共通ルート 一
艱難辛苦を乗り越えたどり着いた、日本チャンピオン決定戦も大詰め。
巨大なアリーナの中央に設置されているステージに、二人の男が向かい合っている。
頭上から煌々と照らしつける照明の光が眩しく輝き、相手の顔も見えない。
ハッキリ見えるのは、間にあるテーブルの上に並べられたカードだけだ。
そんな大舞台に俺――鳴海結翔(なるみ ゆうと)は立っていた。
《白熱のカードバトルもついに大詰め!全国1億人のバトラーの頂点に立つのは無敗のチャンプか!はたまた期待の超新星、鳴海結翔くんかー!》
アナウンサーの声がスピーカーを通して響く。
期待の超新星。なるほど、悪くない響きだ。
「ここまで私を追い詰めるとは……やはり天才か」
「チャンピオン、お前の不敗神話もここまでだ!いくぜ俺のターン…聖剣ホーリーサンダーフレイム!」
俺は手札に温存していた最強の切り札を、ここぞとばかりに叩きつけた。
……ん?こんなカード入ってたっけ?
《決まったー!カウンター不可能な最強カード!チャンプに二十点のダメージで決着だー!》
《ここに新チャンピオンが誕生!日本一を制したのは期待の超新星、鳴海結翔くんだー!》
会場のモニターに表示されているチャンピオンのライフがゼロになり、チャンピオンが膝をつく。
「ま、マジ?やった……?俺やっちゃった⁉」
チャンピオンに勝った?夢にまで見た日本一に、俺が?
まったく実感が沸かないまま、会場は今日一番の歓声と拍手に包まれる。
観客たちの狂ったような大声と、どこからか鳴り響くベルの音がうるさい。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
さっきまで対戦していたチャンプ、クラスメイト、幼馴染、ここにたどり着くまでに激闘を繰り広げたライバルたち。
そして。
「おめでとう、結翔!」
照明の逆光で顔がよく見えないけど、俺の最愛の人。
やったんだ。俺はとうとう勝てる男になったんだ……まるで夢みたいだ。
(……翔……!ゆ……ろ!)
「みんな、ありがとう!ありがとー!」
歓声とベルが一段と大きくなっていく。
(……きろ、結翔!)
ベルの音がうるさい。邪魔だ、今いい所なんだから――
「起きろ!結翔!」
突然、一際大きい母親の声が鼓膜を強く揺らす。
直後、頭に強い衝撃が走ると、途端に世界は真っ白になっていった。
♢♢♢
「うっへへ、チャンピオン……あれ?」
「起きろこのタコ!」
再度頭に衝撃を受け、視界が一気にクリアになる。
目の前には。
「知ってる天井だ……」
おかしい。俺は確かにステージの上にいたはずなのだが。
そこには巨大な照明も無い、見慣れた自室の天井がしっかりと見えていた。
「あんた入学式から遅刻する気?」
「入学式……?あぁ!」
母の言葉で我に返る。
今日は高校生活初日、入学式当日だ。
つまり、さっきまでのチャンプとの激闘と、俺が掴んだ日本一は、夢みたいではなく。
「夢か」
「いいから早く着替えなさい」
それだけ言うと、母は部屋から出ていった。
ううむ、せっかくいい夢だったしもう少し夢の世界にいたかった。
少々残念な気持ちではあるが、時間が無いのは間違いないようだ。
時計を見やると待ち合わせまであと二十分しかない。まだ覚醒しきっていない身体に鞭を打ちながら、着慣れない制服に手を伸ばした。
「いや、冷静になったらどう考えても夢だな」
待ち合わせ場所へ向かいながら、今朝見た夢を振り返る。
冷静に考えてみると、聖剣ホーリーサンダーフレイムってなんだ。属性過多だし絶妙にダサいし、カードとしての性能もおかしすぎる。
そもそも、俺が日本一になんて。そんなことあるわけが無いのに。
俺が夢の中でプレイしていたのは、アビリティカードバトル――通称アビカ。
数十年前に発売されたそれは、世界の常識を大きく覆した。
最新の科学技術を取り入れ、カードのグラフィックを専用の機械で立体化する装置を大きな大会で導入したことで、ルールが分からない人でも視覚的に対戦を楽しむことができたり、全国での対戦結果をリアルタイムで反映してのランキングなど、それまでのトレーディングカードとは一線を画す存在となった。
ホビーでありながらも、競技としての熱さや奥深さ、観戦しても熱狂できるドラマ性など多くの魅力を兼ね備えたそれは、瞬く間にプロリーグが設立され、その賞金額からユーザーも激増。
