第二部・前編 ツブレアン自治区にて
第二部 正当性
categorical imperative
都市の理は、瓦礫となり朽ち果てても、なお君たちを生かし続けるのだろうか?
1
静かに走る列車の中。プリン星の青い大気の色が、明るい縁取りの窓のはるか遠くに広がっている。
四人用のベッド。夜行列車。
プリン星はなぜプリンなんて名前なんだろう……。などと、たわいのないことを考えているうちに、車内販売を探しに隣の車両まで行っていたシオンが戻ってきた。
「美味しそうなお菓子があったヨウ。保存のきくものを選んで買ってきたから、みんなで分けて持っておこうヨウ。」
シオンは私たちにおいしそうなショートブレッドを差し出した。
ちゃんと四人分と、予備まで用意してある。
都市を出てから1週間ほどたった。
私たちは今、プリン星の衛星の一つ、ア・ラ・モードを目指して旅をしている。
ア・ラ・モードは、プリン星とアシナガ星、双方の技術と情報が集まる第二の都市。
でも、治安に関しては、プリン星の自治区は、いまはどこも荒れてるけど、ア・ラ・モードはその中でも凄まじいんだとか。
それでも、あちらに行けば、宇宙最高峰の科学研究所や、非正規ルートからの情報がある。
ただ、本当はもっと早く着くはずの旅路が、なぜか大渋滞になっているらしいので、私たちはしぶしぶ、足の遅いこの公営列車に乗ることになったのだった。
このことを思い出すと、いつも憂鬱な気分になる。
それもそのはず、か。 だって、もう同じ電車の同じ部屋に3日も泊まっているのだから。
普段あまり不用心な行動を取りたがらないシオンが、目的もなく部屋を出たのも、この息の詰まった(灰色の!)壁に目をやりたくないからだったのだろう。その心境は、容易に察することができた。
私は力無くそのショートブレッドに目をやり、シオンから受け取ってすぐ封を開けた。
「チョット!今食べてもいいけどね、これは保存食用に買ってきたやつなんだヨウ!」
あわてて静止に入るシオンをよそに、私はそっと、椅子の対岸に座っていた百鳥をみやった。
百鳥も同じことをしていた。
急く気持ちと裏腹に、現実は常に、月に叢雲。
かといって列車を降りることもできず、私たちはまた、灰色の殻の中で飼われているのだった。
この鬱屈とした気分をまとめて飲み込めたらいいのに。私は、最後のショートブレッドのかけらを口に入れた。
そのときだった。
警報の音と、回転灯の赤が、私たちの退屈の上にペンキをぶちまけた。
「警告、警告!全ての乗客と乗務員に告げる!今から緊急着陸姿勢に入る!直ちにその場で安全を確保し、強い揺れに備えろ!」 避難ガイドがどこからか落ちてきた。
「繰り返す。警告、警告!全ての乗客と乗務員に!」アナウンスがいい終わるか、終わらないか_そのぐらいで、列車は大きく傾き、机の上のお茶がひっくり返る。私は咄嗟に自分のトランクにしがみついた。ふと、周りを見ると、シオンは必死にみんなのリュックをかき集めて壁の凹凸の間に押し込んでいた。タテハはそれを上から押さえて、ぐらりと体制を崩したシオンをつかまえた。
「おい、大丈夫か、お前ら!」百鳥が私たちを呼んだ。
「大丈夫そう! でも、荷物が……!」
今度は車体が逆さまにひっくり返った。
私たちは、荷物と一緒に、天井だったものに投げ出された。
揺れが止んで、どこかの地面に列車が不時着した頃にはもう、部屋の中はごちゃごちゃだった。
私たちは、リュックの下敷きにされたタテハをどうにか救出して、アナウンス通りに列車から離れた。
動揺して「一体何があったってばよ!」タテハが声を上げると、動転した様子の乗務員がやっとのことで声を発した。
「わ、わかりません!ただ、整備士の話によると、エンジンの劣化でそこが発火したということです……!」
「じゃ、まだ逃げてない人は…!」
「エルさん! 確認取れました! 全ての乗客の避難が完了したようです!」
私たちは、その知らせを聞いてすぐに、息の続く限り走って列車から離れた。
後ろで轟音がしたあと、熱風が私たちを追いかけてきたのがわかった。
そして、夜になった。荷物を持ってこれなかった人、走って疲れ果てた人、損失について乗務員を責め立てる人。
みんなの失望が傷によくしみる塩みたいで、私たちは彼らに混ざって話をきく気には到底なれなかった。
その日は、四人で一つのブランケットにくるまって寝た。
ブランケットの中は、とても寒かった。
次の日になると、車掌から指示があって、私たちは都市方面の中継駅か、目的の駅まで各々向かうということで、動ける人から解散することになった。昨日の不時着で怪我をした人もいるみたいで、そういう人は車掌さんたちが中継駅まで連れて行くらしい。正直、もう、帰りたい気持ちはあった。もうたくさんだった。終わらない灰色も、墜落も懲り懲りだった。
でも、タテハが言った一言は、このスパイラルを断ち切った。
