最終話
こうして人間と魔族は互いに互いを攻めないという前提で和平を樹立した。その和平の証に人間が魔族に嫁ぐ。
私のことです。
魔王は私のあの言葉がよほど気に入らなかったらしく、強引に私を自身の妃にしやがった。しかも条約締結に血縁関係を結ぶことを盛り込むことは国家間でも定石である。人間側からも魔族に通ずる人間がいるというのは願ったり叶ったりであったので、特に反対もなかった。
父としても清々したところだろう。実父だが私は彼に嫌われている。私の方が人気があるから疎ましいんだってさ。人格者でごめんなさいね。
仮に疎まれていなくても父王の判断は正しい。和平が成るならそれに越したことはないし、娘がその役に立つのならばそうするべきだ。
その上私は一度魔王に誘拐された身。清らかな身体だと主張しても周囲はそうは思わないだろう。魔物と交合した姫など貰い手が現れるわけもない。
その辺を考えれば嫁に出されることに異論はない。元より王族、政治的判断で伴侶が決まることなど分かりきってきた。私に否やはない。あるとすれば国の後継問題だけれど、それこそ国を出た私には関係ない。頑張れ父、宰相兼王弟が野心持ってるけど革命が起きなければいいね。
そう。私が考えるべきは国のことではない。今この状況についてだ。
和平交渉は私の知らないところで行われ、私には結果だけが伝えられた。随分手早くまとめたのねと聞くと魔王はニヤリと笑った。この和平交渉に主だって動いたのはスカル将軍だという。ロロアはすっかりスカル将軍に夢中なのだがスカル将軍もロロアにぞっこんらしく、ロロアを正式に貰い受けるためにも随分アレコレと張り切ったそうだ。あと魔王と取引があったようで和平が条件通り無事に樹立させることが出来れば、受肉してスケルトンからアンデッドにして貰うのだそう。……ようはロロアと心身共に夫婦になりたいということだろう。エロゲなのにちゃんと順序踏むんだな。なんか一気にスカル将軍が可愛く思えてきた。
その魔王は約束通りスカル将軍を受肉させた影響か随分草臥れた様子で横になっている。ベッドに横たわるのは良いんだが、その枕に私を所望するのはどうなんだ。なんていうか、私フッたようなものだよね?
キメ顔で「私は貴方の何者にもならない」とか言った手前、速攻で妻にさせられて正直座りが悪い。何者にもならないってなんだよなってるやんけ。カッコ悪いなぁ私。
そんな私を見上げて、魔王はポツリと噛み締めるように呟いた。
「お前は嫌だと言わないんだな」
自分で言っておいて面白かったのだろう。魔王はフッと笑った。
「言うわけないか。お前は国のために生きる女だ」
幼い頃から帝王学で叩き込まれている。もし本当に私が幼かったのなら多分こんな人間には育たなかった。私には前世の記憶があって、合理性というものを知っていた。帝王学は私の生きるための道しるべになった。そうでなければここがエロゲの世界で、自分が凌辱されるだけの姫だと気付いた時点で逃げている。逃げなかったのはそれが国のためにならないと分かっていたからだ。
「お前を囲い込むのに檻など必要ないな。立場と役目を与えてやればその通りに生きるのだろうよ」
腹が立つな、図星だからこそ余計に。漠然と嫌だなぁと思う。この人と夫婦になることはいい。それが万人のためだ。だが機械的に手続きをすれば手に入ると思われるのも癪だ。私だって心ある人間だぞ。
膝の上に乗るこの人の顔をじっと見つめる。魔王は拒否されないと高をくくって私の膝に頭を置いた。実際私は驚きつつも拒否しなかった。これからは夫婦円満だと周囲にアピールしながら、両者の間で起こるだろう摩擦や軋轢を少しでも少くするように勤めていかねばならない。今後はそれが王妃となった私の役目。故に王の求めに応じないという選択肢はない。……私に感情がなければね。
魔王の髪を触れて梳く。魔王は驚いた顔で私を見上げた。拒否はされないと思ってはいるが、求められもしないとも思っているんだろう。変なところで自己評価の低い男だこと。
「以前お話されたこと、覚えておりますわ。貴方私が死に躊躇った時に疑問を抱いたそうですわね」
「あ、あぁそうだが」
覚悟が足りず自殺が出来ない女なんて所詮その程度と切って捨てれば良かったはず。寧ろその方が自然だ。憎たらしいロロアの主は、やはり立場を弁えないみっともない女だったと吐き捨てれば良かった。それをしなかった。
「貴方、死に怯える私を可愛いと思ってしまったのね」
はぁっ!?と飛び起きる魔王にくすくすと応える。実際は知らない。だが魔王自身理解していないのだからそういうことにしておくだけだ。理性で固められた女が唯一怖気付いた瞬間に惚れてしまったのだと。
そういうことにすれば、結論はこう至る。
「檻の中で大人しくしているだけの女が欲しいのではないのなら、貴方ごと檻に入って下さらないと。貴方、私の心は欲しくはないの?」
魔王は目を眇めた。
「それは俺に差し出す覚悟があるということか? 居場所にはならんと断ったお前が?」
「いえ、無いですけど」
「あ?」
「だって貴方には無いでしょう? 私に心を差し出す覚悟も、私の居場所になるつもりも。私が搾取されるのは国のため国民のためだけよ。貴方は私から奪うなら同じだけ、私に差し出さなくてはいけないわ」
それこそが国の話ではなく、王族の義務だからでもない。一対一の、人と人との営みなのだ。私から全てを取り上げてただの女にするというのであれば、一人の男として応えなくてはいけない。夫婦になるのならそこは心得ておいていただかないと。
魔王はムスッとした顔をしてから頭を掻き毟った。観念したような表情だった。
「リリアだ」
「えっ?」
「……それが俺の名前」
唐突に差し出されたそれに、思わず笑ってしまう。なるほど、ロロアの兄はリリアか。多分この名前はゲームの中でも明かされていなかった。それはそれは。
「可愛らしい名前ですのね」
だから誰にも言いたくなかったんだ、とリリアは顔を顰める。その顔が拗ねているようで私はますます笑みが止められなくなってしまった。
エロゲーのNPCに転生とか絶対ロクなことにならない @asahitsuzi
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