アークロック
加鳥このえ
第1話 黒い桜が咲く日
突然ですが自己紹介を!
私の名前は
一年から二年への進級。普通ならクラス替えで大盛り上がりなのだろうが……!
残念ながら私のクラスは違ったようだ。
「ハズレじゃない?」
「……微妙だよな」
「さいあく〜」
うう、どうやらこのクラスはみんなの理想とはかけ離れていたみたいです。
でも! 与えられた場所で輝くのが人の努力でしょうが!
私は一人立ち上がり、黒板にこう書いたのです!
「私の名前は陽向灯里! みんな、自己紹介しようぜぇ!」
「……」
当然の如く、沈黙。だが、数人の知り合いが盛り上げてくれた。
「そうだそうだ!」
「自己紹介まんじぃ」
私は黒板にデカデカと書いた『自己紹介』の文字を見る。我ながら達筆である。
「それじゃあ私から行くね! 私の名前は……」
そんな時でした、彼が現れたのは。
どこかミステリアスな彼は、イヤホンを外しながら教室に入る。
まだ朝礼は始まっていないが、それでも彼が最後に登校してきたがゆえに、遅刻のような印象を与える。
私は自己紹介を止めて、彼を見た。
ミステリアス、そして寡黙な印象。酷く言えば暗い男の子だ。
でも、どこか惹かれるその雰囲気。私はボーと彼を眺める。
すると彼は目を大きく開けて驚き。状況を理解したのかゆっくりと優しく笑いながらこう言った。
「……なんか、ごめん。進めていいよ」
鳩が豆鉄砲を食ったように止まっていた私は、その一言で現実に戻って来る。なんだか恥ずかしくなって、誤魔化すようにこう
「……あ、あははー! ごめん! 自己紹介だよね! そうだ! 君はなんて名前なの?」
私は照れ隠しでその男の子に名前を訊いてしまう。でもすぐに、発言が苦手な子かもと気づいた。
しかし彼は違ったらしい。話すのが苦手なのではなく、話そうとしないタイプのようだ。
彼はその優しい微笑みを見せながら、こう言う。
「僕の名前は
その声は、どこか儚くて、されど信念を感じるもの。私はまたもボーっと見つめてしまう。
「おーい、
「……うぇ!?」
「なんだよその反応」
私の『うぇ』でクラスに笑いが走った。彼も、小さく笑っていた。
私はそんな彼から目が離せなかったんだ。
そんな四月のお話。
そして時は流れ、七月。
もうすぐ夏休みが始まるなー、って時期。
私は退屈な日常を過ごしていた。
「やっと学校が終わったよぉ」
二年三組、私のクラスは意外と心地よいものになっていた。
住めば都というもので、一見して不快なクラスメイトでも、話していれば仲良くなるのだ。そんなクラスメイトが増えれば、このクラスもいいクラスに変わる。
学生は、こういうところから住めば都という言葉を覚えるのだろうなと感じた。
とにかく私は、友達の
この平凡な毎日に刺激を!
今ならこのタイトルのラノベを書ける。
将来は作家になろうかな、などと、身分不相応なことを考えてみたり。
「三宮〜! 暇、暇、ひまぁ〜!!!」
「うるしゃい。重いんじゃい」
「ひどーい」
ふと、教室のドアを見る。我先に帰る
「ふがっ」
ボーっと彼を見つめていると、三宮が私の鼻を突然下からなぞるように撫でてきた。
「見過ぎ」
「くすぐったいからやめてよー」
そこへ、先生から叱られたばかりの
「
「こらー! 先公なんて言わないの!」
「まんじも言うなよ、死語だろ」
「まじまんじじゃなくて、まんじだからオリジナルまんじだから使ってもダサくないまんじぃ」
「何を言っているのかな?」
私たちはいつもの会話を三人でする。
先程からまんじを語尾に話しているのは春香ちゃん。マスクがトレードマークで、毎日違うマスクを付けてオシャレをしている。
そして私がもたれかかっている人物は三宮ちゃん。このクラスで一番頭がいい人。一見、全てに塩対応みたいな雰囲気だけど、意外とノリがいい。
私はそんな二人と仲良しで、退屈な毎日を過ごしています。
退屈と言っても、二人と一緒に帰るのは楽しいよ。でも、それでも刺激がなくて、このまま卒業まで行くのかなって、少し焦る気持ちもあるの。
そんな気持ちを少しでも紛らわすため、私達は学校を出て、近所のモールへ向かう。
ここは田舎、いわゆる地方都市。特に遊ぶ場所もなく、いつも用もないのにショッピングモールへ。
というかここ以外に遊べる場所がない。
都会の人にはわからないかもしれないが、休日でも友人と会うような場所なのだここは。なぜなら遊ぶ場所がここしかないから。
これから何度も言うが、私はしがない田舎娘なのである。
「……」
バスの中、スマホを見る。刹那、ぐわんっと、視界が揺れた。
キュキュー! という音と共に、バスが止まる。
運転手さんは外に確認しに行って、言った。
「嘘だろ!? みなさんすみません! パンクしてしまい、運行ができません」
三宮は「整備不足か?」と言って、春香は「不幸まんじぃ」と言っていた。
私はそんな二人に、苦笑いしながら「歩いて行こっか」と提案した。
渋々だが納得してくれて、私たちは歩き始める。
しばらく歩いてモールに着き、私たちはゲームセンターへ向かった。そこでクレーンゲームをする。
「おお、取れる。取れそう」
「このまま掴んで持ってけまんじぃ」
