王国一の美女と結婚してみせろと幼馴染に言われたので、 真面目に自分磨きをしていたら女性を沼らせてしまった件
イコ
第1話 幼馴染との決別
俺にはずっと好きな人がいた。
幼い頃から隣にいてくれて、彼女と、結婚するものだと疑いもしなかった。
彼女を支え、彼女の夫になるのが当たり前。
リナは、美人で、有能で、完璧だった。
腰まで流れる淡い金髪。凛とした青い瞳。姿勢も所作も隙がなく、王宮魔法学院を首席で卒業した才女。魔法の才能にも恵まれ、今では若くして王国直属の魔導士として名を知られている。
誰もが彼女を「将来有望」と言い、誰もが彼女に憧れた。
そして、彼女の幼馴染である俺は……。
顔立ちは、まあ、そこそこ整っているらしい。リナの隣にいても見劣りしないと言ってもらったことがある。
だけど、恋愛経験は皆無。いや、リナ一人だけだった。
特別な才能はない。
剣は学園でも上位だったが、一位になれるほどじゃない。
魔法は並で、リナに比べれば才能なし。
取り柄といえば、人の話をちゃんと聞くことと、ずっとリナの世話をしていたから家事全般。あとは頼まれたことを断れない性格かな? 自分ではわかっていないけど、人から褒められたことがあるのはそれぐらいだ。
これまではずっと彼女の隣にいた。
それだけで、十分だと思っていた。
リナに別れを告げられるまでは……。
♢
ある日、俺はリナに頼まれた甘い物を買ってから彼女を迎えにいくつもりだった。
そろそろ学園の卒業が近づいていて、それぞれの道に進んでいく。
俺は騎士見習い。リナは宮廷魔導師見習いとして、各々の職場に向かうのだ。
彼女の好きな甘いマフィンを手に入れて、一緒に紅茶を飲む。そんなことを想像しながら、彼女の家に向かっていると、彼女が男に抱きしめられている光景を目にした。
「なっ?!」
俺は固まってしまって、二人が離れるまでじっと見つめた。
男はリナを離すと彼女の唇を奪って立ち去っていく。
俺たちは恋人ではない。幼馴染だ。
彼女に彼氏ができても文句を言える立場ではない。
それはわかっている。だけど……
「リナ」
男がいなくなって、俺は彼女に声をかけた。
「ホート、どうしてここに?」
「君と紅茶をしようと思って、市場の帰りだよ」
「……そう」
彼女は気まずそうにしながらも、いつもの凛とした雰囲気を放っていた。
夕暮れ王都の外れ、リナと俺の間に大きな溝が生まれいていた。夕焼けに染まる彼女の横顔は、相変わらず綺麗で、少しだけ大人びて見えた。
「今の人は? 彼氏?」
「えっ? 見てたの?」
「うん。キス、してたね」
胸が締め付けられる。痛い。苦しい。
「あなたには関係ないでしょ」
関係ない。そっか、リナには俺は男として見られてなかったんだ。
そして、彼女がキスをしていた相手は僕らの一つ上の学年で、マグナム・フラーボ・ギャラクティカ公爵子息。
俺でも知っている有名人で、リナと同じ宮廷魔導師見習いとして卒業した人だ。高身長でイケメン、女性からの人気も高く。多くの女性たちとの噂の絶えない人だ。
「だいだいあなたは……このままでいいと思ってるの?」
「え?」
唐突すぎて、間の抜けた声が出た。
「このままじゃ、だめよ」
「何がダメなんだ?」
リナは腕を組み、はっきりと言い切る。
「あなたって私に相応しくないと思うの」
「相応しくない?」
「ええ、あなたが王国一の美女と結婚できるくらいの男ならよかったのに、ねぇ、そんな男になってみせてよ」
……一瞬、意味が分からなかった。
彼女は何を言っているんだろう? 王国一の美女と結婚?
