第4話:初めての魔物との遭遇
森での修行を続けて、数時間が経った。
太陽は、既に頭上高くまで昇っている。空は青く澄み渡り、時折白い雲が流れていく。風が心地よく吹き抜け、木々の葉がサラサラと音を立てる。
俺とリューイは、森の中で様々な魔物と戦いながら、着実にレベルを上げていた。
ブラックウルフの後に出会ったのは——
【グリーンスライム】。全身が緑色のゼリー状の魔物。体長50センチほど。動きは遅いが、酸性の液体を飛ばしてくる。でも、【疾風歩】で回避して、【流水剣】で一刀両断。簡単に倒せた。
【ホーンラビット】。角の生えた巨大なウサギ。体長1メートル。素早く、角で突進してくる。でも、【心眼】で動きを読んで、【烈風脚】でカウンター。一撃で倒せた。
【ポイズンスパイダー】。毒を持つ巨大な蜘蛛。体長2メートル。糸を吐いて動きを封じようとしてくる。でも、【空間切断】で糸を切り、【金剛拳】で粉砕。これも、問題なく倒せた。
戦闘を重ねるごとに、俺の体は戦いに慣れていく。最初は戸惑っていた動きも、今では自然に出せるようになった。【武神術】の技も、次第にスムーズに繰り出せるようになってきた。
そして——
ピロリン♪
またレベルアップの音が響く。
「お、また上がった」
ステータスを確認すると——
+++
【皇 奏多】
レベル:5 → 10
HP: 500 → 1000
MP: 500 → 1000
全ステータス:50 → 100
【スキル熟練度上昇】
・武神術 Lv3 → Lv5
・究極鍛冶 Lv2 → Lv3
・究極時空間操作 Lv1 → Lv2
+++
「レベル10か……順調だな」
「キュルルル!」
リューイも、レベルが上がっている。
+++
【リューイ】
レベル:1 → 8
HP: 200 → 800
MP: 300 → 1200
【スキル熟練度上昇】
・竜王覇気 Lv1 → Lv3
・始祖龍魔法 Lv1 → Lv2
+++
「お前も強くなってるな、リューイ」
「キュゥゥ♪」
リューイは、嬉しそうに俺の頭に乗っかる。今は、肩ではなく頭の上がお気に入りの場所らしい。
アイテムボックスの中身も、だいぶ増えた。
魔石が20個、銀貨が50枚、それに——魔物の素材がいくつか。ブラックウルフの毛皮、グリーンスライムの核、ポイズンスパイダーの毒袋など。
「これ、街で売れるのかな?」
そう思いながら、さらに森の奥へと進んでいく。
***
しばらく歩いていると、開けた場所に出た。
そこは、森の中の小さな広場のような場所。直径30メートルほどの円形の空き地で、中央には大きな岩がある。周囲を木々に囲まれていて、まるで天然の闘技場のようだ。
「ここは……何だろう?」
広場の中央に近づくと——
ゴゴゴゴゴ……
地面が、揺れた。
「!?」
岩が——動いた。
いや、岩じゃない。
それは——
ガバッ!
岩だと思っていたものが、突然立ち上がった。
体高3メートル。全身が灰色の岩のような皮膚で覆われた、巨大な熊のような魔物。
いや、熊ではない。もっと凶悪だ。
鋭い爪。巨大な牙。そして——赤く光る目。
「グオオオオオオッ!!!」
咆哮が、森を震わせる。
鳥たちが一斉に飛び立つ。木々が揺れる。
その迫力に、思わず一歩後ずさる。
頭上のウィンドウに、魔物の情報が表示される。
+++
【ロックベア】
レベル:15
種族:岩熊
属性:土
スキル:
・岩石化(ストーンスキン)
・地震(アースクエイク)
・剛力(ヘラクレスフォース)
+++
「レベル15……!? 俺より5も高い……!」
今まで戦ってきた魔物は、全部レベル5以下だった。
でも、こいつは違う。
明らかに、格が違う。
「キュルル……!」
リューイも、警戒している。頭の上で、小さな体を震わせている。
「大丈夫だ、リューイ。落ち着いて……」
深呼吸する。
心臓が激しく鼓動している。でも、恐怖ではない。
これは——闘争本能だ。
(勝てる……いや、勝たなきゃいけない)
ロックベアが、地面を踏み鳴らす。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
その振動が、足元から伝わってくる。
そして——
「グオオオオッ!!!」
突進してきた。
***
巨体が、信じられない速度で迫ってくる。
3メートルの体が、5秒で20メートルの距離を詰める。
地面が揺れる。木々が震える。
「くっ……!」
【疾風歩】!
風のように、左に跳ぶ。
ロックベアの巨体が、俺がいた場所を通り過ぎる。
ドガァァァンッ!
背後の木に激突する音。
振り返ると——
木が、根元からへし折れていた。
直径1メートルはある木が、まるで割り箸のように。
「やばい……直撃したら、即死だ……」
ロックベアは、すぐに方向転換する。
そして——
「グルルルル……!」
今度は、地面を殴りつけた。
両拳を、地面に叩きつける。
ドゴォォォンッ!!!
その瞬間——
地面が、波打った。
まるで液体のように、地面が波を作る。
「うわっ!?」
バランスを崩す。
これが、【地震(アースクエイク)】か……!
足元が不安定になる。立っているのがやっと。
そこに——
ロックベアの爪が、迫ってくる。
巨大な前足。鋭い爪。
避けきれない——!
「【鉄壁守(てっぺきのまもり)】!」
咄嗟に、防御スキルを発動する。
体の前に、青い光のバリアが展開される。
ガキィィィンッ!!!
爪とバリアが激突する。
火花が散る。
衝撃で、体が5メートルほど吹き飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がり——何とか着地する。
「っ……痛ぇ……!」
腕が痺れる。バリアで防いだのに、この衝撃。
直撃してたら、どうなってたか——
「キュルルル!」
リューイが、心配そうに鳴く。
「大丈夫だ……まだ、やれる……!」
立ち上がる。
剣を構え直す。
ロックベアは、再び突進してくる。
でも——
(今度は、読める……!)
【心眼】を発動。
相手の動きが、スローモーションのように見える。
筋肉の動き。重心の移動。次の動作——
全てが、手に取るように分かる。
右に突進——
そこに、罠がある。
右に避けたら、すぐに左の爪が来る。
だから——
「上だ!」
【飛燕斬(ひえんざん)】!
空中に跳び上がり、ロックベアの頭上を飛び越える。
そして——
降下しながら、背中に斬撃を叩き込む。
「はああああっ!」
ザシュッ!
「グオッ!?」
ロックベアの背中に、一筋の傷。
でも——浅い。
【岩石化(ストーンスキン)】のスキルで、皮膚が硬化している。
「くそっ……硬い……!」
着地して、すぐに距離を取る。
ロックベアが、怒り狂って振り返る。
「グオオオオオッ!!!」
その目が、さらに赤く輝く。
(まずい……本気だ……!)
***
ロックベアが、両腕を振り上げる。
そして——
地面を、連続で殴りつけ始めた。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
地震が、連続で発生する。
地面が激しく揺れる。立っているのが困難。
「うわっ、わっ、わっ……!」
バランスを保つのが精一杯。
その隙に——
ロックベアが、岩を投げてきた。
直径50センチはある岩。
それが、砲弾のような速度で飛んでくる。
「やばっ……!」
【究極時空間操作】!
「時間、減速(スロウ)!」
岩の時間を遅くする。
岩の速度が、スローモーションになる。
その間に——
【空間切断】!
手を振り、空間を切り裂く。
岩が、真っ二つに切れる。
二つに割れた岩が、俺の左右を通り過ぎていく。
「ふぅ……助かった……」
でも——
MPが、結構減ってる。
時間操作は、思ったよりMPを消費するらしい。
「このままじゃ、ジリ貧だ……」
どうする?
攻撃が通らない。防御も限界がある。
なら——
「【武神術】の、もっと強力な技を……!」
頭の中の知識を探る。
基本技だけじゃ、足りない。
もっと——もっと強力な技を——
その時——
頭の中に、一つの技が浮かび上がった。
「これだ……!」
それは——【武神術】の初伝奥義。
【
「でも……使えるのか?」
奥義は、基本技よりも遥かに難しい。
MPも大量に消費する。
でも——
(やるしかない……!)
剣を構える。
深呼吸。
そして——
「リューイ! 援護頼む!」
「キュルルル!」
リューイが、俺の頭から飛び降りる。
そして——
小さな口から、光のブレスを吐く。
ピカァァァッ!
細い光線だが、ロックベアの目を狙う。
「グオッ!?」
ロックベアが、一瞬怯む。
その隙に——
「いくぞ……!」
全身の力を、剣に集中させる。
MPが、体の中を駆け巡る。
そして——
「【桜花乱舞】!!!」
一閃。
二閃。
三閃。
五閃。
十閃。
二十閃——!!!
