第13話:街の噂と新たな影

翌朝、宿屋の食堂で朝食を取る。


昨日の疲れは完全に取れていて、体が軽い。


「おはようございます、奏多さん」


アナスタシアが、笑顔で席につく。


今日は白いワンピースを着ている。戦闘装備ではなく、普段着だ。


エメラルドグリーンの髪が、朝日に照らされて輝いている。


「おはよう。今日は、私服なんだな」


「はい。今日は休息日ですから」


「そうだな」


昨日のワイバーン討伐で、かなり疲労が溜まっている。今日は、のんびり過ごそうと決めていた。


「キュルルル♪」


リューイも、俺の肩で気持ちよさそうに丸くなっている。


朝食は、パン、卵料理、サラダ、それにフルーツ。


「美味しいですね」


「ああ」


食事をしていると——


周囲の冒険者たちの会話が聞こえてくる。


「なあ、聞いたか? あの新人冒険者がワイバーンを倒したらしいぞ」


「マジかよ。A級になって、すぐにワイバーンって……」


「しかも、二人だけでだ。俺たちなんて、四人パーティーでも苦戦するのに」


「あのエルフの娘、めちゃくちゃ美人だよな……」


「ああ。俺も話しかけたいけど、あの男がいつも一緒だからな……」


ヒソヒソと話す声。


「また、噂になってるな……」


苦笑しながら、アナスタシアに言う。


「ふふ、有名人ですね」


「嬉しくないけどな……」


地球では、注目されるといつもイジメの対象になった。だから、注目されることに良い印象がない。


でも——


今は違う。


ここでの注目は、俺たちの実力を認めてくれているからだ。


(少しは、慣れないとな……)


***


朝食を終えて、街を散策することにした。


「どこか行きたい場所はあるか?」


「そうですね……装備屋を見てみたいです。お金もありますし」


「ああ、いいな」


昨日の報酬と素材売却で、金貨170枚手に入れた。二人で分けて、それぞれ金貨85枚。かなりの大金だ。


「それから——服屋にも寄りたいです」


「服?」


「はい。戦闘装備ばかりでは、息が詰まりますから。普段着も、もう少し欲しいです」


「そうか。じゃあ、服屋にも寄ろう」


街の中心部へ向かう。


石畳の道を歩きながら、様々な店を見て回る。


パン屋からは、焼きたてのパンのいい匂いが漂ってくる。


雑貨屋には、色とりどりの商品が並んでいる。


花屋では、美しい花々が売られている。


「奏多さん、あの花——綺麗ですね」


アナスタシアが、赤いバラを指差す。


「ああ、綺麗だな」


花屋の老婆が、にこやかに声をかけてくる。


「お嬢さん、バラはいかがですか? 恋人へのプレゼントに最適ですよ」


「え、あの、私たちは恋人では……」


アナスタシアが、顔を赤らめる。


「そうなんですか? でも、お似合いですよ」


「い、いえ……」


アナスタシアが、困った顔で俺を見る。


俺も、顔が熱くなっている。


「あ、ありがとうございます……」


何とかお礼を言って、その場を離れる。


「恋人、か……」


思わず呟いてしまう。


「え?」


「い、いや! 何でもない!」


慌てて否定する。


でも——


(恋人……アナスタシアと……)


想像してしまう。


アナスタシアと手を繋いで歩く。


デートをする。


キスをする——


「奏多さん、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫! ちょっと暑いだけだ!」


「そうですか……?」


アナスタシアが、不思議そうに俺を見つめる。


***


最初に向かったのは、防具屋だ。


「いらっしゃいませ……おや、あなたたちは!」


店主が、目を輝かせる。


「ワイバーン討伐の英雄たちじゃないですか!」


「ええ、まあ……」


「いやぁ、すごいですね! 若いのに、A級でワイバーンを倒すなんて!」


店主が、興奮気味に話しかけてくる。


「ありがとうございます……」


「それで、今日はどのような?」


「新しい防具を探しています」


「なるほど! でしたら、こちらをどうぞ!」


店主が、奥の部屋へ案内してくれる。


そこには——


「これは……」


美しい鎧が、いくつも展示されていた。


「こちらは、【ミスリル製軽鎧・改】。以前お買い上げいただいたものの上位版です」


銀色に輝く鎧。より軽量で、魔法防御も高そうだ。


「それから、こちらは【エルフ専用・森の守護者】。エルフ族のために特別に作られた鎧です」


エメラルドグリーンの鎧。アナスタシアの髪の色に完璧に合う。


「試着してみますか?」


「はい」


アナスタシアが、試着室へ入る。


数分後——


「どうでしょうか……?」


扉が開き、アナスタシアが現れる。


エメラルドグリーンの鎧に身を包んだ姿は——


息を呑むほど美しかった。


鎧は体のラインに沿って作られていて、アナスタシアの細い体型を美しく際立たせている。胸元には、精霊の紋章が刻まれている。腰回りは動きやすいように設計されていて、戦闘にも適している。


