『喧嘩無双〜魔力0で追放された俺、魔法を拳でぶっ潰す〜』

夢紙 獏

第1話 喧嘩無敗


「おい、鬼塚ァ!」


 放課後の校舎裏。

 いつもの怒号が響く。


 振り向けば、見覚えのある面が五つ。

 先週ボコした三馬鹿が、今度は増援二人連れてきやがった。


 歯抜けのリーダーが口の端を歪める。


「前はよくも俺の前歯ぶっこ抜いてくれたなあ! 調子こいてんちゃうぞ、ダボが!!」


 俺──鬼塚剛は、金髪リーゼントを撫でつけた。


「三人じゃ足りなかったから五人か」


 ため息混じりに笑ってやる。


「何人集めても、雑魚は雑魚なんだよ」


「うっせぇ! いてまうぞコラ!!」


 男の拳が振り上がる。──遅い。


 踏み込み、顎に右ストレート。


 ガキン。


 骨が砕ける感触と共に、男が宙を舞った。


「遅ぇんだよ」


 残り四人が群がってくる。


 一人目はフェイントで転ばせ、二人目の腹に膝。

 左から来た拳を流して、カウンターで鼻をへし折る。


 ──五分。

 いや、三分か。


 地面に転がる五つの肉塊が呻いてる。


 俺はポケットに手を突っ込んだ。


「次はもっとマシな奴連れてこい」


 誰も返事しねぇ。

 まあ、聞こえてるかも怪しいか。



 商店街の夕暮れは赤い。


 スマホの画面には、例の広告。


『異世界転生で俺TUEEE! 最強チート能力で無双!』


 舌打ちが漏れた。

 最近こんなんばっかだ。


 チートだ転生だと騒ぎやがって。


「現実で勝てねぇ奴が妄想で無双して、何が楽しいんだよ」


 強さは拳で証明するもんだ。

 血と汗と根性でな。


 そう思いながら画面をスワイプした瞬間──


「鬼塚先輩!」


 振り向けば、見覚えのある一年坊主。


 ああ、こいつか。この前トイレでいじめられてた。


「先輩のおかげで勇気もらいました! 空手部入ったんです!」


 キラキラした目がうぜぇ。

 でも、悪い気はしねぇ。


「そうか」


 頭を軽く撫でてやった。


「頑張れよ」


「はい!」


 走り去る背中を見送りながら、ふと思い出す。

 さっきの歯抜け──こいつをいじめてた奴だったか。


「ハッ、そういうことかよ」


 どうりで必死だったわけだ。


 スマホに目を戻す。

 また転生広告。


「くだらねぇ」


 ポケットに突っ込んだ。



 ──その夜のことだった。


 暗い路地に、単車のエンジン音が響く。


 振り向けば、ヘッドライトの海。


 ざっと百人。


 全員が特攻服の暴走族。


「……マジかよ」


 中心にいるのは昼間の歯抜け。

 その横には、明らかに格が違う男。

 ドクロの刺繍が光ってる。


 族のヘッドが呆れ顔で言った。


「はぁ? マジで一人? おい歯抜け、終わったら上納金倍な」


「こいつマジ強いんすって!」


 歯抜けが必死に叫ぶ。


「鬼塚! 今日がてめぇの命日だ!」


 俺はリーゼントを整えた。


 百人か。


「上等だ」


 ニヤリと笑う。


「全員まとめてかかってこいや!!」


 最初の一人が飛びかかる。


 顔面に右。鼻が潰れる音。

 バット持ちの手首を取って逆に奪い、三人まとめて薙ぎ倒す。


「タイマンも張れねぇ雑魚が!」


 十人、二十人と沈めていく。


 だが、多勢に無勢。

 後ろから、横から、雨のように拳が降ってくる。


「チッ……」


 それでも止まらねぇ。

 止まるもんか。


 三十人は沈めたか。


 その時──


「くそ……こうなったら!」


 歯抜けがポケットから何かを──ナイフ。


「卑怯もクソもあるか! 死ねぇ!」


 避けようとした。

 だが、足がもつれる。体が重い。


 刃が脇腹に突き刺さった。


「がっ……」


 血が噴き出す。


「やった! やったぞ! 全員でやれ!」


 族どもが群がってくる。

 バットが、鉄パイプが、容赦なく振り下ろされる。


 視界が赤く染まっていく。


(群れなきゃ……何もできねぇ……クソが……)


 地面に倒れた俺を、靴が踏みつける。


 意識が遠のく中、最後に思い出したのは──あの一年坊主の顔だった。


(ちゃんと……強くなれよ……)



 暗転。


 そして──


「ようこそ」


 光だけの空間で、女が微笑んでいた。

 

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