桜吹雪のような、無数の斬撃。
それが、ロックベアの全身を切り刻む。
ザシュザシュザシュザシュザシュ!!!
「グオオオオオオッ!?」
ロックベアの体に、無数の傷が刻まれる。
【岩石化】の防御を、斬撃の数で突破する。
一撃一撃は浅くても——
二十撃が重なれば、致命傷になる。
「とどめだ……!」
最後の一撃。
全力を込めて——
「はああああああっ!!!」
ザンッ!!!
ロックベアの首に、深々と剣が突き刺さる。
「グ……ガ……」
ロックベアの巨体が、ゆっくりと倒れる。
ドサァァァッ!
地面が揺れる。
そして——
光の粒子となって、消えていった。
***
「はぁ……はぁ……はぁ……」
剣を杖代わりに、膝をつく。
全身から、汗が噴き出している。
MPが、ほとんど空っぽだ。
でも——
「勝った……」
初めての、格上との戦い。
そして——勝利。
「やった……やったぞ……!」
ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪
連続で、レベルアップの音が響く。
+++
【レベルアップ!】
レベル10 → レベル15
【スキル熟練度上昇】
・武神術 Lv5 → Lv8
【新スキル習得】
・桜花乱舞 Lv1
+++
「レベル15……ロックベアと同じレベルまで上がった……」
「キュルルル!」
リューイが、嬉しそうに飛んでくる。
「ありがとうな、リューイ。お前の援護がなければ、勝てなかった」
「キュゥゥ♪」
リューイの頭を撫でる。
ロックベアが消えた場所には——
大きな魔石と、金貨が10枚落ちていた。
「金貨……! これ、銀貨より価値が高いやつだ……!」
それに——
【ロックベアの爪】×2
【ロックベアの毛皮】×1
【ロックベアの魔石(大)】×1
「素材も、いっぱい落ちた……!」
全部、アイテムボックスに収納する。
「これ、街で売ったら、結構な金になるんじゃないか?」
期待に胸が膨らむ。
***
戦闘後、近くの泉で体を洗い、休憩する。
冷たい水で顔を洗うと、疲れが少し取れる気がする。
「ふぅ……」
泉のほとりに座り、空を見上げる。
太陽は、既に西に傾き始めている。
「もう、夕方か……」
時間の感覚がなかった。
戦闘に集中していて、時間を忘れていた。
「今夜は、野営になるかな……」
森の中で、一晩過ごす。
地球では考えられなかったことだ。
でも、今の俺なら——
(大丈夫。魔物が来ても、戦える)
自信がある。
「とりあえず、食料を確保しないとな」
【究極鍛冶】で、簡単な罠を作る。
それを、森の中に仕掛ける。
小動物を捕まえるための罠だ。
「後は……寝床か」
【究極鍛冶】で、テントと寝袋を作る。
イメージするだけで、簡単に作れる。
「便利だな、このスキル……」
テントを設営し、寝袋を中に敷く。
「よし、これで寝床は確保できた」
「キュルルル♪」
リューイも、テントの中を覗き込んで、嬉しそうにしている。
***
夜になり、焚き火を囲む。
罠にかかった、ウサギのような小動物を捕まえて、焼いている。
ジュゥゥゥ……
肉が焼ける音。
いい匂いが漂ってくる。
「うまそう……」
【究極鍛冶】で作った、簡単な調味料をかける。
塩と、ハーブのようなもの。
そして——
「いただきます」
肉にかぶりつく。
「うまい……!」
ジューシーで、柔らかくて、美味しい。
地球で食べていた、冷たい弁当とは大違いだ。
「キュルルル!」
リューイも、自分の分を美味しそうに食べている。
火の光に照らされて、リューイの白銀の鱗がキラキラと輝いている。
「今日は、色々あったな……」
異世界に転移して。
女神様に会って。
リューイと出会って。
魔物と戦って——
「でも……楽しかった」
心から、そう思う。
地球では、毎日が地獄だった。
でも、ここでは——
自由だ。
誰にも縛られない。
自分の力で、生きていける。
「これから……どうなるんだろうな」
空を見上げる。
夜空には、無数の星が輝いている。
地球とは違う、星座。
でも——美しい。
「明日は、街を探そう。人と会って、色々聞かないとな」
「キュゥゥ♪」
リューイが、俺の膝の上に乗ってくる。
温かい。
「一緒に頑張ろうな、リューイ」
「キュルルル!」
火の音。
虫の鳴き声。
風の音。
それだけが、静かな夜に響いている。
俺は、初めて——
心から、安らいでいた。
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