終章後半 そして、芽吹くもの
戦いは、長くはなかった。
オーディンの槍が、運命を貫くたび、
ロキの刃は世界を裂いた。
雷が落ち、炎が走り、
大地は何度も砕けた。
神々は倒れ、
巨人は燃え、
人間は逃げることも、祈ることもやめた。
フェンリルがオーディンを呑み込み、
同時に、オーディンの槍が狼の心臓を貫いた。
ヨルムンガンドは毒を撒き散らし、
トールと相討ちになって海へ沈む。
ロキは、ただ一人、立っていた。
身体は裂け、血は流れ、
それでも、まだ倒れなかった。
オーディンが、最後に残した力で槍を放つ。
ロキは、避けなかった。
槍は胸を貫き、
神は膝をついた。
「……これで、終わりだ」
ロキは、空を見上げる。
燃え落ちる星々。
崩れゆく世界樹。
そして――
あの少年の笑顔。
「……待たせたな」
ロキは、地に倒れた。
世界は、沈黙した。
どれほどの時が流れたのか、誰にもわからない。
炎は消え、
灰は風に運ばれ、
海は静まり返った。
やがて、大地に――
ひとつの芽が顔を出す。
黄金ではない。
緑の、か弱い芽。
だが、確かに生きている。
そのそばに、影が立った。
「……やっぱり、ここだった」
声は、柔らかかった。
赤毛の神ではない。
女神でもない。
ただの――旅人の姿。
芽は、揺れる。
次の瞬間、
誰かが、そこに立っていた。
金でも、少年でもない。
けれど、懐かしい気配。
「遅いですよ」
穏やかな声。
「今回は、待つって決めたんですから」
旅人は、息を呑んだ。
そして、笑った。
「……ああ」
膝をつき、地に触れる。
「今度こそ、離さない」
二人の間に、言葉はそれ以上いらなかった。
芽は、ゆっくりと葉を広げる。
それは、林檎ではない。
もう、与えるためのものではない。
ただ、生きるための命。
世界は、終わった。
そして、始まった。
完
アムブロシアの憂鬱 小野 玉章 @Riisu
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