地獄の沙汰も金次第〜悪しきものには金の罰を〜

四季織姫

第1話 このおろかものに金色の罰を

 ここはアルストロメイド大陸の西側に位置する大国、ハイン王国である。

 この地では日夜、戦線が広がり続け、兵士や魔法使いが戦いを繰り広げている。

 周辺諸国との戦争で疲弊しているはずの彼らが未だ戦いに勝機を見出しているのには、彼の国が保有する最高戦力、七聖の存在があった。

 そのうちの一人、未だ17にも満たないその若さで戦場を地獄に変えている少女、リリル・アッシュフェード、通称、終末の魔女こそがこの物語の主人公である。

 まさに戦場に地獄の徒花を咲かせてきたばかりの彼女に一報が届く。

 王国政府、ひいては国王からの勅命であった。

 一時戦場より帰還し、王都にある魔法学園にて教育者として生徒を指導してほしいというものであった。

「次はどこを地獄にすれば」と意気込んでいた彼女だが、読者の諸君、安心してほしい。

 この物語はそんな残酷な物語ではなく、この魔女のコミュ力が空回りし続けて、王子王女とキャッキャウフフな展開のハートフルラブコメディになる予定だ。

そして、彼女は手紙に添えられていた前金を手にしながら王都へと旅立っていくのだった。

 この前金は、彼女を動かすために必要な交渉材料なのであった。

 彼女は金さえ積めばなんでもする外道だが、それゆえにより高い金を積んだ方に簡単に寝返ることもしばしば。

 まだ、この国を捨てていないのにはそれなりの裏事情があったりする。


 さて、馬車に揺られて、三時間ほど、日本ほど整備されていないこの道ではすでにもう彼女の腰は限界に達していたのだった。

 こんな様では職場で満足に働くことはできないだろうと、サボる理由を作り始めているのだった。

 彼女の乗った馬車が王都外周の門へと辿り着いた。

 そんな彼女に身分確認を行った青年兵士は驚いた様子で大きな声を上げたのだった。

「終末様ですか⁉︎」

 そのあまりにも大袈裟な声はあっという間に周辺に広がり、彼女の元へと人が集まり始めた。

 こんな外道でもこの国では英雄なのである。

 先ほどの青年兵士が申し訳なさそうに人混みを整理し、道を作ってくれる。

 彼女の馬車はそこを通り、学園へと進んでいくのであった。

 道中彼女の目に触れる店は今まで彼女が暮らしてきた世界とは別物とも呼べる様相で、誰が見てもわかるほどに彼女は期待に満ち溢れた表情をしているのであった。

 それからいくらか経った頃、彼女の前には大変立派な建物がそびえ立っていた。

 すくなくとも彼女の身長では見上げてなお見切れるほどに大きなその建物で彼女は今日から教鞭を振うのだった。

 もちろん、本当に彼女が鞭を振るうわけでは無いのだが。

「ようこそ、終末の魔女、リリル・アッシュフェードさん。私は当学園アルスハイン学園の学園長をしております。アガスティア・トーストと申します。皆からはティア先生と呼ばれているのでよければそう呼んでくださいね。そしてこちらは、ご存知ですよね」

「ロイド・クリムゾンです。お久しぶりですね。終末殿」

 門前に立っていた二人の男女がそう言葉を口にした。

 そして、ロイドという男が言う通り、私は彼のことは知っている。

 もちろん、学園長の方も名は知っていたが、男の方はそれよりもう少し深い関係性だ。

「お久しぶりですね、紅蓮殿」

 そう、何を隠そう彼もまた七聖の一人なのである。

「とはいえ、七聖が二人も戦場から抜けて大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫でしょう、今は戦場も落ち着いているタイミングですから」