「綺麗だ……」


思わず、本音が漏れる。


「え……?」


アナスタシアが、顔を赤らめる。


「あ、いや……その……鎧が、よく似合ってるって意味で……」


「そ、そうですか……ありがとうございます……」


アナスタシアも、照れている。


店主が、ニヤニヤしながら見ている。


「お似合いですね、お二人とも」


「ち、違います!」


二人同時に否定してしまう。


「ふふふ……」


店主が、楽しそうに笑う。


***


結局、アナスタシアは【森の守護者】を購入することにした。金貨60枚。


俺も、【ミスリル製軽鎧・改】を購入。金貨50枚。


「これで、防御力も上がったな」


「はい。これなら、もっと強い敵とも戦えます」


次に向かったのは、服屋だ。


「いらっしゃいませ!」


若い女性店員が、笑顔で迎えてくれる。


「普段着を探しているんですが」


「かしこまりました! お客様——とても綺麗な方ですね! きっと、どんな服もお似合いになりますよ!」


店員が、アナスタシアを見て目を輝かせる。


「あ、ありがとうございます……」


「こちらに、様々なドレスやワンピースがございます。ぜひ、試着してみてください!」


アナスタシアは、いくつかの服を選んで試着室へ。


俺は、店の外で待つことにした。


(女性の服選びは、時間がかかるからな……)


店の前のベンチに座り、リューイと遊ぶ。


「キュルルル♪」


リューイが、俺の膝の上で丸くなる。


「お前も、大きくなったな」


最初は30センチだったリューイが、今は2.5メートル。


でも、こうして膝の上に乗っている時は、まだ小さな子供のようだ。


「キュゥゥ♪」


リューイの頭を撫でていると——


「お待たせしました」


アナスタシアが、試着室から出てくる。


そして——


俺は、固まった。


アナスタシアは、淡いピンク色のワンピースを着ていた。


袖は短く、白い肌が覗いている。スカートは膝丈で、ふわりと広がっている。胸元には小さなリボンがついている。


髪は、いつもの長い髪を少し巻いて、柔らかい印象になっている。


「ど、どうでしょうか……?」


アナスタシアが、恥ずかしそうに尋ねる。


「に、似合ってる……すごく……」


言葉が、うまく出てこない。


心臓が、激しく鼓動している。


顔が、熱い。


(可愛い……可愛すぎる……)


「本当ですか……?」


「ああ……本当に……綺麗だ……」


「……ありがとうございます」


アナスタシアが、嬉しそうに微笑む。


その笑顔を見て——


(俺……完全に……)


認めざるを得ない。


俺は——アナスタシアに、恋をしている。


***


結局、アナスタシアはそのワンピースと、他にもう一着購入した。合わせて金貨10枚。


「良い買い物ができました」


「ああ」


服屋を出て、街を歩く。


アナスタシアは、新しいワンピースを着たまま。


「奏多さん、何か食べませんか? お腹が空きました」


「そうだな。あそこのカフェにでも入るか」


街角のカフェに入る。


窓際の席に座り、メニューを見る。


「ケーキセットにします」


「俺も、それで」


店員にオーダーする。


しばらくして、ケーキとお茶が運ばれてくる。


イチゴのショートケーキ。甘い香りが漂う。


「いただきます」


二人で、ケーキを食べる。


「美味しいですね」


「ああ」


アナスタシアが、幸せそうに微笑む。


その姿を見て——


(こんな時間が、ずっと続けばいいのに……)


そう思ってしまう。


***


カフェを出て、再び街を歩く。


夕方近くになり、街は夕日に照らされている。


オレンジ色の光が、美しい。


「今日は、楽しかったですね」


「ああ」


「また、こういう日があるといいですね」


「……ああ」


二人で、並んで歩く。


その時——


ふと、違和感を感じた。


殺気——いや、視線。


誰かが、俺たちを見ている。


「……」


さりげなく、周囲を見回す。


人混みの中、一人の男が立っている。


黒いローブを纏い、フードで顔を隠している。


その男と、目が合う——


瞬間、男はさっと視線を逸らし、人混みに消えていった。


「奏多さん?」


「……いや、何でもない」


アナスタシアを心配させたくない。


でも——


(今の男……何者だ……?)


