第十二話

 次の目的地である学術都市に、妾は来ている。


 静かではある。

 だが、落ち着くという類の静けさではない。


 声は低く、足音は控えめだが、この街には思考が溢れていた。

 立ち止まり、考え込み、書き留め、また歩き出す。

 人々は外を見ていない。常に内側で、何かを組み立てている。


 妾はその流れに逆らうことなく、図書館へ向かった。


 新しい字や単語については、船の中である程度学んできている。

 掲示物、新聞、書籍。

 完全ではないが、読むことはできる。

 意味を取り違えぬ程度には、この時代の言葉を身につけたつもりだ。


 図書館の中は、街以上に静かだった。

 紙の擦れる音と、ペンの走る気配だけがある。


 妾が最初に手に取ったのは、魔法理論に関する書だった。


 正直なところ、何を書いているかは分からない。

 数式、専門用語、前提条件。

 その過程を追う気もない。


 だが、結果だけは読める。


 時間。

 費用。

 人間。


 それらをすべて費やすことで、集団としてなら―─

 成体のドラゴン二匹程度であれば、理論上、対処可能。


 命までは至らないだろう。

 だが、追い払うには十分だ。


 それで足りる。


 損傷した地に、再び訪れるドラゴンは少ない。

 産まれてから死ぬまでに、負けを経験する個体の方が稀なのだから。


 一度でも敗北を知れば、行動原理は変わる。

 人間は、そこまで理解した上で書いている。


 ……これは、恐ろしいな。


 生態として記録された結果だろう。

 以前のような、未知への恐怖心が薄れるのも当然だ。


 積み重ねができる種族の特権だ。


 妾は本を閉じ、書架を眺める。


 概念として、消えゆくことはないだろう。

 だが――


 なかなか、受け入れ難いものだな。




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2026年1月11日 21:00

妾は竜ではない。ドラゴンという概念じゃ 濃紅 @a22041

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