あの時助けていただいた罠です。~引きこもり陰キャが〈化物〉氾濫区域に取り残されたのでトラップ娘と一緒にアパート防衛配信したらバズり散らかしました。ダンジョンと化したホームセンターにも行けたら行きます~
橙山 カカオ
序/1
「っえー……じゃあ……今日の配信はこれで……あざっした」
ゲーム配信を見てくれていた二人の視聴者にお礼を言って、配信を終える。
黒くなった配信画面に俺の顔が映り込んだ。ヘッドホンを外したぼさぼさの髪、数時間ゲームをやり続けていたせいで目つきが少し悪い以外は特徴のない、十九の男の顔。朝から着替えていないグレーのスウェット。軽く目頭を揉んで時計に目を向けると、もう深夜の2時を過ぎていた。
「今日は……寝るか」
くぁ、とあくびを一つ。引きこもりの俺には明日の予定もないが、ミスが増えてきたら寝るのがゲーマーとしての判断というやつだ。部屋の片隅で充電ケーブルにつなぎっぱなしだったスマホに手を伸ばそうと椅子から立ち上がった時だった。
ぴんぽん、とインターホンが鳴る。
「……」
身体がこわばる。
俺の部屋を訪ねてくるのは運送業者だけで、こんな深夜に配達が来るはずもない。それ以外でインターホンが鳴るのは面倒ごとだけだ……営業とか、勧誘とか。NHKにはちゃんと払っているのに。
ぴんぽん、ともう一度鳴った。間違いではないらしい。
覚悟を決めて玄関に向かう。滅多にないことだが、同じアパートの住人が訪ねてきたのなら無視するわけにもいかない。意を決してゆっくりと玄関扉を開くと――
「久しいな、ハル」
俺の名前を呼ぶ、美少女が立っていた。
「会いたかったぞ。……何を呆けているのだ?」
小首をかしげるしぐさが良く似合う、まるで妖精か人形のように可憐な少女だった。
顔立ちは少し強気そうで、瞳は赤い。ゴスロリっぽいフリルがたくさんついたドレスは漆黒。長い銀の髪が、安いアパートの廊下の照明下ですら輝いて見える。頭には、王冠のような小さな飾りを載せていた。
身長は俺の胸くらいまで。幼女というほどではないが明らかに年下である少女に、知り合いはいない。
「……だれ、ですか」
「うむ。そうだな、この姿ではわからぬのも道理。わらわとしたことが礼を失していた。時間がない中ではあるが、改めて挨拶をしよう」
ゴスロリ少女はそういうと、気取った仕草でスカートをつまんで見せた。ドレスには金属製のバネや板などが飾られており、軽く腰を落とす動きに合わせて小さく金属音が鳴った。
「ベアトラップのベアトリーチェ。あの時助けていただいた罠です」
当然だが――罠にも、知り合いはいない。
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