徐々に全国の学校にも部活動として普及していき、学生限定大会は夏の風物詩に。年々ユーザーは増え続け、俺が生まれた時には、既にアビカは社会の一部となっていた。
ホビーアニメみたいにアビカが世界の中心になってるなんて訳じゃないが、少なくとも俺らの世代じゃ必ずと言っていいほど遊んだ経験はあるだろうし、小中学生の夢の職業アンケートの第一位はここ数年ずっとアビカのプロ選手だったりする。
最近じゃ何かを決めるのアビカの勝敗用いたり、ランキング上位の経験があれば受験や就活の際に一定の思考力や能力があると判断されたりなど、アビカの強さは一つのステータスになってきてる。
あと数年で政界にも影響を及ぼすのでは、なんてコメンテーターが言うくらいには、社会的な影響力は増し続け、趣味にも仕事にもなる一大コンテンツになったわけだ。
「アビカの成り立ちと社会、なんてテーマの作文が入学前の宿題で出るぐらいだもんな……」
自分の書いた作文を一応見直ししながら、俺は待ち合わせ場所である駅前広場に向かっていた。
この春から晴れて高校生となったわけだが、同じ高校に進学した幼馴染が数名いる。
割と近所に住んでるから、とりあえず一緒に行こうってことになってたのだが……。
俺が寝坊したこともあり、広場にはもう俺以外の二人が揃っていた。
「おはよう結翔!新しい制服も似合ってるね!」
そう言って駆け寄ってきたのは久遠白栞(くおん しおり)だ。
ふわっとした黒髪のボブにぱっつん前髪。顔周りの髪を後ろに流して髪留めで纏めており、整った顔がより強調されている。
同年代の誰が見ても可愛いと言うだろうルックスと屈指のアビカの実力で、SNSではインフルエンサーとしても人気の存在だ。
最近じゃショップでサインをねだられる事も増えてきたらしい。
「結翔、ギリギリだったじゃん。寝坊?」
こっちは燎千夏(かがりび ちなつ)。
長めの赤髪を後ろに束ね、ポニーテールにしているが、本人には特にこだわりは無いらしい。
ヤンキーみたいな口調で喋る上に、目つきが鋭いせいで、中学では番長などと呼ばれていた。
たまにケガをしていたのも、噂に拍車をかけた原因だったのだが……。
「いや、悪い。ちょっと日本一になってきたんだが、思ったより長引いちゃって」
「寝坊だね」
「寝坊だな」
夢の中の出来事とはいえ、決して嘘は言ってなかったのだが、付き合いの長いこいつらには当然バレているわけで。
結局俺は遅れた罰として、俺は駅まで二人の鞄を持つこととなった。
平日朝の電車に乗るなんて初めてのことだ。ニュースで見る満員電車を想像して身構えていたが、そこまで都会でもないからだろうか。車内は少し肩が触れる程度の混雑状況だった。
「にしても、結翔と白栞が同じクラスになってて良かったぜ。主に白栞の精神衛生的な意味でな」
「私も本当に良かったよ。主に先生方の身の安全的な意味で」
白栞から何やら物騒な言葉が聞こえてきたが、冗談に聞こえないから本当にやめてほしい。電車の中だぞ。
クラス分けは事前に発表されており、俺と白栞、千夏は見事三組になっていた。
同じ中学の他のやつらは別のクラスに数人ずつ配置されていたこともあり、恐らくバランスよく振り分けられているのだろうが、よくこの三人で同じクラスになれたものだ。
よもや本当にこいつが何かしたのでは、と勘繰ってしまう。
「クラス分けの発表まで毎日神社に通った甲斐があったかな?一年間よろしくね、結翔!」
そう言って白栞は俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
「バカ、やめろ!くっつくな!」
「おやおやー?照れてる……これは、脈アリ⁉」
「ちげーよ!」
こいつは昔からスキンシップが多かった。
成長期に入り、だんだんと柔らかくなっていく幼馴染の感触に戸惑いと羞恥が芽生えるようになっても変わらず、むしろ俺の反応を楽しんでいる素振りさえ見える。
年頃の男子には本当に毒なのだが、こいつは分かっているのだろうか。
何とか白栞を引っぺがすと、本人は頬を膨らませて不満げな表情を浮かべていた。
「ったく……。まあ、よろしくな白栞。あと、千夏もな」
「アタシはオマケか?あと白栞、公共の場で毎回くっつくなよ」
「ぶー。世間はカップルに冷たいよー」
頬を膨らませ、千夏に抗議する白栞。千夏は慣れた様子でスルーしている。