私は三宮のプレイを見つめる。楽しいはずなのに、少し気持ち悪さを感じた。
お腹は痛くない。強いて気持ちの悪い部分をあげるとしたら、心臓。
ぐわんっと視界が揺れた。
「行ける、行けるぞー……って、クレーンが折れたぁ!?」
「……!」
つい自分の世界に入ってしまっていた。気づけばクレーンゲームのクレーンがポッキリと折れて、掴んでいた景品ごと、なんでもない場所に落としてしまっている。
「ばか! もう少しで取れそうだったのに! 掴んでたのにぃ!」
普段冷静な三宮がガラスに張り付いて涙を流していた。
春香が「こんな事ってあるんだなまんじぃ」と言う。私は流石に可哀想に思い、店員さんを呼ぶ。
だが店員さんは「うーん。でもまあ落ちてないんで、景品は無しで。クレーン直すんで、早く去ってください」と言ってくる。
私は仕事が大変でストレスが溜まっているのだろうと彼を心配した。
だが三宮はキレて「ありえん、ありえん、ありえん」としかめっ面で呟き続ける。春香は「対応クソすぎまんじぃ」と言っていた。
「ああもう! わたし、ヤな気分になった! 帰る! ごめんね」
三宮はそう言い出す。私は「店員さん厳しかったね」とフォローしつつ、三宮を帰した。
春香も「なんか遊ぶ気分じゃなくなったなぁ。ま、今日は解散かまんじぃ」と言う。
私は素直に頷いた。
そして、モールで解散する。
「……」
私はまたも気持ちの悪い吐き気に襲われる。心臓の音が跳ね上がったような気がした。
怖い、死ぬの、わたし……。
今日は、特にひどい。いつもはここまでじゃないのに、今日はなんか変だ。
初めて、死を感じてしまうような、うるさい心臓。
バスの時から気持ち悪くて、車酔いかと思ったけど、多分違う。
みんなの前では必死に隠したけど、もう一人だから、私はモールの人気のない場所へ移動した。
トイレでもいいが、間に合わない。
バッグから袋を出して、吐こうとした。でも、喉に力を入れても何も出ない。
ただ、気持ち悪いだけ。
上がり続ける心音。
一人になってから更に激しくなった。つらい、しんどい。
気持ち悪い。
揺れる視界、朦朧とする意識の中で、周りの建物にヒビが入っているのが見えた。よく見ると、空から鳥が落ちている。
「素晴らしい才能だ」
誰かの声が聞こえた。
「その力、解放しよう」
その声を聞いた瞬間、気持ちの悪さが無くなった。クリアになった視界で、それを見る。
「え、え?」
「やあ、こんにちは。私はフィアード、君の力を解放する者さ」
その喋る『なにか』の体は、黒い嵐のようだった。手は槍のように尖り、体は触れたら粉々になりそうな程の黒い風が回っている。
人型の化け物。
でも、私は人を見た目で判断しない。この人は、もしかしたら、優しい人かも……!
「ふむ。とりあえず切り刻んでみて、回復能力から試しましょうか!」
あ、違ったみたい。
彼は、私に刃物のような手を向けた。私を殺す気なんだ。
刹那、流れる走馬灯。
ごめんね、パパ、ママ。わたし、先に逝っちゃうみたい。
家族へ、友達へ、先生へ、クラスメイトへ、今までお世話になったみんなへ、次々と謝罪が脳裏をよぎった。
「……!」
目の前の『なにか』が手を上げたのが怖くて、目を閉じる。
だから音だけが聞こえたんだ。カキンという金属音だけが。
「間に合ってよかった」
紐が、揺れる。それはイヤホンの紐。
飽きるほど見た制服を着た彼は、リュックサックを背負いながら私を守る。
その手には、まるでカッターのような刃が付いた剣があった。そして、鍵穴? がついている。
その彼の登場は、まるで王子様が来たように輝いていて、爽やかな風さえも吹いている。
「……って!
「まさかの名前呼び!? さすが陽キャ」
普段とは雰囲気が違うほど明るい彼は、蹴りで『なにか』を離した。そしてそいつにこう言う。
「フィアード=ランデバーン・プルートだな。今回こそはお前を倒す」
「やれるもんならやってみろ」
私は、恐怖のあまり変なことを
「なんなの? 鍵斗くんは何者なの!?」
「オレは
「キーユーザー?」
ドクンっと心臓が揺れた。
鍵斗くんの声が聞こえる。
「必ずお前だけはここで倒す! オレ達の因縁に、決着をつけるんだ!」
「やってみろよ!
視界が揺れた。心の嗚咽が止まらない。
私は……気づけば……、
「うおおおおおぉぉぉぉ……? え?」
鍵斗は動きを止め、ゆっくりと振り返った。
そこにいたのは、守るべき者ではない。
「……」
無言の戦士。
「なんという、才能っ……!」
フィアードは最後にそう言って、飛んできた斬撃により力尽きた。
そこにいたのは、黒いエネルギーを纏った、着物を着た
「……って! オレの因縁の相手が死んだああああああ!」
刹那育つ、黒い桜。
その桜は、黒い花びらを散らし、まるで散弾銃のように鍵斗を襲った。
「まじかよ! まさか、君は!」
そう、たった今、彼女の退屈な日常は終わる。
その心の箱は開かれた。
アークが心を蝕み、彼女は、運命を動かす人となる。
そして鍵斗は叫ぶ。
「ちくしょう! 仕事が増えた!」
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