僕は強くなれない。皆が強くなってくれるだけで幸せなんだ!
まさたす
第1話
「……リーダー、僕そろそろこのパーティー抜けようか?」
テーブルを取り囲み、みんなで楽しく食事をするはずが、今日はみんな会話も少なくうつむき加減だった。
僕はそろそろかなと思ってそう言ったんだ。
みんなが一斉に顔をあげ僕を見た後、リーダーに視線が集中した。
「……え、いや……」
「いいんだよ、僕だけレベル上がらないし、みんなどんどん上がってくし」
僕は13歳のとき、教会で神託を授かった。自分の職業が決まる神聖な儀式だ。
授かった職業は「エル・コンダクター」。
戦士とか鍛冶師とか、変わったところだと祈祷師とかあるんだけど、僕の職業は誰も見たことがなかった。
なにかとんでも無い力があるんじゃないかとか、最初はみんな大騒ぎだったんだけど、特に目立った能力は見つからなかった。
唯一役に立つのが「空間収納」。これだって入る量は少ないし、魔法でも代用できるから特に目新しくない。魔力の消費が無いので、ずっと使えるってぐらいが唯一のいいところ。
実はもう一つスキルがあるけど、これに至っては効果がさっぱりわからない。
ある時野草を取りにいった森で、駆け出しのパーティーに偶然出会った。その人たちは大量の薬草を抱え、大変そうだったから「空間収納」に入れて手伝ってあげたんだ。そしたらすごく喜ばれた。
それ以来「荷物持ち」として冒険の手伝いをしている日々だ。
「ごめん、カノン。君からそう言ってもらえると、すごく助かる……。もう僕らじゃ君を守ってあげられないんだ」
みんなレベルがどんどん上がるのに、僕は全然上がらなかった。
パーティはダンジョンの奥にどんどん進めるようになったけど、徐々にモンスターは強くなってきて、戦闘ができない僕を抱えた状態だと、それ以上進めなくなっていた。
そう、いつも大体このあたりで、僕の限界がやってくる。
最初のパーティ、野草取りで偶然出会ったあの人たちとも、無力を感じてパーティーを抜けた。
「大丈夫だよ! よくあることなんだ。みんなこれから頑張ってね! せっかくだから、最後は楽しくご飯食べようよ!」
僕はそう言って眼の前の肉にかぶりついた。みんなも徐々に表情が緩んできて、思い出話しで盛り上がって、最後にみんなと握手して僕は自分の安い宿屋に帰ったんだ。
次の日僕は教会に足を運んだ。ステータスカードを更新するためだ。
レベルが上がらないのはいつものことなので、それにがっかりすることはもうなくなっていた。
他に気になることがあるからここに来たんだ。
名前:カノン
職業:エル・コンダクター ★☓10
レベル:1
スキル:空間収納、パラゴニア
パーティを抜けるたびにこの「★」の数字は増えていく。
いったいなんなんだろう。普通は職業欄には職業名しか表示されない。僕だけ「★」の数が表示されている。
もう10個になってしまったけど、なにも起こらないのか……
「……はあ、仕事探しにいくか……」
しばらくの間は一人で日銭を稼がないといけない。
正直なところ、自分だけ食べていくには低レベルのクエストでも問題ない。
金額は少なくても、「空間収納」のおかげで他人よりは効率的に稼げるからだ。
ただ他人のレベルが上がるのは見ていて嬉しいので、初心者の人がいたら声をかけようと思っている。
僕はダンジョン低階層に生えている薬草の収集クエストを掲示板から手にとった。
受付係のミーナさんに、その用紙とステータスカードを渡した。
ミーナさんはメガネをかけていて、事務手続きの不備を見逃さない、すこし怖い感じの人だ。
いつも空いているので、僕は決まってミーナさんに手続きしてもらっている。
「カノンさん、またソロになったんですね……」
「あはは、はい……いつものことですから……」
ミーナさんはステータスカードをじっと見つめ、裏返して個人番号を確認した。
そして僕がクエスト用紙に記載した内容と照らし合わせていた。
「では気をつけて」
「はい、行ってきます!」
ミーナさんの声は受付嬢の中では少し低めで、しっかり通る。
みんなはそれが少し苦手みたいだった。
僕にとっては、いくらパーティが変わっても変わらない声だった。
毎日のように通っていたダンジョンに、今日は一人で入っていく。
ダンジョンに入ってすぐ右側には、特に意味もない誰も使ってない小部屋がある。その部屋の壁には解読できない古代文字が刻まれていた。
ずっと前に古代学者が念入りに調査したんだけど、結局何もわからなかった部屋だ。
――その部屋が、今日に限ってぼんやり青白く発光しているように見えた。
僕はそこに大事な用があるような気がして、ふらふらと誘われるように入っていった。
部屋に入ってみると、古代文字が発光していることに気がついた。その中でも正面の壁の少し右側に、ひときわ強く輝く場所があることに気がついた。
長方形に掘られた溝が強くひかり、その中心の冷たい石のくぼみは、なにか見覚えのある大きさだった。
「これ……ステータスカードと同じサイズ? ……」
僕は首から下げたカードをそこになんとなく嵌めてみた。ぴったり嵌った。
「へえ、やっぱり同じサイズだ。昔もあったのかな? このカード……」
その時、岩が大きく転がるような音が響いたかと思うと、後ろの入口が、上部からせり出してきた石の扉で塞がれてしまった。
あわてて部屋を出ようとしたが、カードが壁から離れず、首が引っ張られて身動きができなかった。
僕はカードから伸びる紐を首から抜いて、ため息をついていた。
「こんな入口ちかくにトラップがあるなんて……」
僕は閉ざされた入口をまじまじと見つめていた。だけど何かおかしいことに気がついた。
僕の影が閉ざされた扉にはっきり映っている。
僕はなにかに照らされている?
後ろを振り向くと、カードをはめ込んだ壁の中央にメッセージが浮かび上がっていた。
《レベルアップしますか? はい・いいえ》
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