「白栞、俺たちは幼馴染であって、カップルなんかじゃないからな?」
いやほんとに、別に付き合ってなんかいないのだ。
俺たちはあくまで幼馴染であり、親友だ。ただ、白栞はそうは思っていないようで、こういった発言を頻繁にしてくる。
とにかくこの状況をなんとかしようと、俺は一縷の望みを託して視線を千夏に向ける。
「こっち見んな、バカップル」
どうやら頼みの幼馴染も助けてはくれないようだ。いつかこいつのファンに刺されないことを願うばかりである。
いつも通りくだらないやり取りをしてると、時間が過ぎるのも早いものだ。
電車から降りて歩いていくと、いつの間にやらこれから三年間通う学舎が見えてきた。
今日から俺たちが通う衣川双葉高校は、市内にある高校の中では一番家から近いのだが、それでも電車に揺られて十分と、最寄駅から高校まで歩いて十五分。
中学の頃は五分もかからなかった通学時間が数倍に伸びている。
当然、家を出る時間も早くなってしまい、朝の苦手な俺には過酷な毎日となるわけだが。
「ほら結翔、ぼーっとしてないで行こ?」
「おう。また三年間、よろしくな」
この腐れ縁の幼馴染たちと一緒なら、きっと悪くない日々になることだろう。
♢♢♢
高校と言っても、校舎や雰囲気は中学とはそう変わらないものだ。入学初日の感想はその程度だった。
これが私立とかならまた違うのかもしれないが、公立高校と中学にはそんなに大きな差は感じられなかった。
入学式も問題なく終わり、今は教室で担任の先生が挨拶中だ。
「――次に、部活動について。基本的に全員何かしらの部活に所属してもらう。部活紹介は今週末の予定だが、部活動の一覧は今回したプリントに書いてある。既に決まっているという場合は、部活紹介より前に入部届を持ってきても構わん。また、体験入部についてはプリント末に記載があるからそれを読んでおいてくれ」
この学校は部活動の参加が義務付けられている。
俺たちはもう決まっているから良いが、そうじゃ無い人は部活紹介や体験入部を経て所属する部活を決めなければならない。
「じゃ、伝達事項は以上だ。次は各自の自己紹介をして、今日は解散。三十分は教室に残っていても構わんから、今のうちにクラスメイトと交流を深めておくようにな」
「結翔、入部届、今日出しに行っちゃう?」
一通りの自己紹介が終わり、自由時間になった途端、白栞が話しかけてきた。
「どっちでもいい。てか白栞、何だよさっきの自己紹介は」
こいつは入学早々、とんでもない自己紹介をやらかした。俺はそれに巻き込まれたのである。
「久遠白栞です。ゆくゆくは鳴海白栞になる予定です。趣味はアビカ、好きなものは結翔です」
「お前よく入学早々それやったな」
俺には到底信じられないメンタルだ。そんな電波な自己紹介したら間違いなくクラスで浮く。
幸い白栞は既に知名度も高く、配信などでも事あるごとにそんなことを言ってるものだから、別に周囲がドン引きって訳じゃなかったが。
「後から自己紹介する俺が恥ずかしいんだよ」
「照れないでよダーリン」
「うるせえよ」
こいつのこのキャラは何とかならないものか。
「おいバカップル、わざわざアタシの席まできてイチャつくのは一体どういう嫌がらせだ……?」
千夏が鋭い目つきでこっちを睨んでくる。何となく、俺と白栞は千夏の机の前に立って雑談していた。
「違うぞ千夏、俺らはカップルじゃない。俺たち三人はただの幼馴染だし、お前もそれは分かってるだろうが」
「……チッ」
弁明に対して舌打ちで返答してくる千夏。
どうやら今日の千夏はご機嫌ナナメらしい。環境の変化で疲れているのだろうか。
「で、入部届だけど……どうせ出すんだし、今日でいいかなとは思う」
本題が完全に流れないうちに、話題を仕切り直した。
部活動が強制である以上、俺たちに選択肢はないわけで、それなら早い方が良いだろうというのが俺の考えだ。
「じゃあ、一緒に出しに行こ!ここのアビカ部、現二・三年生はそんなに多く無いみたいだけど……強い人がいるといいね」
「白栞レベルは難しいだろ。部活でやるなら、最低でも関東地区大会くらいまでいかないと満足な相手はいないんじゃねーかな」
白栞の言葉に千夏が返す。俺も同意見だ。
白栞は、ハッキリ言って天才というやつだ。
小さい頃からアビカの実力はその頭角を表し、地域新聞からローカルテレビ番組へ。そしてネットを通じて全国へと、その実力を確かに広めていった。