嫌な予感がする。


***


宿屋に戻り、部屋で休憩する。


ベッドに横になり、天井を見つめる。


(あの男……帝国の追っ手か……?)


可能性は高い。


アナスタシアを狙っている帝国なら、街に斥候を送り込んでいてもおかしくない。


「くそっ……」


拳を握りしめる。


(アナスタシアを……守らないと……)


その時——


コンコンッ


ドアがノックされる。


「はい」


「奏多さん、私です」


アナスタシアの声。


ドアを開けると——


先ほど買ったピンクのワンピース姿のアナスタシアが立っていた。


「どうした?」


「あの……少し、お話ししてもいいですか?」


「ああ、もちろん」


アナスタシアを部屋に招き入れる。


椅子に座ってもらい、俺はベッドに腰掛ける。


「それで、何の話?」


「あの……さっき、街で……奏多さん、何か気づきましたよね?」


「……」


やはり、気づいていたか。


「ああ。誰かに見られていた」


「やはり……私も、感じました」


アナスタシアの表情が、不安そうになる。


「帝国の……追っ手でしょうか……」


「かもしれない」


「……そうですか」


アナスタシアが、俯く。


「私が……いるから……奏多さんまで……」


「何言ってるんだ」


俺は、アナスタシアの隣に座る。


そして——


彼女の手を、握る。


「俺は、お前を守るって決めたんだ。追っ手が来ようと、帝国が来ようと——関係ない」


「でも……」


「大丈夫だ。俺が、絶対に守る」


アナスタシアの目を、まっすぐ見つめる。


「だから——怖がらなくていい」


「奏多さん……」


アナスタシアの瞳から、涙が溢れる。


「ありがとうございます……本当に……」


そして——


アナスタシアが、俺に抱きつく。


「!?」


突然のことに、動揺する。


柔らかい感触。


甘い香り。


心臓が、激しく鼓動する。


「奏多さん……私……」


アナスタシアが、俺の胸で呟く。


「私……奏多さんに出会えて……本当に……幸せです……」


「アナスタシア……」


俺も、アナスタシアを抱きしめる。


温かい。


(守りたい……この人を……)


強く、誓う。


***


しばらく、二人で抱き合っていた。


やがて、アナスタシアが顔を上げる。


「すみません……取り乱してしまって……」


「いや、気にするな」


「明日から……また、気をつけないといけませんね」


「ああ。もっと警戒を強めよう」


「はい」


アナスタシアが、部屋を出ていく。


「おやすみなさい、奏多さん」


「ああ、おやすみ」


扉が閉まる。


一人になって——


「はぁ……」


大きく息を吐く。


心臓が、まだドキドキしている。


(抱き合ってしまった……)


顔が熱い。


(でも……温かかったな……)


***


夜、眠れずにベッドで横になっていると——


窓の外に、また影が見えた。


「!」


すぐに起き上がり、窓を開ける。


外を見ると——


屋根の上に、黒いローブの男が立っていた。


「貴様……!」


剣を抜き、窓から飛び出す。


屋根に着地し、男と対峙する。


「何者だ!」


「……」


男は、何も答えない。


ただ、フードの下から冷たい視線を向けてくる。


「アナスタシアを狙っているのか!?」


「……」


男が、懐から何かを取り出す。


それは——短剣。


暗殺者の武器。


「やはり……帝国の追っ手か!」


男が、こちらに向かってくる。


速い。


一瞬で、距離を詰める。


短剣が、俺の喉を狙う。


「くっ!」


【疾風歩】で回避。


そして——


【流水剣】!


連続斬撃を放つ。


でも——


男は、全てを避ける。


「速い……!」


男が、再び攻撃してくる。


短剣が、俺の腹を狙う。


【鉄壁守】!


バリアで防ぐ。


ガキィン!


「……」


男が、距離を取る。


そして——


煙玉を地面に叩きつける。


シュゴォォォッ!


白い煙が、周囲を包み込む。


「くそっ! 視界が……!」


煙が晴れた時には——


男の姿は、消えていた。


「逃げたか……」


屋根の上で、周囲を見回す。


でも、もういない。


「ちっ……」


部屋に戻る。


(やはり……帝国の追っ手だ……)


警戒を強めないと。


そして——


(アナスタシアを……絶対に守る……)

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その者、神羅万象の主につき~取り扱いに注意せよ~ver2 グリゴリ @yokaranumono

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