「こんな墜落如きで、へばってんじゃないわよお! マフィアすら追い返した女よ、あたしたちは!しっかり立ちな!」
それで一気に私たちは巻き返した。最初にシオンが言った。
「じゃあまず、ここはどこか調べてみようか。」
「中継駅には戻るのか?」
「じゃあ、近くの街でいろんな準備をして出発するのはどう?」私はそう提案した。
「いい案ね。 幸い、この近くには町があるわ。」
「あまりよそのものに寛容な土地ではないが。」
「あら、いいじゃない。ツブレアン自治区でしょ?通称『郷』。私たちは彼らに言わせれば『合格』よ。」
タテハが言った。
「だって、あんたがいるんだもんね、百鳥。___あんたはもともと、あの郷の人間なんでしょ?」
数刻後……。
「ここが郷の入り口だ。関所を通れば、中で自由に過ごすことができる。_問題を起こさなければな。」
百鳥が指し示したのは、竹林の向こうにぼんやりと佇む古い木造の家屋だった。
見たことのない建築様式が民俗的に美しく、思わず足を止めてしまうほどだった。
「綺麗でしょうね。」タテハが、吐き捨てるように言った。
思えば、彼女の髪と胸につけられた彫り物のデザインは、この建物の隅々に施された装飾にとても近い。
「ね、タテハ。タテハはもしかして、ここの出身なの?」何の気なしに、私は言った。
「あったりまえじゃない!はあ、どこに耳つけてんの? タテハなんて、ここの奴らしか使わない名前よ!」
今日のタテハはとても不機嫌だった。彼女はここにはあまりいい思い出がないのかもしれないと思い至った私は、
すぐにタテハに謝った。
タテハは、そっぽを向いて一言、「いいのよ。あんたの気持ちがうれしいわ。」と言った。
百鳥が関所で何か手続きを済ませて帰ってきたのは、私たちの仲直りが終わったあとだった。
「いいってよ。」百鳥は顎で関所を指した。いつになく、彼がそっけない。
「実家ではカッコつけたいってヤツ?」そう問いかけると、百鳥は赤くなって黙ってしまった。
関所を通って郷まで歩く道は、もう夕方の仄暗さでは随分見づらくなっていた。
細く曲がりくねって、草も茂っているから、どこからどこまでが道かもよくわからない。
私たちは必死に百鳥の後を追いかけた。
「ちょっと百鳥、シオンが転びそうだからもうちょっとゆっくり歩いて。」
百鳥があいよ、と返事をした。それに気を取られていたのだろうか、
私は何かに躓いて、暗い草むらの方に倒れかけた。
「あぶな、どっか捕まらなきゃ…… え…?」
底がない。木もない。道もない。まずい。下は暗くて、何も見えない。
私の声に、はっと百鳥が振り返るが、手が届かない。落ちちゃう。誰か、助けて!
「助け…!」
すぐ、落下すると思った。けれど、あまりに長い間地面の感触を感じなかった。
私はおそるおそる目を開けた。
そこには私を覗き込む、目隠の人。目隠しをしているのに、私はなぜかその人と目があったように思えた。
相手もどうやら同じ感覚を抱いたようで、こてん、と愛らしく首を傾げた。
「無事であったか、少女。」 その人物が私を呼んでいたことに、一拍遅れて気づいた。
「あ、ああ、うん……。 おかげさまで。」 よくよく考えたら、今、私は崖から落ちかけたところを彼に抱えられていることになる。なら、私を助けてくれたのもこの彼ということになるんだろうか。さっきの恐怖と恥ずかしさで、顔がほてる。
「あの、お礼を」
「よい。ほら、はやく友達の元へ行くといい。」私の手を押しのけて、その人は強引に私をみんなの所まで引きずって連れていった。
「兄さま」
私を置いていくとき、謎の彼は、百鳥のことをそう呼んだ。
一方百鳥は微動だにせず、私の手を奪い取るようにとって、足早に郷まで歩いた。
「ねえ百鳥、どうしてこんなに急ぐの?」
結局私は、あの彼にお礼を言うことができないままだった。
「だって私まだ、あの人にお礼をしてない。 助けてもらったのに!」 百鳥が不意に立ち止まる。
「ちょっと、急に止まらないで!」
「お嬢」
「……なあに」
「一つ忠告しておこう」百鳥は冷たく鋭い眼光で私をとらえた。
「この郷には不文律_見えないレーザーが多く仕掛けられている。まちがっても踏まないように、俺の言うことをよくきけ。 まず、さっきのは一つ目だ。__あの目隠しとは口を聞くな。それと、触れてはならないし、お前と話してる奴らがあいつをいないことにするならそのままにしておけ。わかったな。 これはここの、絶対のルールだ。」
「たとえどれだけ、不条理で耐え難いとしても、な。」
私たちが郷の奥、集落までたどり着く頃には、もうすっかり日が落ちていた。
懐中電灯だけをたよりに歩き続けて人里が見えてきた時、私たちは思わず安堵のため息をついた。
「さあ、ここからはもうあかりはいらないわ。」
タテハがみんなの前に出た。私たちを置き去りにして、彼女はそのまま雑踏の中にかけてゆく。
そして、一人の女性に抱きついた。周りの人たちはみんなタテハを怪訝な顔で見ている。私たちは急いで駆け寄った。