なら良いのだが。

「感動の再会のところ申し訳ありませんが、リリルさん、学園の方の案内をしてもよろしいでしょうか?」

「でしたら、先に彼女の仕事について話した方が良いのでは?」

「そうでした!それが先でしたね」

 ティア先生は私を連れて、職員室に向かった。

 もちろん、紅蓮殿も一緒だ。

 職員室には数人、人がいるだけで小さな場所であった。

 その様子を不思議に思っていると、

「この学園は広いですから至る所に職員室があるのですよ」

 と、教えてくれた。

「ここがあなたの仕事机ですね」

 そう案内されたのは部屋の中央の辺りにある大きすぎない普通の机だった。

 隣は片側にしかいない端の机でその隣というのも紅蓮殿のことだった。

 こんなところでも腐れ縁か。

 そして、改めて案内された職員室の隣にある小さな談話室で私は今回の仕事の内容を改めて聞かされたのであった。

 それも、長々と約一時間半。

 まさか、チャイムを四回も聞く羽目になるとは思いもしなかったのである。

 要約すれば、この学園に通われている王室の方々との交流と、彼らに近づく不躾者や不審者の撃退、後は彼らの世話係が今回の仕事だという。

 戦場から帰還させられて、新たな仕事と言われたのが子守だとは思わなかったが、私はあえて何も言わなかったのである。

 もちろん、それは金だけの関係とはいえ、王国に恩義があるからである。

 彼らの金がなければ私は生きてはいけないからね。

 今日のこの後の予定は学園の見学、王室二人への謁見、寮、といっても王室用のバカ高い別棟のお屋敷への入居。

 そして、学園の見学はつつがなく済んだのだが、王室二人への謁見がとても大変だった。

「お初にお目にかかります、終末の魔女、リリル・アッシュフェードと申します」

「ああ、僕はジェイアス・ムーナハイン。この国の第二王子だよ」

「私はアリーナ・ムーナハイン。第一王女でございます。よろしくお願いしますね。ただ」

 ただ?

 そこでジェイアス様に言葉が変わる。

「一つ訂正させて貰おう、僕とアリーナ姉様は何も君と初対面というわけではない。とはいえ、かなり昔のことな上に、僕らは王室として、君は英雄として職務を果たしていたから君は覚えていないかもしれないけどね」

 昔に会っている?

 アリーナ王女にジェイアス王子。

 どこかで聞いた覚えは確かにある。

 まさか?

「アリ姉とアスくん?」

 ぷっ。

 王室のお二人が盛大に笑っている。

「そうだよ、リリルちゃん」

「そうさ、そのアスくんさ」

 さて、と二人は佇まいを直す。

 その切り替えの良さにこちらは感嘆の声を漏らす程だった。

「リリル、君は今回の仕事の話、どこまで聞いているのかな?」

「一応、お二人の世話役という話になっていると思いますが」

「そうかい、その言葉に真意は聞いたかい?」

「いえ、真意とは?」

「わかった、じゃあ、見てもらった方が早いね」

 そういうと二人は私の方へと近づいてくる。

 動揺し、何もできずにいると、二人は急に私の服をはだけさせた。

 襟元のリボンをほどき、首元を晒させる。

 いや、急に何を。

 というか、後ろにまだ、紅蓮殿やティア先生がいらっしゃるのだけど。

 二人は何やら微笑ましい様子で見守っているのだが?

 なんて考えているうちに、二人の顔が私の顔、いや首元や肩に近づいていた。

 それも彼らの呼吸がわかるほどに。

「ん」

 急に首と肩から小さな痛みが走る。

 それから小さな快感と脱力感がくる。

 何が起きているのか理解できずにいると、二人の顔が私の体から離れていった。

「えっと、一体何が何やら、なんですけど」

 とりあえず、首元と肩に指を持っていくと何やらもう一度痛みが走る。

 そして、そこには小さな穴が二箇所ずつ開いていた。

 そして彼らの犬歯には私のものであろう血が垂れているのである。

 彼らはニコッと笑って、「ご馳走様」と言い放つ。

 その表情にゾワっとした寒気とゾクっとした興奮が立ち昇る。

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