第十章 フランチャイズ展開

定時配送システムが軌道に乗ってから、一ヶ月が経った。


創太たちの集落は、もはや「集落」と呼ぶには大きくなりすぎていた。


人口は三百人を超え、周辺の五つの小集落と連携関係を築いている。


「店長、提案がある」


カイルが、真剣な表情でやってきた。


「なんだ」


「フランチャイズ展開だ」


「……何?」


「前に、お前が言っていただろう。この店のノウハウを、他の人に教えて、各地に店を作る、と」


「ああ……言ったな」


「それを、本格的に始めないか」


カイルは地図を広げた。


「北東の集落は、すでにかなり安定している。ガルムさんも、リーダーとして成長した。あそこなら、独立した運営ができる」


「独立?」


「俺たちが物資を供給し続けるんじゃなくて、あそこで自立的に運営できる仕組みを作る。そうすれば——」


カイルの目が光った。


「俺たちは、次の集落に進める」


創太は考え込んだ。


フランチャイズ。現実世界のコンビニチェーンが、急速に拡大した仕組みだ。


本部(この場合は創太の店)が、経営ノウハウ、物資供給、ブランドを提供する。各オーナー(この場合は各集落のリーダー)が、自分の判断で店を運営する。


「……面白いな」


創太は呟いた。


「でも、問題がある」


「問題?」


「この店の『商品補充システム』だ。これは、この店だけに機能している。他の場所では使えない」


「それは——」


「つまり、フランチャイズ店には、別の供給方法が必要だ」


創太は地図を見つめた。


「農業、狩猟、採集。この世界の資源を使った、持続可能な供給システム。それを、各集落で確立しなければならない」


「難しいが……不可能じゃないな」


カイルは頷いた。


「農業はすでに成功している。狩猟チームも機能している。あとは——」


「教育だ」


創太は言った。


「運営ノウハウを、体系的に教えられるマニュアルを作る。それを各集落に配布して、実践させる」


「マニュアル、か」


「ああ。衛生管理、在庫管理、配給システム、トラブル対応。全てを文書化する」


創太は立ち上がった。


「マネージャー」


『はい、店長』


「マニュアル作成を手伝ってくれ」


『承知しました。これまでの運営データを基に、体系的なマニュアルを作成します』


「頼む」


マニュアル作成には、二週間かかった。


創太は、この一ヶ月間の運営経験を全て文書化した。


「開店準備マニュアル」「衛生管理マニュアル」「在庫管理マニュアル」「配給運営マニュアル」「トラブル対応マニュアル」——


五冊のマニュアルが完成した。


「店長、これはすごい」


カイルが、完成したマニュアルを眺めながら言った。


「これがあれば、誰でも運営できる」


「それが目的だ」


創太は頷いた。


「俺一人がいなくても、仕組みが回るようにする。それが、本当の『組織』だ」


「……お前、本当に商人か?」


カイルは呆れたように笑った。


「考え方が、将軍か宰相のそれだぞ」


「大げさだ。普通のマネジメントだ」


「俺には、普通に見えないがな」


マニュアルは、まず北東の集落——ガルムの集落——に導入された。


ガルムと数人のリーダー候補が、創太の元で一週間の研修を受けた。


「衛生管理が最も重要だ」


創太は、研修の冒頭で強調した。


「病気が蔓延したら、全てが崩壊する。だから、手洗い、消毒、ゴミ処理——基本を徹底しろ」


「わかった」


ガルムは真剣な表情で頷いた。


「次に、在庫管理。何が、どれだけあるか、常に把握しておく。そうしないと、配給が滞る」


「記録をつけるんだな」


「そうだ。毎日の入出庫を記録する。面倒だが、これをやらないと後で困る」


研修は、実践形式で進められた。


実際に店の運営に参加し、配給を手伝い、トラブル対応を経験する。


一週間後、ガルムたちは自信を持って帰っていった。


「ありがとう、店長」


ガルムは、別れ際に深く頭を下げた。


「あんたに教わったことを、必ず活かす」


「頼む。何か困ったことがあれば、いつでも連絡しろ」


「ああ」


ガルムは去っていった。


その背中を見送りながら、創太は思った。


これで、一つ目のフランチャイズ店が誕生した。


「次は、どこに広げよう」


創太は地図を見つめた。


やることは、まだまだあった。


物語は続く。


創太のコンビニは、異世界で着実にその影響力を広げていった。難民たちは希望を取り戻し、各地の集落が連携を深め、そして——魔王軍の影が、少しずつ近づいてきていた。

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