だから、ケーキを焼きましょう
結音(Yuine)
その日は、毎月……
ぼくが幼かった頃の話だ。
母は、毎月その日にケーキを焼いていたらしい。
まるで何かを祝うように。
ケーキといっても、パウンドケーキのような
その時家にある材料で作れる簡単なものだったという。
その頃の記憶を、ぼくは手放している。
だから、それらのケーキを食べた覚えがない。
誰が食べていたのだろう。
母にとって、その日は、母が母になった日なのだという。
つまりは、ぼくが誕生した日。
『赤ちゃんは、ひと月ごとに「〇カ月」といって、祝ってもらえる。成長する。その喜びを、いつまでもかみしめていたいじゃない。』
うっすらと涙を浮かべてつぶやいた母の顔を、ぼくは直視できなかった。
母にとって、ぼくは欠けがえのない存在だ。
ぼくの成長を祝うため、母がその日に焼くケーキは
きっとあの頃の苦境を乗り越えるために必要なものだったのだろう。
今でもたまにケーキを焼く母だが、
そこに涙の味はない。
当時の母が焼いたケーキの味を知らないぼくは、
きっと、しあわせなのだろうと思う。
だから、ケーキを焼きましょう 結音(Yuine) @midsummer-violet
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます