セカイの外はゲームだった。そして世界の過去は残酷だった。~TIME SKIP~

白波空

第1話 ゲームの世界

 テレビを付ければ、ドラマが見られる。


 自販機のボタンを押せばジュースが飲める。


 いつからか、人が「何かをする」ということは少なくなった。


 今や、人は生命活動のほとんどを機械に頼っている。

 風呂、着替え、歯磨き、食事、全て機械によって自動化された社会の訪れだった。



   *


 崩れかけのビル群と、瓦礫の山。燃え盛る炎から上がる黒煙は、空を闇で覆う。空中には、四枚のプロペラがついたドローンの群れ。クローンの機関銃が、地上の人々を薙ぐように襲っている。亡骸が、瓦礫に山に重なる。


 そこは大通り沿いの店の中だった。大衆食堂だったらしい。店の中には椅子やテーブルが散乱していた。アサルトライフルを構えたレアルは慎重に周囲を見渡しクリアリングをする。


 ――敵はいない。


 店の中からは、ガラス張りの壁を挟んで外の大通りが一望できた。上空のドローンがサーチライトで周囲をくまなく照らしていた。


 カラン…………


 店の中に鈍い金属音が響く。レアルの足元、錆びた空缶が床を転がっていた。


 サーチライトの一つが店の前を通った。

 その光を目で追いながらレアルはカウンターを跨いで物陰に隠れる。レアルは腰からナイフを取り出すと、それを鏡代わりにした。ナイフの刃に外の景色が反射する。さきほどのサーチライトは店の前の大通りをゆっくりと横断していた。


 倒す方法は、胴体の小さなレンズに銃弾を撃ち込む以外には存在しない。だからこそ、ドローンと戦うことは大きなリスクを伴いリターンはほとんどない。逃げるが吉だ。


 レアルはドローンが過ぎるのを、このカウンターの後ろで待つよりほかになかった。しかし大通りの上を走るサーチライトの数は一向に減ることはない。そのうちの一つが、突然に店の中へ差し込んだ。レアルの視界は光に包まれた。彼のブロンドの髪がサーチライトの光を反射する。


 レアルは頭だけカウンターから出すとアサルトライフル――M7ライフルを構えた。銃口の先はガラスの壁。店に差し込んだサーチライトは動かない。さきほどまで小さかったプロペラの音が次第に大きくなる。


 それはプロペラによる粉塵の中現れた。下腹部に重機関銃を一機付けた、全幅が五メートルほどのドローン。その胴体についた無数のカメラは、何かを探るようにギョロギョロと動いていた。レアルは息を潜め、引き金に乗せた指に力を込める。同時にドローンの重機関銃の砲身が、レアルの隠れるカウンターに向く。


 その時だった。火薬の爆発音にしてチープな、バンという銃撃音が鳴った。音がした後、ドローンのサーチライトが消え、プロペラの回転数が落ちた。ドローンはそのまま墜落した。


 レアルは目の前で起こった出来事に困惑しつつも、カウンターから飛び出す。レアルはこの時を待っていた。視界の左上に映る『Alive:2』という数字。


 レアルは店内に隠れたを探す。あのドローンを倒した敵を。


 M7ライフルを構えたレアルは、そっと上半身をカウンターから出す。ライフルの銃身を胴体にぴったり接着させ、店の隅から隅まで敵を探した。しかし見当たらない。さきほどのクローンに対する銃撃。ナイフの反射ではどこから弾丸が飛んできたのかまでは掴めなかった。


 ――ならば音の方向はどうだったか?


 レアルはふとそんな思考に至り、さきほどの光景を脳裏に描いた。


 ――そういえば、銃声が店内から鳴ったのなら、サプレッサーが付いていたとしても少しくらい火薬の臭いが残るはずだ。

 しかし火薬の臭いをレアルは感じ取ることができなかった。それはつまり、店内に敵がいないということで――


 レアルは銃口をガラス張りの壁へ向ける。大通りのある方だ。


 ――ドローンの、のさばる外にいることは命取りだ。来るはずがない。


 さきほどの銃声を聞きつけてか、サーチライトの数は先ほどよりもさらに増えている。


 だからこそ、ありえるはずがない。この大通りにその身をさらすのは自殺行為だ。レアルの予測はそんな場合を否定する。しかし彼の眼前に映ったソレは、レアルの予想を裏切っていた。


 バンという静かな銃声。さきほどよりも大きい。銃弾は確実にレアルに胸を射抜いていた。全身から力が抜ける。


 ――ガラス越し。その向こうの大通りには、一人の少女が銃口を向けていた。


 暗闇に呑まれる視界。「これが死か」レアルは思った。

 初めての敗北はあまりにも呆気のない幕引きに終わった。

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