ふかしぎ町

紅瑠璃~kururi

プロローグ

 私は如月きさらぎなづこ、32歳。

  兵庫県と京都府の境にある深信貴ふかしぎ町に引っ越して来てそろそろ1年が経つ。


 ちょっと意味深な町名なので、知り合いに話すと一度は聞き返される。


 「『ふかしぎ』って、あの『不可思議』?」


 そして、「ふかいの『深』としんじるの『信』と…」と説明することになる。


 もともと職場の近くの賃貸マンションに住んでいたのだけれど、ペット可のマンションを探していたら、この町にちょうどいい物件があったのだ。

 最上階の5階で、ルーフバルコニーほどではないが広めのベランダがついていて、ペットを遊ばせたり、植物を育てたりするのにも良さそうだった。

 通勤には1時間近くかかるものの、ウェブデザイナーという職業柄、月に何度か出社すれば在宅作業もOKということで、ここに決めた。市内から距離があり、その分安い、というのも決め手のひとつだった。


 とうとう分譲マンションを購入してしまったわけで、なんとなくずっと独りで生きていく運命を感じたりもした。けれども、周りにそういう女友達も何人かいるので、色々相談しているうちに、あれよあれよという間に購入することになったのだった。


 「ペット連れとかなんとか言ってるけど、ほんとはどうなの?」と探りを入れてきたりする友達もいるけれど、残念ながら痴情のもつれ的なものは一切ない。そこまで情熱的でないというのは良い事なのか悪い事なのかよくわからないけれど、理由があってペットを飼うことになったのは事実だ。


 「母親が実家からシニアマンションに移ることになって、ペットを預かることになったのよ」と私は真面目に答える。


 期待外れの答えに、「ふーん」という表情で友達はアイス紅茶のストローをもてあそぶ。


 実家で一人で暮らしていた母は、65の時に転んで足を骨折してから急に気弱になった。というか、それまで何となく楽観的に考えていた老後というものについて少し不安を覚えるようになったようだ。一人娘の私は家を出て結婚もせずに働いているし、頼ることもできないだろうな…と。

 ということで、亡き父が建てて母と私に残してくれた京都の実家を売って、母のシニアマンションの購入費用と生活費に充てることにした。私の新居の購入の際にも贈与税の範囲内でいくばくかの金額をいただいた。

 その代わりに、母が可愛がっていた小型犬のパピヨンの面倒をみることになったわけだ。私も動物好きなので喜んで引き受けた。



 そして、この友人ともまたあのやり取りだ。


 「それにしても、ふかしぎ町って不思議な名前よね」と彼女。


 「漢字にしてみれば、そうでもないんだけどね」と私。


 「なづこの苗字も『きさらぎ駅』の都市伝説を思い出すし… それに、名前は『鬼滅の刃』みだいだし」


 「ねずこ?それは初めて言われたわ」と私は少し笑ってから続ける…


 「でもね、深信貴町に引っ越して来てから不思議なことに遭遇することが多くなったかも…」


 「なに?なに?」眉をひそめながらも期待心があらわな彼女。


 そして、私はあるエピソードを語り始めるのだった…


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/822139842852211916


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