第六章 参謀との出会い
集落の人口は、百五十人を超えた。
小屋は五棟に増え、畑は三エーカーに拡大した。狩猟チームは毎日のように獲物を持ち帰り、食糧事情は着実に改善していた。
しかし、新たな問題も生まれていた。
「組織化が必要だ」
カイルが提案した。
「人数が増えすぎた。店長一人で全部を管理するのは、もう限界だ」
「……わかっている」
創太は頷いた。
確かに、最近は睡眠時間が三時間を切ることも珍しくなかった。食料配給、農業指導、建設監督、衛生管理、そして人間関係のトラブル処理。全てを一人でやるのは、物理的に不可能になりつつあった。
「組織を作ろう」
創太は決断した。
「部門を分けて、それぞれに責任者を置く」
「どう分ける?」
「四つだ。農業部門、狩猟・採集部門、建設・整備部門、そして——」
創太はカイルを見た。
「情報・戦略部門」
カイルの目が光った。
「俺に、その部門を任せるのか?」
「ああ。お前は元参謀だろう。情報の分析と戦略立案は、お前の専門だ」
「……」
カイルは沈黙した。
やがて、深く頭を下げた。
「光栄だ。全力で務める」
「大げさだな」
「大げさじゃない。俺は追放された身だ。もう一度、誰かの役に立てるとは思わなかった」
創太は少し照れくさそうに目を逸らした。
「……礼はいらない。仕事をしてくれれば、それでいい」
組織改編は、スムーズに進んだ。
農業部門のリーダーには、農夫のマルコが就任した。経験豊富で、難民たちからの信頼も厚い。
狩猟・採集部門は、リーナが率いることになった。獣人たちの支持を得ており、実績も十分だ。
建設・整備部門は、もちろんゴルドだ。ドワーフの技術力は、この集落の基盤を支えている。
そして、情報・戦略部門——カイルの元には、意外な人材が集まった。
「俺も手伝いたい」
名乗り出たのは、若い人間の男だった。元は商人の見習いで、数字に強いらしい。
「俺はエルフの魔術師だ。遠視の魔法が使える」
エルフの女性も志願した。魔法で遠くの様子を見ることができるらしい。索敵に使える。
「私は、元・王国軍の伝令だった。地理に詳しい」
中年の女性も加わった。周辺地域の情報を、誰よりも把握している。
「いい人材が揃ったな」
創太は感心した。
「これで、かなり効率的に動けるようになる」
「ああ」
カイルは頷いた。
「情報部門の最初の仕事は、周辺の状況把握だ。魔王軍の動き、他の難民集落、そして——」
カイルの目が鋭くなった。
「潜在的な味方を見つけることだ」
「味方?」
「俺たちだけで魔王軍に対抗するのは不可能だ。でも、味方を増やせば——可能性は広がる」
創太は考え込んだ。
確かに、この集落だけでは限界がある。しかし、同じような集落が他にもあるなら——連携できれば、より大きな力になる。
「調査を進めてくれ」
「了解」
カイルは去って行った。
その背中を見送りながら、創太は思った。
この集落は、確実に成長している。でも、まだ「守る」だけだ。
いつか——外に向かって「動く」時が来るかもしれない。
その時のために、準備を進めておく必要がある。
数日後、カイルが重要な情報を持ってきた。
「店長、エルヴィスの遠視で、興味深いものを見つけた」
「何だ?」
「北東に約二十キロ。別の難民集落がある」
創太の目が光った。
「規模は?」
「俺たちより小さい。三十人程度だろう。でも——」
カイルは眉をひそめた。
「状況はかなり厳しいらしい。食料が不足していて、病人も出ている」
「……」
創太は腕を組んだ。
二十キロ。徒歩で一日の距離だ。物資を運ぶには、馬車か何かが必要になる。
「行くか?」
カイルが聞いた。
「助けに行くか?」
創太は窓の外を見た。
この集落の人々のことを考えると、余裕はない。食料も、人手も、ギリギリだ。
でも——
「行く」
創太は言った。
「困っている人がいるなら、助けに行く。それが——」
店の看板を振り返った。
「フレンドリーマートの流儀だ」
カイルは笑った。
「予想通りの答えだな」
「わかっていたのか」
「ああ。お前は、そういう人間だ」
カイルは立ち上がった。
「遠征チームを編成する。俺も同行しよう」
「頼む」
創太も立ち上がった。
「リーナにも声をかける。護衛が必要だろう」
「ああ」
二人は、並んで部屋を出た。
新しい冒険が、始まろうとしていた。
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