英雄を問う

アオミラフト

第1章

第1話 開戦

 ……起きたら正午。けたたましい目覚ましは、今朝も俺を起こすのを諦めたようだ。まだ眠いが、流石に一日寝るわけにもいかない。


 欠伸をしながら階段を下りると、旨そうな匂いが俺の鼻を突いた。どうやら師匠が昼飯の準備をしているようだ。俺も朝飯として食べてえが、二人分の用意を師匠がしているとは到底思えない。


「はよー師匠」

「ん、おそよ~紅蓮」

相も変わらずいつもの笑顔だ。


「寝てる間に出動命令はあったか?」

「なかったけどお前は上に嫌われてるからな、気にしなくていいぞ!!」

「うっせ」


キッチンを覗くと珍しく師匠が二人分の食事を作っている!?寝坊した日に用意してくれることなんてほぼないのに。


「できたぞー」

「うい」

顔を洗って着替えて、食卓に着く。


「「いただきます」」

師匠の絶品目玉焼きを口にしながらニュースをつける。


『こんにちは。お昼のニュースです。昨日の国軍対組織犯罪特別機動隊の活動をお伝えいたします。旧フランス・マルセイユ地域にて…』

特に面白い報道もない。すぐにテレビを消そうと、リモコンに伸ばした手を師匠が遮る。気味の悪い笑みを浮かべながら無言で俺に訴えかける。


「まだ消すな、もう少し待て、面白いもんがある。」

と言いたいようだが…。嫌な予感を浮かべる俺をよそに、師匠はテレビの音量をあげまくる。


『昨日の出動で、世界的英雄Xエックスのテロ鎮圧の功績数が1000に達しました!』

とんでもない爆音でテレビが叫ぶ。


「おい見ろ紅蓮!!SNSも大盛り上がりだ!!!」

よほど嬉しかったのか、これ見よがしにスマホの画面を押し付けてくる。当然、凄いことではあるのだが…


「世界を救った大英雄の素性がこんなじゃ、皆幻滅だろうな。」

「大丈夫大丈夫、俺クールなイケメンキャラで通してるから。」

ケラケラと笑いながら答える。こりゃ相当浮かれてんな…。


だがやはり、大英雄の名にふさわしい実績であることは確かだ。実力を見ても当然と言える。こんな男の弟子であることは誇らしい。


一通り喜び終わったのか、師匠はテレビを消して黙々と食べていた。

「紅蓮、食い終わったら午後から行くぞ!」











 国軍対組織犯罪特別機動隊本部 -旧日本・東京地域-


 国軍対組織犯罪特別機動隊、通称国特隊の本部に到着して出迎えてくれたのは教官の怒号だった。

「紅蓮!お前また遅刻とはどういうつもりだぁぁぁ!!」


 耳が痛くなる声だ。時間を守ることが強くなれるなら率先して早く来るんだけどなぁ。そんな俺の表情が気に入らないのか教官は俺を鬼のように睨み、視線を師匠に移した。


「この馬鹿はともかく、X、お前はどうしたんだ。」

「こいつが起きるのを待ってたらこんな時間に…」

 へらへらしながら師匠は答えているが、教官は深いため息をついて頭を抱えている。


「もういちいち遅刻への罰則を与えるのも面倒になってきた…今日だけはなしだ、早く入れ…。」

「「ういーっす!ラッキー」」

 俺と師匠はうっきうきのシンクロしたステップで本部へ入っていった。師匠は、今日は能力の調整のために来たから、途中で上層部の研究担当のところへ向かっていた。俺は…


「今日も楽しい訓練だ!!」











 国軍対組織犯罪特別機動隊本部 -科学班研究室-


 Xは紅蓮と別れた後、一人階段を上り、研究室の扉を開けた。

「よ、ひかる


 部屋の中は白衣で身を纏った多くの科学班員が実験や研究で忙しそうにしている。その中で、座ってパソコンや多く書類と向き合っている少し髪の長い男は振り返らずにXに言葉を返す。