「お姉ちゃん、ただいま……!」タテハがそう声を発するのが聞こえた。
普段あれほど威勢のいいタテハが、消え入りそうな声でお姉ちゃん、と呼ぶのを聞いて、私たちは顔を見合わせてそっとその場を離れた。
でも、タテハは思ったよりずっと早く戻ってきた。慎重に彼女の様子を伺う私たちの前で、涙の跡をぐっと手の甲で拭って、彼女はいつも通りの笑顔に戻った。
「…あれはね、あたしのお姉ちゃん。ずっと帰ってなかったのに、まだあたしのことを覚えてたんだって…。」
シオンが静かに頷いた。みんな何もいわないうちに、彼女を祝福していた。
「…ってこんな湿っぽいのはなしよ! もう、早くどこか宿を探しましょう!」
ああ、そうだった。今のですっかり忘れていたけれど、タテハのいう通り、私たちは旅の準備をするためにここに来たのだ。なら、早く拠点を築かなければ!どうする、私が話を振る前に、百鳥がいった。
「それならいい場所がある。宿泊費はかからない、好きに使って構わない、とっておきの場所がな。」
その成り行きで百鳥の家まで連行された私たちは、邸宅の大きさと、その意味に驚きの声をあげることになったのだった。
「あんた、柊木のおぼっちゃまだったわけ!?!?」
「…まあ、ここの家のものではあるが。」
「え、ヒイラギさんってこの郷のケンリョクシャなの?」
「へえ〜百鳥って意外とすごいんだねえ。」
「意外ってなんだよ、意外って!」
みんなで百鳥の態度を散々いじりながら、郷で最も大きな館の前にたった私たちは、やはりその個性的な形と雰囲気に圧倒された。
だというのに、その中を平然と突っ切って、百鳥は慣れた様子で館の鍵を開けて玄関に入って行ってしまった。
またされるので、タテハがちょっと、と声をあげようとするのとほぼ同時に、もう一度、館の扉ががらがらと音を立てて開いた。
「…鵙さまのご主人とご友人なら大丈夫でしょう。」
「ああ…くれぐれも詮索しないように言っておいた。」
百鳥が、一人の老婦人と話しているのが聞こえて、その後、彼はやっと中から出てきた。
「おい、荷物を運び込む準備ができた。おまえら、同じ部屋でいいか?2階なら三人で泊まれるいい部屋があるんだが。」
私たちはお互いの呼吸を確かめ合って、それでいい、と伝えた。
「よし、決まりだ。じゃあ重いものから運ぶ。手伝ってくれよ。」
そうして館の玄関に入った時、私はさっきの百鳥の会話が気になって、さっと辺りを見回した。まだそこに会話の相手がいれば良かったが、残念なことに、そこにはもう百鳥しかいなかった。館の中でさっきのことを聞くのははばかられたから、私はひとまず彼のいう通りに荷物を運び込んで、今日はもう部屋で休むことにした。
一方のタテハはここについてからずっと、一人で考え事をしている。私もシオンも、彼女が何を考えているか気になったけれど、あまりにも疲れていたから、布団に入った途端に眠りに落ちてしまった。
次の日。私とシオンが朝食を求めて階段を降りて行った時には、タテハは着替えをすませて出かけるところだった。
「あれ、どこにいくの?」
「ああ、あんたたち、起きたの。 これからあたしはお姉ちゃんの方へ行くわよ。昨日、私の小さい頃のものがまだ残ってるから、取りに来るようにいわれたのよ。なにか役立つものがあれば共有するわ。」
「ああ……えっと、そうだね。」
「それじゃ、言ってくるわ。」
そう言い残して、タテハは私たちに背を向けて言ってしまった。何かを尋ねる隙すらなかった。
「やっぱり、タテハチャン、昨日から様子がオカシイよ。」
「私もそう思う。あと、シオンは昨日聴いてたかわからないけど、百鳥と、だれか歳をとった女の人の話し声。どう思う?」
僕もそれは聞いていた、考えておくべきじゃないか。シオンは真剣な顔で頷いた。
朝ごはんを食べる間、私たちは一生懸命にこの違和感の正体について考えたけれど、とくに決定的なことは思いつかなかった。
「もっとここについて知らないと、百鳥のいう通り、『罠』にはめられる。この1日で、そう思った。だから慎重に行こう。」
これが私の結論だった。でも、
「いいや、ここでさっさと用事をすませて、次のトシに急ぐべきだヨ。ここの人々の素性はわからないカラネ。」
シオンは私とは真逆の意見を持っていた。
「足りてないものを買い足して、ア・ラ・モードの情勢についてここで情報を得るつもりでいたけど、それはしていかないってこと?」
「それもいいネ。ただ、ここには浮雲商会の姿が見当たらない。どんな土地にも流れ着いては商売をするカレラがここにはいない。まだ断定はできないけど、ここはかなり閉鎖的なマチだと思う。」
「浮雲商会? あの、太陽系一大きな商会のこと?」
「そうそう。都市の外郭の勢力で僕の知っているのは彼らだけ。つまり、今の僕らは百鳥に頼るしかない。」
「でも、昨日百鳥は不穏な感じだったよね。」
「ソノトオリ。ここには信頼できる人がいない。しかもここは閉鎖的だし、周りは線路しか通ってない。助けを求めても脱出までには時間がかかるだろうネ。」
