銃声の中で、眠れ。— Sleep Where the Gunfire Is —
三毛猫丸たま
第1章 Prologue ~出会い~
第1話 After the Dust Storm ~砂嵐のあと~
砂嵐は去っていた。
完全に、というわけではない。
空気の中にはまだ細かい粒子が残り、光を弱めている。
白っぽい空の下、音が断続的に聞こえ始めていた。
乾いた風が、崩れたガードレールの影を通過する。
かつて高速道路だった場所は、今では砂に削られた直線の溝に近い。
路面は割れ、鉄骨が剥き出しになり、どこにも人の気配はない。
その陰に、小さな身体が伏していた。
砂に半分埋もれ、手足は力なく投げ出されている。
赤い髪は砂を含み、硬く絡まっていた。
顔の輪郭は痩せ、肌には乾いた傷が点々と残っている。
呼吸は浅く、不規則。
暗転と白濁を行き来しながら、わずかな感覚だけが残っている。
口の中に、砂の味があった。
舌が動かず、唾液も出ない。
喉は乾き、息を吸うたびに細かい粒が入り込んでくる。
胸が上下していることだけは、かろうじて分かる。
音が、遠くで鳴っていた。
金属が擦れる音か、風が何かを転がす音か。
判別できないまま、また途切れる。
視界の端が、わずかに暗くなった。
影。
そう判断するほどの思考はなく、ただ明るさが欠けたことだけが残った。
砂を踏む音が、近づいていた。
一定の間隔で、重い。
急がず、迷いもない歩き方。
身体は動かない。
指先に力を入れようとしても、応えは返ってこない。
首も、視線も、持ち上がらない。
逃げるという発想すら、浮かばなかった。
音が止まった。
すぐそばで、何かが立ち止まっている。
気配だけがあり、触れられることはない。
数秒か、もっと長い時間か、そのまま動かない。
視界の端に、黒いものが見えた。
ブーツの先だった。
砂に汚れ、擦り減った革。
そこから上は、確認できない。
再び、音が動く。
今度は遠ざからず、周囲を回るように移動している。
砂を踏む位置が変わり、金属が小さく鳴った。
その間、身体には何も起きない。
引き起こされることも、蹴られることもない。
ただ、足音だけが続いている。
空気が、少し冷えた。
視界が滲み、輪郭が崩れる。
音が引き延ばされ、意味を失っていく。
最後に残ったのは、砂がわずかに動く感触だった。
それが風によるものか、別の何かによるものかは、分からない。
意識が途切れた。
(つづく)
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