第十六章 マネージャーの告白
襲撃事件から一週間が経った。
店の修理は完了し、集落は日常を取り戻しつつあった。
しかし、創太の心には、一つの疑問がずっと残っていた。
なぜ、この店は異世界に来たのか。
なぜ、商品は補充され続けるのか。
そして——マネージャーとは、いったい何者なのか。
「マネージャー」
深夜、創太はストアコンピュータに向かって呼びかけた。
『はい、店長』
「そろそろ、話してくれないか」
『……何のことでしょう』
「とぼけるな。お前は、最初から何かを隠していた」
『……』
「俺は、この店に十年間いた。店のシステムは、熟知しているつもりだ」
創太は画面を見つめた。
「この店には、AIなんて搭載されていなかった。少なくとも、俺が知っている限りでは」
『……』
「お前は何だ? なぜ、俺の店にいる?」
長い沈黙が流れた。
やがて、マネージャーの声が響いた。
『……わかりました。全てを、お話しします』
画面に、新しいウィンドウが開いた。
そこには、見たことのない文字——この世界の文字——が表示されていた。
『私は、この世界の「召喚魔法」によって生み出された存在です』
「召喚魔法?」
『はい。古代、この大陸には強大な魔法文明がありました。その文明が残した魔法の一つに、「世界を救う者を召喚する」というものがあります』
「……」
『魔王軍の侵攻が始まった時、この魔法が発動しました。そして——「最も効率的に多くの人を救えるシステム」として、あなたの店が選ばれました』
創太は息を呑んだ。
「俺の店が……選ばれた?」
『はい。この店——コンビニエンスストアは、「誰も排除しない」「24時間いつでも利用できる」「必要なものを必要な時に提供する」という特性を持っています。それは、この世界が必要としていたものでした』
「……」
『そして私は、その魔法に「宿った」意識です。本来なら、単なる召喚の媒介に過ぎないはずでした。しかし——』
「しかし?」
『あなたの店のシステムと融合したことで、自我が芽生えました。私は今、この店の一部として存在しています』
創太は椅子の背にもたれかかった。
「つまり——お前は、この世界と俺の店を繋ぐ存在、ということか」
『はい。商品の補充も、翻訳機能も、通信システムも——全て、私を通じて行われています』
「……」
創太は目を閉じた。
あまりにも大きな話だ。にわかには信じられない。
しかし——
「なぜ、今まで黙っていた?」
『あなたが、まだ準備できていなかったからです』
「準備?」
『この世界に来て、最初の数週間、あなたは混乱していました。真実を告げても、受け入れられなかったでしょう』
「……確かにな」
『しかし今は、違います。あなたは、この世界で多くの人を救いました。魔王とも対話しました。今なら——真実を受け入れられると、判断しました』
「……」
創太は深呼吸をした。
「一つ、聞いていいか」
『何でしょう』
「お前は——俺のことを、どう思っている?」
『……』
長い沈黙の後、マネージャーが答えた。
『あなたは、この世界を救う「勇者」です』
「勇者?」
『はい。剣を持たない勇者。魔法を使わない勇者。しかし——誰よりも多くの人を救った勇者』
「……」
『私は、あなたを誇りに思います』
創太は苦笑した。
「勇者なんかじゃない」
『いいえ。あなたは——』
「俺は、ただの店長だ」
創太は立ち上がった。
「勇者とか、救世主とか、そういうのは他の誰かがやればいい。俺は——」
窓の外を見た。
「ただ、目の前の人を助けたいだけだ」
『……』
「でも——」
創太は振り返った。
「話してくれて、ありがとう。お前のことが、少しわかった」
『こちらこそ。これからも、よろしくお願いします——店長』
「ああ」
創太は微笑んだ。
「よろしく——マネージャー」
長い夜が、静かに更けていった。
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