第二話
港町の通りは賑やかだった。
荷を運ぶ人の声、客を呼ぶ呼び声、どこからか流れてくる音楽。船を降りてから少し歩くだけで、この街が「通過点」でありながら、人を引き留める力を持っていることが分かる。
妾はその中を歩く。
特別なことは何もしていない。
ただ、視線を感じていた。
好奇のものもあれば、理由を持たぬものもある。
すぐに逸らされる視線もあれば、無意識に二度追われるものもあった。
人間は、自分たちと少し違うものを、敏感に嗅ぎ取る。
——それでも、誰も声はかけない。
雑貨屋は、港に近い通りにあった。
観光客向けなのだろう。棚には絵葉書や小さな置物、意味の分からぬ縁起物が並んでいる。その一角に、ドラゴンの置物があった。
小さく、丸みを帯びた造形。
翼はあるが簡略化され、牙や爪も控えめだ。恐ろしさよりも、親しみやすさが前に出ている。
妾は、しばらくそれを眺めていた。
竜とは、こういう姿でも語られるようになったのか。
否定するほどではない。
だが、肯定する理由もない。
背後から、また視線を感じる。
店主だ。
「お嬢さんも、買っていくかい?」
悪意のない、商売人の声だった。
妾は首を振る。
「いや、いい」
それから、置物から視線を外し、問いを投げる。
「しかし、ドラゴンはこの地で、どのように伝わっている?」
店主は少し意外そうな顔をしたが、すぐに肩をすくめた。
「あーこの辺りじゃ昔から、親が子供に言うんだよ。
“ドラゴンが、俺たちを見ているぞ”ってな」
軽い口調だった。
「ガキの頃は、正直怖かったよ。
夜に思い出して、外に出るのをやめたこともある。
でも今じゃ……まあ、土産だな」
そう言って、棚の置物を指で軽く叩く。
妾は、それを聞いて頷いた。
「そうか」
それ以上は言わない。
置物を手に取ることもなく、そのまま店を出る。
通りに戻ると、再び人の視線が交錯する。
だが、誰一人として立ち止まらない。
誰も、確信には至らない。
竜は、消えていない。
形を変え、人々の記憶に生き続けているのだろうか。
妾は答えを出さぬまま、歩き出した。
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