「久しいね、X。元気にしてたかい?」

 爽やかで澄んだその声は、子供のような純粋さや、何もかも見透かしているような不思議な雰囲気を含んでいる。


「ああ。ここの所、俺の活躍が増えたこと以外、特に変わりはないよ。」

「はは。見たよ、ニュースめでたいね。」

 光の返答の声に、言葉通りの感情を感じない。


「ここのところ、国特隊全体が忙しかったからな。俺もお前も予定が合わずで、調整もかなり期間が開いちまった。さっさと終わらせたいし、さっそく頼むわ…」

 面倒ごとを終わらせたいXはけだるげにそうこぼした。


 その言葉を聞いて待ってましたと言わんばかりに光が振り向く。

「OK、今すぐ取り掛かろう。」

 眩しいほど輝いているその瞳は、科学者の目そのものと言っていいだろう。


 光はパッドや針など、調整器具をXの体に取り付けながら問いかける。

「ところで、最近君のところの弟子はどうだい?」


 仰向けに転がるXは天井を見上げたまま自慢気に返す。

「紅蓮はすげえよ。あれは逸材ってやつだ。数年後には俺を追い越すかもな。」

「へぇ。いつかする彼の担当もしてみたいね。」

「紅蓮の他にも今の下は優秀な奴が多いからな、ホントに頼もしいよ。」

 Xはいつもより機嫌がいいのか、嬉しそうに話す。光もXの話を聞きながらどこか誇らしげだ。


「そういえば、例の件考えてくれたかい?」

 会話の中で光は問いかけた。

「ああ、ありがたいんだけどな、俺はやっぱり今の氣だけで十分だわ。ほかにも逸材はいるわけだし、俺以外でもいいんじゃないか?」

「君ほどの逸材が今後現れる保証はどこにもないんだけどなぁ。まあ仕方ないね…」

「それこそ俺は、紅蓮とかいいと思うぞ。」

「実力的には可能性があるけど、彼は危険すぎるよ。指導者の君が一番理解してるだろ。」

「まあ、お前ならそう言うと思ったよ…」

 光は真剣な話をしているつもりだが、Xはそれとは程遠い感覚で話す。


 検査、調整が終わり、光はXに取り付けた器具の数々を外す。

「うん、バイタルも全て正常だ。君の中のいきも問題なし。流石大英雄、自己管理も完璧だね。」

「おい、あんまり褒めるな。調子乗っちゃうだろ!」

「調子乗っていいくらい君は強いだろ。」

「ハッ。よく分かってんじゃねえか。」

 あまりにも自信に満ちたXのその発言に光は笑いをこぼす。


 器具を片づけながら光はあることを思い出し、部屋を出ようとしたところで、光は思い出したことを口にした。

「一応伝えておくけど、最近どうやら一般家庭でも氣による事故が増加しているらしい。普段使い慣れていない要素の氣で家事をして怪我とかしないでくれよ?」


 Xは少し固まって苦笑いを浮かべた。

「お前、俺をなんだと思ってやがる…」

 そうこぼして、Xは研究室を後にした。










 国軍対組織犯罪特別機動隊 -【ほむら】第5小隊 訓練室-


「おっはよーーー!」

勢いよく部屋に入ったが誰も反応してくれない。それぞれが訓練に励んでいる。俺も対人格闘の訓練を始めようと思った矢先で、後ろから衝撃を感じ、俺は前に倒れた。


「入口に突っ立ってんじゃねえ、邪魔だ。」

火華ひばな、てめえ…。何しやがる。」

俺を蹴ったのはこいつみてえだな…。

「何って、軽く蹴っただけじゃねえか。こんなので痛がってるのか?」

「いつも通り口だけはいっちょ前だな、今日こそ決着つけるか?」

俺は立ち上がって荷物を放り投げる。今日こそこいつのムカつく面を徹底的にぶん殴ってやる。


「また始まったぞ!!」

「紅蓮と火華のライバル対決だ!」

「いいぞー!やれー!」

「俺は紅蓮に晩飯」

「僕は火華」

いつの間にか訓練中だった第5小隊の隊員たちが集まって野次馬ができている。これはチャンスだ…。俺の強さをたとえ下っ端とはいえ組織の人間に思い知らせることができる。


「教官が来る前に終わらせてやるよ、火華。」

「紅蓮、俺の方が強いってこと、今日でようやく認めることになる。」

俺は火華を強く睨む。同じ視線が向こうからも返って来る。


野次馬たちの声が重なる。

「始めるぞ!せーー…」


『ブー!!ブー!!ブー!!ブー!!ブー!!』


どでかい警報が鳴り響いた。

「なんだ!?」

「今からだってのに!」

「やべえ…やべえよ…!!」

「おい!俺たち英雄がおびえてどうする!?」

「皆静かにしろ!」


野次馬たちは混乱して騒ぎまくっている。俺と火華はお互いを睨んだまま意識を警報に向けている。先ほどまで俺たちがお互いに向けあっていた敵意は、突然降ってきた任務への集中へと変わった。


『推定被害レベル4.5。【さつ】、並びに【なぎ】の第3小隊員は至急出動。現場は現在地より北東へ500m。非常に至近距離での犯行だ。我々への宣戦布告の可能性もある。民間人の安全確保を最優先に、鎮圧を命ずる。』


……

「俺らじゃなかったな。」

「他部隊だし、しかも第3だよ。もし俺たちだったら…」

「情けねえけど安心しちまった…」

「いやーでもさっきの続きやるって雰囲気でも…」

「ん、いやあれ??あいつら、どこに行った…?」











放送を聞いてすぐに飛び出してきて正解だった。被害レベル4.5に2部隊の第3小隊を動かすとか、上のジジイたちはどういう判断してるんだ?確かに、ここに来るまでにかなりの数の避難者とすれ違った。規模的にはそこそこのものかもしれない。しかしだからこそ迅速な対応が求められるというのに、あの無意味な大人数での出動命令はなんだ?浮かんでくる苛立ちにさらに苛立ちを覚え、俺は現場へ向かう足を速めながら問う。