「ここの人を信じないというわけではないけど」
逃げ道を探しておいた方がいい、私たちの意見はそこに帰着した。
その日の夕刻、タテハが帰ってきた。赤い斜陽のに照らされる手には、ちいさな子供の使うおもちゃが握られていた。
「お姉ちゃんとは話せた?」彼女のご機嫌をうかがいに、私は駆け寄った。
「ええ。それはもう、ながいことね。 てか、どうせあんたたち、今日一日どこへもいかずにいたんでしょう? 朝、私を引き留めて、作戦会議をしたって良かったのに。」タテハはニコリと笑った。
「わかってるのよ、あんたたちの性格は。 待たせて悪かったわね。」
私はタテハの肩をぽん、と叩いて、みんなのいる机まで連れて行った。
もう食卓にはシオンと百鳥が揃っていたから、すんなりと情報共有に移れた。この郷について、……百鳥に対する疑念は隠しつつ、たくさんのことを話したあとで、みんな、少しずつ思考がまとまってきたようだった。ただ一人をのぞいて。
「ちょっと待ってくれ。_つまり、明後日にはもうここをたつっていう理解で合ってるのか?」
そうだよ。シオンがゆっくり頷いた。
百鳥はさらに冷や汗を流している。
「だから、どうしたのさ。天使の事件の真相を明らかにするのよ、証拠が雨に流れる前に辿り着かないと。」タテハが百鳥をきっと睨む。
「ああいや……ちょっとな、おまえたちを借りる代わりに、天使について情報を提供してくれると言ってる奴がいてな……。まだもうちょっといる予定だからどこかで世話になると言っちまったんだ。」
「それじゃ、予定が変わっちゃったからごめんなさいって断るしかないじゃん。もう約束しちゃったの?」
「約束はしてない。ただ、少し『気前よく』しておくのはここのルールなんだ……。」
タテハがふん、と鼻で笑った。
「どういう言い訳よん。ルールっていったって、足枷みたいなもんじゃない。さっさと破っちまいなさい。私たちは暇じゃないのよ。 事件の調査が終わったら気まぐれできてやってもいいけどね。」
だが…いいかけて、百鳥は口篭った。
「いいや、なんでもない。どうせ変わらない。好きにしてくれ。」
彼が部屋を一人で出てゆこうとした、その時だった。
「あんた、ゼンザイ商会の掟を胸に刻んでおきなさい。
あんたたちが道に背くことがないのなら、いつか蝶があんたたちを導くことを祈るわ。」
「………あんたが言うのか。」
タテハは力強く頷いて、私たちの方に向き直った。
「今のは脅しだからね。間に受けなくていいのよ、あんたたちは! もう、ぶるぶる震えちゃって。失礼よ!私に!」
ふん、と言わんばかりの顔でタテハは畳に座り込む。そのあともタテハの愚痴は続いた。
私たちはもう、今日は寝られないと堪忍して彼女の話に相槌を打つしかなかった。
空が白み始めていた。
「それで、よく十年も前の情報からこの番号を突き止めたねえ。感心しちゃうなあ。」
暗い林。ホログラムモニタに音声認識のマークが浮かんでいる。男の影が落ちる。
「ああ。_おまえが以前言っていた、プロジェクトの話だ。 あれは、今度の事件と関わりがあるんじゃないか?」
「__? 事件? あはは、まさか、あのとき俺が何かやらかしたとでも思ってんの?ばかだなあ、百鳥。」
「おまえ、大丈夫か……? まさか、こんな大きな事件を知らないなんてことは」
「あはは! いいよいいよ、君のお困りごとを先に聞いてあげるからさあ。」
モニタの先の声は、なんとも愉快そうにくすくすと笑い声をたてる。
「……… なあ、本当にお前は、契約を果たしてくれるのか? いや、別におまえと取引をするのが嫌なわけではなくて」
「ああ? …はあ、どーせ、狡猾なキヌア人は信用ならないだろうからさあ。」
声の主は、あからさまに拗ねた様子で男をなじる。
「悪い、そういうつもりではない。 ただ、金だけ持ち逃げされては困る。仮にもあいつは俺が誓いを立てた主人だ。儀式で仮に死ぬようなこと、ないだろうな? お前のとこの分析装置なら、マイクロ単位でわかるだろ? えんとろ…なんちゃらの増減が。」
「はあ?知らないし。そもそも、エセ宗教にハマってるお前んとこの奴らに言えよ、そういうことは。」
「エセと言わないでくれ。『実際の非科学現象』も確認されてるんだ。」
「…知らねーの。まあ、この距離だし、いまは交通状況も悪いから届かないかも。それと、結果はわからないとだけ言っとくよ。」
「わからない、か……。」
モニタの前で、男は肩を落とした。
結局タテハの話に夜中までつきあっておきていたから、次の日は私もシオンも、ふらふらだった。
「うおーん、タテハチャンが壁に立ってるヨウ……」
「寝ぼけてる?シオン…。」
そうして惰性のままに朝食を貪る私たちのところに、勢いよく障子を開けて飛び込んでくる人がいた。
「兄様、今度は容赦しません! 一体何を__」
「あっ! 目隠し男!」
私は思わず叫んだ。郷に来る途中で、助けてくれたあの男じゃないか!
