩く一定数いる人の1人になることが出来たのである。と同時に今年も福袋を開封することが出来るのである。


出口からショッピングモールに併設されている駐車場にいき停めてあった愛車に乗り俺は帰宅した。


ちなみにこの日はショッピングモール内で3000円以上の買い物を済ませれば駐車場代は0円となる日であった。別にそれを狙ったわけではないのだが、3000円をギリ満たすことになった。


家に着くと俺は手洗いうがいを済ませて福袋の開封を行った。もしも動画配信者ならこの時にカメラや照明をセッティングして福袋開封動画を撮るかもしれない。


一つ目、ジャジャン、何何ですなんて商品をカメラに見せながら紹介するだろうが俺は動画配信者ではないのでそのようなことはしない。開封の瞬間を誰にも見られずに淡々と行っていく。


まず袋に手を突っ込む。初めに触ったものは箱に入った何かだった。角の尖った部分が少し手のひらに刺さったため分かった。俺はそれを取り出して確認する。どうやら馬が描かれたマグカップのようだ。


どうでもいいもしれないが、俺はマグカップはこのような雑貨福袋の常連だと思っているので、出てきたことに特に驚きもしなかった。やっぱり入っているんかいと思ってしまったくらいだ。


マグカップの中身を開けずに俺はまた福袋に手を突っ込み触れたものを出した。少し柔らかいものだった。確認するとそれは上に馬のマスコットがついた箱ティッシュのカバーだった。カバーの色は馬をイメージさせる茶色だった。


これは少し嬉しかった。俺は普段箱ティッシュのそのまま置いて使っている。これを機にこのティッシュカバーをティッシュにはめて使うことにしよう。


まぁ、こういうカバー系って初めは付けるけどだんだんとめんどくさくなってそのうち付けるのを辞めるんだよな。で結局再び裸の状態の生活が始まるのだ。


箱ティッシュカバー、トイレットペーパーカバー、ポケットティッシュカバーという3代ティッシュカバーは使われる時間が短いものだ。


次に袋から取り出したのは馬の絵が描かれたブランケットだった。これは俺は使わない。使わないだろうから新年会社に行った時に後輩にあげることにしようと思う。もしも後輩もいらないと言ったらどうしよう。それはその時に考えばいいだろう。


残りは馬が描かれたハンカチタオル、キーホルダー、メモ帳だった。


まぁ3000円で6つ入っている点は良しとしよう。使うものと使わないものがあったが、それは福袋の醍醐味なので何も言わない。


何か出し忘れたものはあるかもしれない。俺はおそらく空になったであろう福袋を持って逆さまにして上下に振った。すると一枚の紙が出てきた。


あー、何百円引きか何%引きのクーポンかな。俺はそう思ったがその紙には当たりと書いていた。


当たり、それしか書いていない。当たってどうなるのか、何かもらえるのか。何かの抽選に進むことが出来るのか。詳細が何も書いてない。


なんだこれ、ゴミか。俺は思ったが捨てるのをやめた。明日とかにまたあの店に行ってこの紙を持っていけばいいだろう。店員に聞けばこの当たりが何の当たりなのか分かるはずである。俺はこの当たりとしか書かれていない紙を財布にしまった。


次の日、俺は当たり券を持って福袋を買った店を訪れた。店員を探しこの紙を見せると店員はおめでとうございますと褒め言葉を掛けてきた。


「それではですね、私についてきてください。この当たりの商品は少々貴重なものでして、店頭に並べていないのです。従業員しか分からなように従業員スペースに置いてありますので」


「はぁ」


そんなに大きな貴重なものが当たったのか。俺は新年早々ついているかもしれない。俺はワクワクしながら店員の後について行った。


従業員専用スペースと書かれた場所に着くと店員が机に置いてあるオレンジ色の棒を持った。もしかして当たりはこのオレンジ色の棒なのだろうか。だとしたらとてもいらない。

店員はその棒を持つと俺に向けてえいという掛け声を出しながら振った。


俺はその瞬間意識を失った。


「店長、無事に成功しましたね」 


「あー、予定通りの結果だ。大きな馬の人形だな」


「これ早速飾りましょう」


「そうだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

福袋 命野糸水 @meiyashisui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