中学生にもなるとその容姿にも磨きがかかってきて、〈天才美少女アビカバトラー〉なんて呼ばれ始めた。
白栞も個人的にSNSを積極的に動かし、その知名度は更に広まっていった。
本人曰く、「私の強さや知名度なんてどうでもいいけど、将来を考えたら有名な方が役立つから」ということで始めたらしい。
まあ、実際に受験や就職にも有利に働くだろうし、プロを目指すなら今からファンがいた方が、いざプロデビューとなった時にスポンサーの食いつきも違うだろうしな。
本当ならもうちょっとキャラを作ってアイドル路線も取り入れたらファンは更に増えただろうに、こいつは事あるごとに
「今日はダーリンとクレープ食べてきた!」だの、
「ダーリンとデッキ調整中!」だのと意中の人がいるような発言をやたらするもんだから、特定のファン層を逃している。
まあ、おかげで厄介なファンが少ないから、俺としても安心なのだが……。
それでも根強いファンが多い理由は、やはりその卓越した腕前なんだろう。
こいつが同年代のプレイヤーに負けることはほとんどない。
そりゃカードゲームだし、俺でも百回も挑めば一回は勝てるだろうが、それも色んな噛み合いが奇跡的に起こった時くらいだ。
中学の頃に参加した公式戦では、全国大会でbest8。最後は相性が不利な相手に当たった上に手札も良くなく、優勝は叶わなかったが……。
ハッキリ言って、そこらの部活の人間とは圧倒的にモノが違うのだ。
「ま、俺らが入るんだし、レベルとか関係なく楽しめるだろ。今年こそお前に勝ち越してやるからな!」
「うん!結翔なら絶対私より強くなるよ!」
何の疑いもないような眼差しで俺を見つめる白栞。嬉しいがその根拠はどこから来るんだ?
「結翔、今年の戦績でも白栞に五十連敗中じゃなかったか?」
「言うなよ、悲しくなるだろ」
千夏に突きつけられた現実に、俺は泣いた。
「君たち、カードの部活に入るの?」
ふと後ろから声をかけられて振り向く。
クラスの女子だ。スラリと伸びた手足が、立ち姿を凛々しく見せている。何より、緑がかった艶やかな黒髪が印象的な子だった。
自己紹介で顔を見たのはさすがに覚えているのだが、確か名前は……何だったか。
「うん、私たちはアビカ部に入るよ。桂木さんも?」
フリーズしてしまった俺と違い、白栞がすぐに名前を呼ぶ。
そうだ、この子は桂木楓(かつらぎ かえで)さんだ。
流石に一度に三十人もの自己紹介を聞いても覚えきれないと思うんだが、白栞はよく覚えてたな。
「席、私の前だからね」
「勝手に俺の心を読むな」
「あはは、仲良いんだね。……僕も、カード部に入ろうかな」
「桂木さんはアビカやってるの?」
正直に言ってしまえば、アビカのことをカードと呼んでいる時点で、あまり詳しくなさそうに見えた。
まあ、もはや世間的にはカード=アビカと言っても過言ではないが……。
「昔、兄がすごいハマってた事があって。僕も一緒に遊んでたよ」
「ってことは、今はやってないんじゃないのか?」
「うん、でもカードは家にあると思うし、昔は結構強かったんだ。何より……」
チラリと桂木さんがこっちを見て、目が合った。
「みんなが楽しそうに話してたから。僕も混ざりたいなってね。いいかな?」
その視線は千夏へ、そして白栞へと向かう。
この子はきっと、顔見知りがクラスに居ないのだろう。もしかしたら少し遠くから通っているのかもしれないな。
俺らを見て楽しそうだと思ってくれたなら、仲良くなれるかもしれない。
「良いも何も、部活に入るのにアタシらの許可なんていらねーよ。よろしくな、桂木」
千夏が右手を桂木さんへ差し出すと、桂木さんもそれに倣う。
「ありがとう。改めて、桂木楓です。よろしくね」
「じゃあ楓ちゃんだね、私は白栞。よろしくね」
つづいて白栞とも握手を交わす。
「鳴海くんも、よろしくね」
そう言って、俺にも右手を差し出してくる。
「よろしく、桂木さん」
俺も右手を差し出す。そして、桂木さんの右手と俺の右手が――
「……何やってんの白栞」
――なぜか白栞を介して繋がれ、白栞を真ん中に三人で手を繋いでいるような状態になっている。なんだこれ。
「うーん。友情の橋渡し、かな?」
「関節握手だね」
のんびり笑っている桂木さん。いや、ねえよそんなもん……。
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