すると、目隠しの方も私のことがわかったのか、しばらくその場で硬直したあと、静かに両手で顔を覆って座り込んでしまった。
「……っ……」
一体、どうしたんだろう。こうしてみると、この目隠し男は背が高いわけではない。
むしろ私と同じくらい_少年と言ってもいいくらいの背格好で、帯刀しているその刀も、布でぐるぐる巻きにされている。これじゃあ、刀を抜くこともできないじゃないか。
そう思うと途端に、目の前でうずくまるその姿が、小さくて愛らしい生き物が必死に捕食者から逃れようとしているかのように見えてきた。
「大丈夫? 別に、怒ってないのダヨ?」
私と同じことを思ったのか、シオンはそう言ってその子の肩を優しく叩いた。
「ねえ、大丈夫。私たちは、あなたがどうしてそんなに急いでるのか、知りたいだけだよ。」
「へ………?」 目隠しはおずおずと顔をあげて、じっと私の顔を見つめた。
「……見えてるの?」
彼はうん、と頷いて、ゆっくり立ち上がる。
「ほんとに、怒ってないの?」
「もちろん。」
私たちがそう言っても、彼はまだ不安げに手を握りしめていたから、私はただ_ただの気遣いのつもりで、少し微笑んでみせた。
「…!」
ふっと男の子の顔が綻んだ。
でも、それと同時に、ちょっとだけ__いや、結構赤くなってしまった。目隠しの子は、はにかむように私と目を逸らす。
「おっとお? 新たな恋のヨカン…。」
「ちょっと、シオン余計なこと言わないで」
内心冷や汗をかきながら、私はシオンに釘を刺した。そして、我ながら見事に話題を転換する。
「それより、さっき言ってた『兄上』ってだれ? 探してるなら手伝おうか?」
男の子ははっと正気に戻ったようで、えっと、と言葉をさがす。
「ここのおうちの、鵙さまを探していたのです。ちょっと私用があって、すぐに会いたかったので。」
「ちょっとというか、かなり切迫していたけど、大丈夫?私たち、今百鳥の居場所は知らないの。」
「ああ。えっと、もし可能であれば、エリオット家のご令嬢とも会っておきたくて…」
私たちはじっと顔を見合わせて、ほとんど同時に声を発した。
「それ、あたし コノコ のことだよ!」
なんとなくおやつをつまみながら取り止めのないをして、だらだらと過ごしているうちに、おもむろに男の子は口を開いた。
「あの、そろそろ話してもいいのか?」
「いいよ。なあに?私にどうして会おうと思ったのかも聞いてないしね。」
男の子は私の方に向き直って、シオンと私を見比べた。そして、決心した様子で口を開いた。
「あn…鵙は、あなたを引き留めるつもりだ。それも、里長の口車に乗せられて。」
「ところで、君は、どうして俺にこんな手間をかけさせてまでそんなことをするの?」
静かな虫の音の中で、秘密の会合は再開された。
「……きっと天使は、犠牲を嫌うだろう。ましてやそれが自分の妹となれば、うかばれないだろうよ。…ま、第一は俺の保身のためだがな。」
「あっそう。昔から、おまえのそういう所が気に入らないね。 そもそも守れないような約束はするべきじゃないんだ。」 声の主は、百鳥を嘲笑った。
「ほっといてくれ。」
「ううん、いいよ? 聞き流してよ。 ま、そもそもアラモードに少女を連れてくるとかいうおまえたちの計画、最初からうまくいくとは思ってなかったけどね。」
「ああ……。まさか、列車が事故にあうとまでは思ってなかったんだがな。そのせいでいまこうなってるわけだが。後のことを考えれば、僥倖というべきか。」
「うん。それに、こんなところ、子供の来る所じゃないよ。人間の悍ましさを体現したような都市だからさあ。」
「ふん。『都市』よりも、か?」
「どうかな。人間の自由意志の残忍さを記憶に焼き付けたいならどうぞ、いらっしゃい。」
モニタ越しの声は、まったく平坦なままだった。
「……おまえは何を考えている?」
「さあね。俺にとっちゃ、おまえの思考回路の方が、万能分析器にかける価値があると思うね。」
「まあいい。終わりよければすべてよしと、そういうことだろう?」
「………。」
「それは…!!!!」
静かな食卓。誰も、言葉もない。
少年の衝撃的な告白に、私たちが言葉を詰まらせていたその時だった。
「どうして、百鳥が私たちを引き留めようとしてるだなんて言えるのかしらん?」
「タテハチャン!」
シオンが振り向きざまに嬉々として叫んだ。
「すまない、いきなり信じてもらおうとは……」
目隠しの男の子はタテハに答えようとする。
「なあに、 私たちはあんたを信用しないって言ってるんじゃないわ。 私たちはあんたのことを何も知らない。でも、それは今関係ないわ。
ただ_あんたがそう言い切るだけの証拠_。それのもとに、私たちを案内しなさい。」
丸いテーブルを囲んで、もはやその場はタテハの独壇場と化していた。
彼女が思うままにステップを踏み、私たちはめくるめくステージの上をころがりつつ、なんとかリズムを響かせる。
「__さあ、わかったわね。」
男の子も彼女の覇気をひしひしと感じたようで、すぐさまその言葉に頷いた。
