第十話

 約束の日時に、妾は再び屋敷の前に立っていた。

 前回と同じ門、同じ高さの塀、そして――同じ門番だ。


 門番は一瞬こちらを見て、思い出したように頷いた。


「ああ、あんたか」

「一応、伝えたんだがな。もしまた来たら、通せと言われている」


 それだけ言うと、余計な説明もなく、門を開けた。

 理由も中身も知らされていない。下っ端とは、そういうものだ。


 妾は抱えていた菓子折りを差し出す。

 門番は一瞬だけ迷い、無言で受け取った。


「こちらで預かる」


 中身を確かめることもなく、脇に控える者へ渡される。

 それでいい。


 敷地の中へ通され、屋敷の奥へと案内される。

 足元には手入れの行き届いた石畳。

 左右には、用途があるのか分からぬ装飾や調度が並んでいた。


 彫刻、絵画、光を反射する飾り。

 どれも安くはない。しかも、数が多い。


 ……こんな装飾にまで金を掛けるとは、贅沢なものだな。


 感心でも非難でもない。

 ただの確認だ。


 人は、力を得ると形を残したがる。

 それは昔から変わらない。


 廊下を進み、重厚な扉の前で立ち止まる。

 使用人が一礼し、扉を開いた。


 中は書斎だった。


 本が並び、机があり、外の気配は遮断されている。

 ここは社交の場ではない。話をするための部屋だ。


「こちらへ」


 促され、妾は一歩、室内へ足を踏み入れる。

 背後で、静かに扉が閉まった。


 さて。

 ここまで、来たというわけだ。




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