白い春

@hatisuke_2040

雪山

 今は春。白い春。私は白い、雪みたいな花びらの中で、ウトウトと口から白い雲を吐き出している。


 風が吹いた。最初は冷たさに目を瞑ったけど、すぐに身体がぽかぽかしてきて、私は目を開いた。


 気づけば私は、木に寄りかかって座っていた。周囲を見渡せばどこまでもどこまでも、ずっと明るい色の花畑が広がって地平線を覆ってる。


「シューネー!!」


 私の名を呼ぶ声が聞こえてきた方を見る。茶髪の少女。名前はリーベル。私の友達で、私と同い年の女の子。


「早くおいでよー!」


 元気で、明るい声。でも、どうして私を呼んでいるの? 私は……私達は何をしていたんだろう。


 そうやって考えを巡らせるうちに、リーベルは走って離れていく。私は思わず立ち上がり、走って追いかけた。


 白い蝶が春風の中を舞っている中、リーベルが逃げる。花びらが飛ばされて、流れて、見えなくなっていく中、私はリーベルを追いかける。


 どこまでも続いていきそうな水色が、ずっと遠くの、遠くまで天を満たしていた。時々雲が太陽を遮って、影ができる。


 リーベルはたまに振り返って、私に向かって手をふった。私は足が遅いから、中々追いつくことができなくて、それでも私は高揚感の中で走っていた。


 ミツバチの隣で足を動かす。花を揺らしながらリーベルが通り過ぎて、少し遅れてから私の白い息切れが通り過ぎた。


 だんだんリーベルの足が遅くなる。疲れてきたんだろうか。そんなに息が上がっているようには見えないのに。


 私は疲れたような気がした。だけれど、私はそれでもリーベルを追いかける。雲の影をくぐって、また日向に出た。だんだん私と、リーベルの距離が近くなってきている。


 春の温かな陽気の中で、追いかける私とくるりと回るリーベル、それぞれの脚が花びらを散らして踊る。もうリーベルはすぐそこ。


 私はリーベルに向かって手を伸ばした。


 けど、リーベルの手首を捕まえたと思えば、どうしてか彼女の姿は忽然と消えてしまった。


 私は周囲を見渡す。どこにいるの、と。


 影も、形も、どこにも、何もない。だけどそんな彼女は突然、私の後ろに現れた。


「えいっ!!」


 そして彼女は私に飛びついて、私を花の絨毯の上に押し倒した。私はリーベルを見上げた。蒼い空に、彼女の艶のある茶色い髪が映えていた。


「私の勝ちだね!」


 リーベルは言った。


 何か、リーベルと勝負していたっけ。私はそう思って、首を傾げてみせる。


「忘れちゃったの? 私たち、追いかけっこをしていたんだよ? シューネは私を捕まえそこねたから、今度は私が鬼になったの」


 リーベルはそう口にしながら私の隣にゴロンと寝転ぶ。私は横のリーベルに目をやって、にこりと微笑んだ。


「シューネ……覚えてる?」


 リーベルが言い出す。私は何の話だろう、と思った。


「やっぱり忘れちゃったんだ」


 私はもうしわけなさを少し感じつつ、頷いた。


「シューネ。約束だったんだよ」


 リーベルは青い空を見つめながら、言葉を花畑に響かせる。私はそんなリーベルの横顔を見つめながら、リーベルの声を聞いた。


「私が勝ったら、シューネは私と一緒にいくんだよ」


 そんな時、風が吹いた。たくさんの黄色、ピンク色、そして白。いろんな色の花びらを運んできた風に、私は思わず目を瞑った。


 風が髪の毛を巻き上げる……かと思ったけど、根本が少し揺れるだけ。髪の毛は先が固まってしまったみたいにしか動かなかった。


 風はまだ止まなかったけど、私はゆっくりと目を開ける。映ったのは、舞いに舞う花びら……真っ白な雪。


 目を開けると、吹雪いていた。地面に広がるのは白に汚染された銀世界。2m先も見えないような、すごい吹雪だった。


 私はしばらく、そんな風景をぼーっと眺めた。意識がぼやけていた。そして私は半目になった生気のない目を動かして、リーベルを探す。


「りー……べる……ちゃん……」


 すぐに見つかった。彼女は髪の毛を白くして、まつ毛を、眉毛を白くして、目を瞑って眠っていた。白い顔は、とても綺麗だった。


 寒さは感じなかった。むしろ暑くて、身体の底から暑くて、どうにかなりそうだった。私は服の胸元をパタパタして暑さをごまかそうとする。


 だけど、どうにもならない。


 私は薄れゆく意識でリーベルを見つめた。青白い顔は涼しそうに眠っていて、触ってみればそれを分けてもらえるような気がした。


「り……べる……ちゃん……」


 私はリーベルの頬に手を伸ばした。その頬はとても冷たくて、気持ちが良い。重い体を動かして、リーベルに抱きつく。熱さがどんどん抜けていく。どんどん涼しくなっていく。


「涼しいね……」


 吹雪が強さを増して、私の目を閉じさせた。それを最後に私は冷たい息を吐くことも吸うこともせず、ただの氷と変わらなくなった。


===


 かなりわかりにくい話になったので、色々解説させてくださいm( _ _ )m。


 まずこの話は、雪山の遭難を題材にした話です。二人の少女が遊びで雪山に踏み込み、遭難し、凍死するといった内容ですね。


 そして各描写についてなのですが、一応この辺は現実的にあり得ることを少々気取って描いてみた感じになってます。つまり雪山で遭難したら起こり得るかも知れないことを書いてるわけです(間違ってたらすみません)。


 では解説ですが、最初の花畑のシーンは体温低下による幻覚です。これは脳の中枢が体温低下で脳の機能が抑制され、異常をきたすために幻覚が発生します。


 一説によるとアドレナリン酸化物なるものの影響で神経中枢が麻痺してしまうことも幻覚の一因だとされているそうですが、詳しくないのでよくわかりません(笑)。


 そして最後の寒いはずの雪の中でやたらと暑いだなんだと言っているのは『矛盾脱衣』と呼ばれる現象の前段階です。


 まず人間の身体は極寒の環境にいる時、体内の重要な臓器に血を集めて体温の低下を防ごうとします。身体の外側に近い血管を収縮させて、血が身体の奥に溜まるようにするのです。


 しかし、あまりその状態が長く続くと脳がおかしくなったことで収縮が解除されてしまったり、筋疲労で収縮が維持できなくなったりしてしまいます。


 極限まで温度が低下した外部の血管・細胞に体内の温かい血液が流れ込むことにより、体内から燃えるように熱いという錯覚を覚えるわけです。


 その結果熱さに耐えかねて服を脱いでしまうのが、矛盾脱衣です。まあ、この話において主人公の女の子が服を脱ぐことは無かったのですが……。


 とまあ、この遭難の話はこういうものでした。勉強になったな、そうでなくとも面白いな、と思っていただけたら幸いです(笑)。


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