最後の電車を待つ場所
@kiba2025
最後の電車を待つ場所
毎晩、同じ時間に駅のベンチに座る。
終電はもう何年も前に廃線になったというのに、体はその時間になると自然にここへ向かってしまう。
ホームには人がいない。
アナウンスも鳴らず、時計の針の音だけが、冷えた空気の中でやけに大きく響いている。
それでも僕は、線路の奥を見つめ続ける。
昔、この駅は騒がしかった。
仕事帰りの人、学生、待ち合わせの恋人たち。
そして、彼女もいた。
「遅れても、ここで待ってるから」
そう言って笑った顔を、今でもはっきり覚えている。
その日、僕は仕事を理由に約束を破った。
一本だけ、電車を見送れば間に合ったはずだった。
次の日、彼女はいなかった。
連絡も取れず、理由もわからないまま、時間だけが過ぎていった。
やがて路線は廃止され、駅は使われなくなった。
それでも僕は、毎晩ここに来る。
もしも、あの日に戻れる電車が来るなら。
もしも、もう一度だけ謝れるなら。
冷たい風が吹き抜け、足元の小さな紙くずが転がった。
その瞬間、遠くでかすかな音がした気がした。
耳を澄ます。
何も聞こえない。
それでも、胸の奥が少しだけ温かくなる。
僕は立ち上がり、深く息を吸った。
そして初めて、線路から視線を外す。
待つことをやめるのも、また一つの選択だ。
過去に電車は戻らない。
でも、歩き出す道は、まだ残っている。
駅を出ると、夜の街に小さな明かりが灯っていた。
それはとても静かで、確かに前へ続く光だった。
僕はもう、振り返らなかった。
最後の電車を待つ場所 @kiba2025
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