おめでとうございます。
押谷薫
おめでとうございます。
【おめでとうございます。貴方は77777人目の祝い人に選ばれました。】
1LDKのマンションに帰ると、そんな紙がドアに挟まっていた。
誕生日すら祝われたことのないゆえか、「祝い人」という文言に心躍った。
宛名のない紙なのだから、奇妙と思うのが普通だと思う。
それでも寂しい俺にとっては、誰かが見られていることが嬉しいと感じる。
ところで「選ばれた」と言っても、どうすればいいのか。
紙の裏を見れば、電話番号とともに「こちらへ空メッセージをお送りください」とある。
俺のスマホから送ればいいらしいが、少し戸惑った。
フィッシング詐欺等で怪しいURLを踏ませることで、情報を抜き取ることがある。
詳しくはわからないが、そうして金銭面で多大な被害に遭う。
しかし、こうも思うのだ
――どうせ何もないんだ。
自宅と会社とを往復する日々。変わり映えのしない日常。
アラフォーを過ぎてから、わかる人生の終着点。
どう生きていても、この先バラ色なんてない。そう思うのだ。
友人知人や親族の繋がりもなく、親の遺産もなく、自身の家庭もない。
ただ緩やかに命を消化していくことしか、選択肢はなかった。
――だったら、この選ばれたチャンスをモノにしたい。
俺はヤケになっていた。それゆえに、誰かから選ばれたことを嬉しく思っていたのだ。
だから手紙の指示通りに、空メッセージを送った。
【おめでとうございます。貴方は祝い人になりました!】
【これから私たちと共に、人を祝いましょう!】
返事は早かった。しかし、祝うと言ってもどうすればいいんだろう。
俺は返事に対し「これからどうすればいい?」と送信する。すると、
【祝ってください】
【おめでとうございます】
訳が分からないが、とりあえず「おめでとうございます」と送信した。
また、反応があった。
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
スマホにメッセージが洪水のように送られ続ける。
気味が悪く、俺はスマホをベッドに投げ出した。
スマホは振動をし続けている。メッセージは止まらない。
ドアがドンドンと乱暴に叩かれ始める。一定のテンポでノックされている。
段々とドアだけでなく、壁や窓にも誰かが叩かれている。
スマホは震える。ノック音は響く。やがて、声が聞こえてくる。
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
【おめでとうございます】
俺はベッドに潜り込む。
恐怖のあまり、まだこの日常に絶望なんてしていなかったことを自覚する。
けれど。どうやらもう遅いらしい。
俺以外いないはずのベッドから、声が聞こえた。
「おめでとうございます」
◇ ◇ ◇
俺は退屈な日々を抜け出し、やりがいのある仕事に就いている。
新しい日常。意義のある人生。今度は誰を祝おうか。
これを読んだ君。
俺と一緒に祝い人になろう。
難しいことはない。ただこう言えばいいんだ。
――おめでとうございます。
おめでとうございます。 押谷薫 @oshitani666
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