「お、王国一?」
「そうよ。今のあなたは中途半端だわ。そういうのがずっと嫌いだった。どうせなら、王国一の美女が放っておかないくらいの男を目指しなさいよ。私の隣にずっといたくせに」
冗談めかした口調じゃない。彼女の瞳は真剣だった。
ずっと、彼女は俺に怒りをぶつけていた。
長い付き合いだからわかってしまう。本気で彼女は俺に王国一の美女と結婚できる男になれと言っていた。
そんなのは無理なのに。俺はリナのように優秀じゃない。
男爵家の三男坊で、家督も告げない。だから、学園で騎士になるための勉強をしてきた。なんとか、ギリギリ騎士見習いの資格は得られた。
リナは宮廷魔導士見習いだが、実際は補助として学園を卒業後は出世街道を突き進む。つまりは、俺の存在が邪魔になったのだろう。
先ほどの男は、エリートそうな身なりとイケメンだった。
「それって……」
喉の奥が、少しだけ詰まる。
「……俺じゃ、だめってことか?」
沈黙。ほんの一拍。されど、致命的な一拍。
リナは、視線を逸らした。
「そうね、今のホートじゃダメね」
彼女は本心を隠す時、視線を逸らす癖があり、つまりは彼女にとって俺は邪魔な存在になったということだ。
誇り高くて向上心のある彼女は俺という流されるだけの男を切り離したくなった。
その沈黙が、答えだ……。
「そっか、わかったよ」
「ホート!」
「リナ。今日まで、ありがとう。じゃ」
彼女の言葉から逃げるように駆け出していた。
その日、俺は初めて知った。
彼女は、俺と結婚するつもりなど、最初からなかったのだと。ずっと一緒にいた。優しくしてくれた。頼ってくれた。笑ってくれた。
それは、幼馴染だから。それ以上でも、それ以下でもなかった。胸の奥が、静かに、確実に、壊れていく感覚がした。
好きだった。一生側にいたいと思った。彼女を守るためなら命を投げ出してもよかった。だけど……彼女がそれを望まない。
彼女の望みは、俺が王国一の美女と、結婚すること。
自分でも驚くほど、その決意は冷静だった。
失うものは、もう失った。だが、ひとつだけ問題がある。
「……王国一の美女って、誰だ?」
王女か?
公爵令嬢か?
それとも聖女か?
分からない。基準が曖昧すぎる。
だから俺は、単純な結論に至った。
王国で「美女」と呼ばれている相手に、順番に会ってみよう。
翌日から行動に移すために、いつも通っていたリナの家に行かなくなった。
俺はリナの前から姿を消した。
♢
sideリナ
あの日、私は甘い言葉に身を委ねた。
マグナムさんは、ずっと私に声をかけ続けてくれいた。優秀な人で女性からも人気があり、余裕のある男性。
「君は優秀で賢い女性だ。わかるだろ?」
公爵家の嫡子であり、高位貴族。
彼と話すことは刺激的で、落ち着いて話ができるホートとは違う魅力を持っていた。
だけど、キスをされるなんて思っていなかった。
ただ、突然抱き寄せられて、キスをされた。呆然としていると。
「良い返事を期待している」
彼から、交際の申し出を受けた。いいえ、結婚を前提にした告白だった。
そこにホートがやってきた。
どうして……? ホートは怒ることなく、私の身勝手な言葉を聞いていた。
そのまま立ち去っていく後ろ姿を見つめるだけだった。
翌日、ホートは私の前からいなくなった。
いつもなら、何も言わなくても会いに来たのに。疲れていれば、黙ってお茶を淹れてくれたのに。忙しければ、何も言わずに待ってくれたのに。
……私は、背中を押しただけ。
王国一の美女。
「ホートにとって王国一の美女は私でしょ? 確かに私は素直じゃない。だけど、そんな私にホートはずっと側にいてくれた。妬みや、嫌がらせを受けてもホートがずっといてくれたから頑張れた。だから、マグナムさんと同じで、彼から告白してもらうために言ったのにどうして会いにこないの?!」
自分に相応しい男になりなさい。
そのつもりだった。
なのに……なんで、いなくなるのよ。
胸の奥が、ざわつく。
不安と、苛立ちと、得体の知れない焦り。
知らなかった。
あの一言が、彼を「自分の前から消す言葉」だったなんて。
そしてこの日から。
ホートが私の知らない女性と会っているという噂を聞くことになるなんて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
十三話まで読んでね(๑>◡<๑)
きっと面白いので! よろしくお願いします。
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