「で、お前なんでいんの?」

「は?そりゃこっちのセリフだ。帰って大人しくしてろ。」

横で走ってる火華はなんともまあ機嫌が悪そうに吐き捨てる。


「あのなあ、これは俺の手柄になるチャンスだ。邪魔すんじゃねえ。」

「紅蓮、お前と同じこと考えてるこの事実が心底残念だ。」

認めるのは気に食わないが、こいつ、実力だけは本物だ。俺もこいつも問題行動で昇級できなくなっているらしいが、強さなら最低でも第3クラスはあるはずだ、足を引っ張ることはねえだろう。


現場にたどり着くと30人余りの武装した男たちが俺の視界に入った。リーダーのような男が震えながら呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。


「死にたくない…なんで俺らが…氣を宿した英雄に勝てるわけがないだろ……!」

なるほど、やはりReMONOレモノに脅されて傘下に入ったテロ組織か。


「火華、あいつら氣を宿していない。」

「っぽいな。まあこんな大爆発起こして町破壊してんだから容赦しねえが。」

「当たり前だ。さっさと終わらすぞ。」

「紅蓮、拘束した人数で勝負な。」


先ほどのリーダーのような男が俺と火華の存在に気付く。俺ら国特隊の到着で絶望の表情を浮かべたが、すぐにニヤニヤと笑い出した。

「ラッキー…第5じゃねえか…。お前ら!ワンチャンあるぞ!!」

部下のやつらもそれに呼応するように、俺らの制服を見て士気を高めるために叫びだした。


俺はその様子を見ながら黙って炎の氣を右の拳に集めて火を発現させた。一方の火華は両足に火を発現させている。


奴らが銃口をこちらに向けようとした瞬間、俺と火華は同時に地面を蹴り、一瞬で奴らとの距離をゼロにした。


「フッ!!」

「ガハァッ!」

俺の右フックが一人の腹に突き刺さった。火を纏っているため、その傷の痛みは通常の拳のそれではない。火華も自慢の足技で一人は落としたようだ。

「おい!!そいつ俺がやる予定だったんだぞ!」

「は?知らねーよ。」

奴らは一瞬の出来事に混乱して反撃までに一瞬の時間を要した。でもな、俺と火華には一瞬あれば十分なんだよ。


「1!2!3!」

「4!5!6!」

テンポよく奴らを無力化できている。やはり第3クラスなら少人数でも問題なかったってことだ。後で上官に文句言いに行こう。そんなことを考えて戦っていると俺の視界にあるものが飛び込んだ。年は4、5か。女の子が泣いている。


「あのガキ…!逃げ遅れたのか……!!」

まずいことに敵のうちの一人の照準がそのガキに合っちまった。まずい、間に合わね…


「ズドン!!」

鈍い銃声が鳴り響いた。しかし、その鉛玉が貫いたのは直前に入り込んだ火華の脇腹だった。


「ッッ!グワァァァーー!!」

俺は銃を撃ったクソ野郎をぶん殴って火華のもとへ行く。

「出血は多いが体の中心からはズレてるな…流石だ、もう少し耐えてくれ。」

火華は答える代わりにガキを背中で守るように強く抱きしめた。


「はは…やっぱりラッキーだ!第5は雑魚だ!いけ!!」

残りのやつらからの追撃からも守り切れる保証はない。


しかし次の瞬間、やつら全員を、水でできた縄のようなものが縛り上げた。その発生源を見ると【颯】と【凪】がようやく到着したようだ。


何とか助かったが…遅すぎる。俺らが無断出動で先に来ていなかったらこのガキは間違いなく死んでいた。…ふざけてる。どうせこのまま帰っても、ガキを助けたことを無視して、上のクソジジイ共は俺らに罰則を与えてくる。しかもそれでいて、国特隊はこのクソテロリスト達を生かすだろう…。


ReMONOの情報を探るための捕縛?こんな下っ端から得られるものなんて何があるんだ…。ふざけやがって、このゴミ共は生かしちゃダメなんだよ!!!!

俺は周りの電柱や建物の壁を使って一つの家の屋根に上る。

「…許さねぇ。」

【颯】と【凪】の奴らが俺の存在に気付いたようだ。

「あいつ…【焔】の第5…!?なんでここにいるんだよ!?」

「何してる!!早く降りろ!!」


俺は深呼吸をしながら意識を集中させる…

「おい!何をするつもりだやめろ!!」

俺の拳を纏う炎が大きくなるのを見て下にいる国特隊のやつらやあのクソ野郎どもが叫んでいる…。俺は黙って屋根を蹴り、空中から拳を振りかぶった。


「やめろおおおおおおお!!!!!」


「死ねぇぇぇぇ!!!!」


大きすぎる爆音が耳を突き破った次の瞬間、俺の意識は闇へと落ちた。

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2026年1月11日 20:00 毎週 日・木 20:00

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