第4話 四人の冒険は続く・・・

第4章 四人の冒険は続く……

私は、泣くわけにはいかなかった。

そこまでする必要はないじゃないか――そう思って、反抗的に大人をにらみつけた。

すると、また罵声が飛ぶ。

そうなると、ほかの三人がいっそう激しく泣き出す。

泣かない私のことを、大人たちは

「反省する様子もない、末恐ろしいやつだ」

そう思ったのではないだろうか。

私はもう一度聞いた。

「本当に、刑務所に入るんですか?」

この言葉は、小学校三年生のこどもが、必死に友達をかばおうとする精一杯の抵抗だった。

だが、その思いに大人たちは気づいてくれなかった。

しばらく、重たい沈黙が続いた。

「失礼いたします」

そう言って、三人の大人が入ってきた。

私の母、N君のお父さん、そしてS兄弟のお母さんだった。

やはり、母の顔はまともに見られない。

これから刑務所に入れられるのだから、きっと怒られる――そう思っていた。

ところが、母は何事もなかったかのような、当たり前の顔をしていた。

ほかの親たちも、怒っている様子はなかった。

特にN君のお父さんは、立派な人格者だ、という印象を受けた。

私にも気を遣う言葉をかけてくれた。

もう充分反省したこと。

これからは自分たちがいるから心配はいらないこと。

君がみんなを誘った分、責任を感じているだろうが、君だけが悪いわけではないこと。

これからも、息子といい友達でいてほしいこと。

正確な言葉はもう覚えていない。

だが、ずっと私の様子を見ていたデパートのおじさんたちが理解してくれなかった気持ちを、初めて会ったN君のお父さんが、すっと受け止めてくれた。

――N君のお父さんって、すごい人だ。



そう思った。

「今日は、お母さんたちと帰っていいから……」

「少年院は?」

「入れたりしないよ」

怖いおじさんが、ようやく笑顔を見せた。

胸をなで下ろした。

それでも、涙は出なかった。

反省はしている。

もう絶対にしないと、言い切れる。

だが、それとは別に、このやり方には、こどもながらに納得できないものが残った。

今思えば、私の反抗的な態度のせいで、親が来るまでの一時間ものあいだ、「少年院に入れる」という話が続いたのだろう。

みんなを助けたいという思いが、かえって仲間を苦しめてしまったのかもしれない。

その後、清算が行われた。

母は四百円を渡し、四十円を受け取った。

十円で百円の両替を、四回やったからだ。

N君のお父さんは、百円を渡して十円を受け取った。

それから、また話が始まった。

今思えば、なぜそんな説明をする必要があったのかわからない。

おじさんたちは、針金や異質なコインを見せながら、

「悪質な手口」の説明を始めた。

なるほど、と大人たちは聞いていたが、

これは――大人になった今の意見だが――どうにも腑に落ちない。

針金や異質コインは、明らかな詐欺だ。

最初からだまそうという意図がある。

だが、私たちは違う。

針金も、異質コインも使っていない。

ただ、十円玉を入れただけだ。

それも最初は、故意ではない。

間違えて入れたら、百円が出てきた。

昭和四十年代とはいえ、あまりにお粗末な機械だった。

私たちは、お金が欲しくてやったのではない。

少年探偵団として、「おかしい」「不思議だ」と思ったことを確かめただけだ。

もし本当に悪い心を持っていたなら、もっとわからないようにやったはずだ。

そもそも、そんな機械を放置していた側の責任はどうなのだろう。

銀行で十円合わなければ、原因を徹底的に調べる。

それを、このデパートは放置していた。

私たちは、こどもなりにその原因を「発見」しただけなのだ。

正当化するつもりはない。

悪いことは、悪い。

だが、小学校三年生を一時間も「少年院に入れる」と脅す必要があったのだろうか。

三人は、ずっと泣き続けていた。

後になって、母も

「あんな罪人扱いはおかしい」

と腹を立てていたと聞いた。

親たちの理解があったからこそ、この傷は癒えたのだと思う。

「これからどうする? まだ昼過ぎだし、帰る?」

ようやく解放され、親と一緒にデパートを出た。

すると、N君のお父さんが言った。

「もう少し遊んで帰ってきてもいいぞ」

「え? いいの?」

「どこ行こうか?」

みんなに、笑顔が戻った。

少年院行きだった冒険が、また冒険に戻った瞬間だった。

この三人の親たちは、私たちを叱らなかった。

それどころか、冒険の続きを、もう一度こどもたちに任せてくれた。

親になった今ならわかる。

この人たちは、本当にこどもの心を信じていた。

それから誰かが言った。

「N駅に行ってみよう!」

田舎に向かう電車で、ドアをボタンで開け閉めする駅があるらしい。

それを調べに行こう、というのだ。

少年探偵団は、その電車に乗った。

駅に降り、近くの駄菓子屋でお菓子を買って食べた。


それだけだった。

冒険は、そこで終わった。

次の日、何事もなかったように学校へ行った。

先生は、このことを知らない。

――余談だが、N君は三年後、東京大学進学率の高い名門K中学に進学した。

学年で一番頭がよかった。

私以外の三人は、私立の名門中学へ進んだ。

私は、いまだに冒険ごっこの続きをしている。

カブスカウトの隊長として。

それからもうひとつ。

しばらくしてデパートの屋上を訪れたとき、

あの両替機は、すでに新しい機種に変わっていた。



あとがき

文章のの整理や読みやすさ向上のため、執筆過程でALによる添削、推敲の助けを受けています。内容や表現の最終的な判断はすべて作者自身によるものです。昭和の一少年の冒険として、楽しんでいただけたら幸いです。





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少年探偵団の冒険 花瀬とおる @t-hanase

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