「わかり申した。 となれば…ここで話せることとしては……うむ、言われてみれば、あまり状況的証拠が残っていない。
拙者の主観にはなるが、それでも良いというのなら、話そう。 ただ_」
「拙者がここにいたことを、他のものにあまり悟られてはならないのだ…。 目立たぬところをお借りしたい。よいか?」
私たちは、男の子を寝室の奥まで連れて行くまえに、一度作戦会議をしようということで、彼を押し入れに隠しておくことにした。彼が布団にくるまってそこに入った後、私たちは廊下に出て円になった。
「つまり、もしあの子が嘘をついてないとして、彼は百鳥の知らないうちに彼に接触したってこと?」
私は二人に問いかけた。
「もしくは百鳥が、彼に百鳥の策謀を明かしたか。」
「ねえ、昨日はあの子は何してたのカナ? 百鳥と接触するキカイが、彼にあったとしたら、一体いつになるのかナ。」
「私の知る限り、百鳥は昼間に2時間くらい近所まわりをしてたから、この館で百鳥にあったのでないとしたら、その時刻になるんじゃないかな。」
「いや、夜中に百鳥が出歩いた可能性もあるヨ。」
「でも、夜中はダイニングで私たちが話をしてたじゃない。あそこは玄関に続く廊下の真横にある。物音を立てないで、とは言っても……。」
「でもドア_というより障子はしまってたデショ?」
みんな、痛いところをつかれた、と言わんばかりに口篭った。
「………」
思い出せ。昨日、障子は閉まってた。 何か物音はしなかったか。百鳥は、いつ頃、寝に行ったか?
思い出せ、私!!
「あっ!」
そうだ。その通り! 私の頭には、とある考えが浮かんでいた。
「でも、あれは百鳥が部屋に戻った後、彼が寝ているだろうと思ってシオンが気を遣って閉めたんだよね?
話し声が聞こえないようにって…。 あれは何時だった?」
「それだ!」 二人の声が揃った。
「そうか! 忘れてたヨ。でも、思い出した。僕、覚えてるヨウ。あれは夜中の2時ごろ。大きな時計がその時間を指してた。まあ、時計がズレてなければのハナシだから、確認しに行ったほうがいいけどネ。」
そう言ってシオンはダイニングの時計を見て、戻ってきた。
「そうだね…ベロニカチャン、君の腕時計をカシテネ。 ふむふむ、あれは1時間遅れの時計らしい。」
「つまり、あんたたちが途中で起きてなかったら、私がおきた7時までの4時間の間に、百鳥が外出した可能性があるんだね。」
「もしくは、あの子に他意があったバアイ、彼が百鳥の部屋に忍び込んだ時間とも言えるヨネ。」
「ま、なんにせよ人間の出入りがあってもわからない時間帯だわね。_おかって口から出た説もあるけど。」
タテハが唇を噛んだが、私たちは聞き馴染みのない言葉に首を傾げる。
「おかって口?」
「あんたたちは知らないだろうけど、仕方ないわね。おかって口っていうのは、こういう古い家にある、いわば『主婦専用の、キッチン経由の出入り口』のことよ。家が広いし、こういう小さな出入り口はこの館にあってもおかしくないわ。大きくはないけど、通りとは別の_雪隠とか、ゴミ捨て場とかに直にいけたりするのよ。」
「まさか……」私たちは顔を見合わせた。
百鳥も、それと私たちがここについてすぐに耳にした老婆も、もしかしたらそこから外に出ていた_かもしれない。
「タテハチャン、僕たちがここにきてすぐ聞いたオバアサンの声_『詮索するな』トカ百鳥と話してた人も、
もしかしてそこから?」
タテハは頷く。なんとも思っていないような顔だ。
「でしょうね。おおかた使用人じゃないの?使用人は玄関はあまり使わないから。あたしからすれば、あんたたちはおてんばだから、そういう、私たちのモラルで言えば『人に見せるのは恥ずかしい』ところを色々いじって欲しくなかったんじゃないかしら。ただの出入り口じゃないんだもの。化粧してない顔を見られるようなものよ。まあ、詮索だなてちょっとおかしな言い方だけれど。」
タテハはいう。なんだか、過剰に疑ったのが申し訳なく思えてきた。
「あ、あはは、じゃあ、あれ、杞憂だったかも……。」
「えへへへ……まあ、オセアニアでは常識、ってヤツで…?」
私たちの困惑する様子をみて、タテハは声をあげて笑う。
「はー、ほんと、疑ってかかるのは大事だけど、あはは!」
その時。ふと、
「あのー、楽しげなところすまないが、そろそろ出ても良いか?」 男の子の声が聞こえた。
私たちはみんな、一つ心配事が消えた安心感で、いつもより軽快に、いいよ、と彼に答えた。
彼の話を要約すると、こうだった。
彼は普段、郷の外郭から人里まで、危険の潜む道を巡回することを仕事にしている。
そして昨日の夜、彼はいつものように夜の巡回をしていた。ところが、夜もふけてきたころ、近くの古びた東屋から
誰かの話し声を聞いた。それを怪しんで、彼はそっと声の元に辿り着いた。
そこで百鳥は、光る何かの前で、誰かと通話していたらしい。
そしてその内容から、彼は、百鳥が自身の主人に対して企みをしていることを悟った。
もちろん彼は郷の人間だから、集落の人たちがさかんに『祈祷』の準備を進めていることも、彼らを観察する中で勘づいていて、今回の百鳥の行はそれと関わりがあると推測した_そういう経緯があったらしい。
また、その「祈祷」は里長一族により執り行われるらしい。
そしてこの少年ーナズナが私を探していた理由。百鳥がエリオット家の執事であることは周知の事実。彼は、その情報をもとに私を探し出した
。
「そっか。話してくれてありがとう。」
「いや。拙者の覚えていることが少ないのが申し訳ない。」男の子は頭を下げた。
もう日が高く登ってしまって、昼になればまた館に人が帰ってくる。
「それでは拙者はもうゆくとする。」
「ちょっと待って!」
私は彼の袖を咄嗟に掴んだ。彼はまさに春霧のように、一度手を離せば消え入りそうだった。
ここで逃して仕舞えば、もう彼からの助力は得られない。なるべく多くのピースを持っておくに越したことはない。
「…ねえ、どこにいけばあんたに会えるの? ちょっとまだ、謎が残るんだけど……。」
男の子はうーん、と考えあぐねたあと、こういった。
「そうだな。それはいうことができないが…。 貴方が必要とするなら、拙者はいつでも貴方のもとに参ろう。」
「そ、そうじゃなくて、ナズナと百鳥のカンケイとか、どうしてあんなに慌ててたのかとか、色々と気になるんだけど。」
「ああ、そのことか。…兄様がエリオット財閥で働くために、ここへは年に一度しか帰ってこないのだということは、知っているか?」
「まあ、知ってるけど…。」
「その度に皆こぞって都市について兄様に尋ねるので、拙者も知っている。」
「……?」
「ふふ、ピンときていないようであるな。拙者が言いたいのは、ここも、都市も、信仰に依存して成り立っているということだ。だから、それが崩れるのを恐れる。ひととして、至って当然のことといえば、そうであるな。」
「天使の信仰ってこと?それはもう、敬虔な人は一部しかいないみたいだけど。」
「それだけではない。金、権力、愛、神や科学。それだけが絶対であると人々が信じるというその行為が信仰だと、拙者は思っている。それが、とくにきわだって人を支配するのが、ここと『都市』の、よく似たところだと思う。」
「ああ。確かに…。」
「拙者は、お主はそのようなものに呑まれておらぬと思う。ぜひ、その己を大切にしてほしい。」
それを最後に、ナズナは一礼してさっと駆けて行った。
狐につままれてしまった、かもしれない。
お昼を食べている間、私たちは百鳥や使用人の目をぬすんで、午後の過ごし方について話し合った。結局先ほどの彼の話は、私たちの仮説と合致するところが多くて、いちど彼は白、ということで話を進めることにしたからだ。
歯磨きをして、家の人には出かけると言って私たちは館を抜け出した。
そして一目散に、人目につかない林に潜り込む。
「さっきの話のツヅキだけど、僕はやっぱり百鳥はクロだとおもうヨ。」シオンが口を開いた。
「ええ。可能性としては高いわね。ただ、あの子は結局最後まで素性を明かさなかった。百鳥が何かを企んでいるとして、それが私たちに不利なものであるという証拠もないわ。」
「そこだよねえ。あと、祈祷ってなんのことか聞きそびれちゃったけど、あまりよくないもののような気がする。それ自体に天使の件との関連はなさそうだけど、捜査には影響しそうだね。」
みな考え込む中で、さらにシオンが口を開く。
「謎がミッツ。
百鳥は僕たちの旅路にとって、プラスのエイキョウのある人なのか。それとも悪巧みをしてるのか。
あと、あの少年の素性。
最後に、彼の言っていた『郷ぐるみの祈祷』について。これが僕らにどんな影響をオヨボスのか。
これが新しく出てきたナゾダネ。」
「うん……ところで、どうしてシオンは百鳥が黒だと思ったの?」
「さあ。僕も、これはまだ推測の域を出ないことだと思っているからネ。むしろキミの意見が聞きたいな。」
私の? そもそも、百鳥が私に危害を加えることは、契約上できるはずがない。そもそも彼がしようとしているのは、私をここに閉じ込めることじゃないのか? まさかエリオットに楯突くために私を…。いやいや、彼にはそこまで極端な行動に走るほどの動機はないように見える。
じゃあ___
「考え方をカエテミテ。 旅を進めることが、彼にとって何らかのフリエキをもたらすんじゃないカナ?」
うーん。旅を進めること_。
私たちはこのあと、ア・ラ・モードに向かう。ア・ラ・モードに行くには、物資の補給と自治区についての情報収集、ビザの取得をしないといけない。彼はどうしてそれを嫌がるのか? ア・ラ・モードはさまざまな物が集まる代わりに、危険な場所。
「まさか__。」タテハが勘付く。
「え、もうわかったの、タテハ…!」 私が驚いて声を上げると、タテハが自信満々にいう。
「ええ。ア・ラ・モードであんたが危険な目に遭ったら、あいつが責任を取ることになるんじゃないの?」
私はそれに納得したが、シオンははあ、とため息をついて、額に手をやった。
「なによ。なんか文句あるわけ?」タテハがシオンを睨む。
「いや。僕はね、彼は郷の首長の家に近い人だから、祈祷にも一枚噛んでると思ったわけだヨ。 そして、おそらくその祈祷というのは、『天使の権能を利用したもの』が由来しているんじゃないかナ。 昨日、暇だったから、屋敷の装飾や、昔の草子を出してもらってそれを読んでたんだよ。とても小さな子供のためのもの。 イッケン、どれも普通の物語_閉鎖的共同体にはよく見られる氏神信仰やアミニズムのエイキョウの現れた本に見える。 でも、これらには共通してある展開が含まれていた。 それは、外来の神がその地のわるい妖怪や鬼を打ち倒すコト。 これは、この地の歴史と関わる重要な手がかりだと思ったンダケド、僕にはその知識がなくてわからなかった。ただ、これらのことは、実在の歴史を示しているようで、実際はかなりカイシャクやヒユが含まれてるとオモウ。この郷は、政治的に、都市と深い関わりがありそうだ。」
三人の中で、ずっとぼうっと遊んでいたかのようなシオンが、いつの間にか誰よりも調査を進めていたのには驚いた。
それに応えるかのように、タテハも真剣な顔もちでこたえる。
「妖怪や鬼_それは古来、ここでは神をさすこともあった。もちろん統治者の比喩としても。」
「だろうネ。 なら、歴史についてはどうだい?」
「それは私が知ってる。宇宙の歴史を勉強してる時、ここの歴史についてすこしだけ学んだことがあるの。
ここには元々、固有の信仰とコミュニティがあったんだけど、約300年ほど前、繁栄の末に凶暴化したここの人たちは、世界中のいろんな国と戦争をして、結果的に大敗した。 その罰として、ここの神様と人々はこういう山奥の狭い土地に閉じ込められて、それ以来エリオット体制に取り込まれたんだって。それからはずっと、ツブレアン自治区としてエリオット経済圏に依存してるみたい。」
「ふむ……興味深いネ。 つまりここの人々は、民族的な誇りを奪われたこと、密かにエリオットに恨みを持っていてもおかしくないってことネ。 でもそれ以上に、今の話には注目すべきことがある。」
「なにかしらん?」
「それは、『栄華を極めた文明が』、そう簡単に衰退するものなのか?神が去ったことで衰退したんじゃないのか?げんに、今その伝説通り里を見やっても、僕の力では帝国の残影しか感じ取れないヨ。 そしてもう一つ、決定的な証拠がある。」シオンは一枚の古びた写真を差し出した。
「これは!」
そこに写っていたのは、紛れもなく私の兄__ミカエル=エリオットと、隣にいるのは__
「え……? ロジャー?」
いやいや、シオンはかぶりを横に振った。
「これはロジャーのオニイチャン、博士こと、ロズ=エイデリアだヨ。 これは彼らがまだ大人になる前の写真だね。」
とするならば、天使は一度この土地を訪れている。つまり_
「この土地の神は、天使にやっつけられた可能性が高い、ということね? もとより山の神は祟り神の一種だったとは私も聞いたことがある。郷の上の方では昔、人身御供があったとも聞いてる。それがここのコミュニティを支えてきたとも…!」
「近いけれど、それは一面的な見方だ、タテハチャン。 実際的にカレラの生活に影響を与えるような『ナニカ』は、確かにタテハチャンの言う通り、天使にやられた可能性が高いネ。しかも、それにロズ=エイデリアが何らかの形で関与したかもしれない。そして、その読みが正しいならば、今計画されている『祈祷』の趣旨は、宗教的祈りではないだろうネ。ならば何のための儀式だ? 僕は、『誰か部外者』が一枚噛んでるように思うケド。」
シオンの話は、私たちにそのすべての理解は難しかった、その「祈祷」があまり良くないモノだという予想で、話はまとまった。
それが、私たちの訪れと同時期に行われるのは、果たして単なる偶然なんだろうか?
それに、ナズナの言葉…。
「信仰」と言っても、それはタテハの言うようなスピリチュアル的な側面だけを纏ったものじゃない気がする。
ロズ=エイデリアの件も引っかかる。失踪の件からずっと、プリン星政府と膠着状態にあるアシナガミリタリー。そこの天才科学者が、天使とここまで密接に関わっていたこと自体、エリオット財閥は把握できてるんだろうか?
祈祷だってそれだって、天使失踪の事件と密接に関わる、政治的な意向が裏に隠れているとしたら…?
わからない。あまりにも、それらしい要素が多すぎて、推理のしようがない。
ただ、彼らに根ざす『センス』は確かにタテハの言うような伝承の上に成り立ってるはず。
一か八か、その方向性で調査を進めてみようか?
ア・ラ・モードの一部は、プリン星の衛星でありながら、アシナガミリタリーの研究都市になっているらしい。
早く、行かなきゃ。
暗い夕霧に包まれた館が、鬱蒼とした林の向こうにぼんやりと浮かんでいた。
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