【短編】Star line

雨なのに

ミナト

「蟹がまたバンドやってるらしい」


そんな噂を聞いた。


半年前に俺が抜けたバンドのドラム。


よくあるバンド内恋愛に俺が手を出して、だめになった。

しかもノンケなのに男が相手なんてタチが悪い。


笑えない冗談みたいな話だ。


「へぇ……そうなんだ」


胸の奥が、わずかにざわついた。


別に、自分を傷つけた相手だからって音楽を捨てろなんて思ってるわけじゃない。

それに、蟹江奏太がそんなことできる人間じゃないことは自分がよく知っている。


賠償金を払う、みたいな話も一度は出たけれど、結果的に何もされてないし、俺が勝手に傷ついてるだけだし、それは断った。


 あの日、あの言葉を言わなければ今でも俺達はバンド仲間で居られただろうか。


 いや、それはない。

彼を好きになったと自覚した時点で、もう後戻りできなくなっていたんだ。


「奏太くん、抱いてよ。」


飲み会の席、みんなの前で言ってみた。


それが冗談として受け取られることも、

本気だと気付かれることも、

俺はわかっていた。


「俺のこと、そんなふうに見れない?」


「見れないだろ、俺達の関係はバンド仲間なんだから。」


───ドラムの奏太くんと、ギターの透真くんと俺のバンド、BLACKPALADEは順調だった。


コンテストでは常に上位。


スカウトも来てた。

ひとつだけ、熱心な芸能事務所に、ソロシンガー、俳優として来ないかと言われてもうヤケクソで受けることにした。


明日上京する。


だからその前に、もう一度だけ自分が居たライブハウスの音とか空気を味わってみたかった。


というのは都合のいい理由で、最後にやっぱり奏太くんと透真くんを見たかった。


あれから半年くらいだろうか。2人のこと、やっぱり好きだから。


チケットは知り合いに買ってもらった。


透真くんはライブハウスでバイトしてるから普通に買ったらバレる。


今日はSODA FISHの初ワンマンだから透真くんはもぎりをやってなかった。きっとバレずに最後までライブを見れるだろう。



会場はほぼ満員なんじゃないの?


前座で結構人気って聞いてたけど、いい感じなんだな。まああの二人だけで客、呼べるかもしれない。


薄暗いステージにメンバーが現れる。


ちょっと前まで真ん中には自分が居た。


「こんばんは、SODA FISHです。」


え、ボーカルが喋らないの?透真くん?


ボーカルは自分と同じ年だって聞いてたけど…


アンプの前にうずくまってるオレンジの頭。


それにしても緩い…。


透真くん、ライブのときこんな感じだったっけ。まあ、自分が居たころは自分が喋って、メンバーは音に集中してたからな…。


奏太くんはニコニコして何かボーカルに話しかけている。ライブではもっとピリッとしてたのに。


大丈夫なの?奏太くん。


「えっと…、初のワンマンライブでかなり緊張してます。前座のときに歌ってた2曲と、あともう3曲。新曲を!」


そこでわぁーっと客が盛り上がる


「待ってました!」


「晶叶ー!立ってー」


なんて、カッコ良さとはかけ離れたぬるい雰囲気。立ってってなんだよ。


その通りなんだけどボーカルがMC始まってるのにうずくまってるとかありえない。


「頑張って作ってきたから聞いてください」


作ってきたって、透真くん、作ってない……よね?俺が居たときは、俺の言う通りに弾いてただけだった。


ベースは口元に静かな笑みを浮かべて俯いている。きれいな顔立ち。とりあえずベースはカッコイイ。


イントロはギターから。

ああ、透真くんが好きそうなフレーズだ。楽しそうに弾いてる。透真くんて、こんなふうにギター弾くんだ。細い体にロングウェーブの髪がライトに映えてきれい。激しいフレーズを軽やかに弾いて。


ドラムが入ってくる。この入り方、奏太くん好きなんだよね。ああ…音が、あの激しいドカドカドラム。だけど優しく感じるのは、奏太くんが笑ってるからなのか。


ボーカルとベースが入ってくると同時にギターが止む。声がいい。ギターが鳴ってないからベースがよく聞こえる。カッコイイな。


サビ、手を伸ばすよのフレーズに合わせてボーカルが前髪を避けたその手を客席に伸ばす。


歌詞と同じ動きでイメージが鮮明になる。


そこで初めてボーカルと客は目が合って、一気にボーカルに魅入る時間。


歌詞が刺さるみたいに、耳から脳にするりと入ってくる。説得力のある声。


この歌詞。本人が自分のことを歌ってるのか、それとも───


俺?


別れの歌詞だ。


透真くんか、奏太くんが話したのか。いや、噂で聞いた?だけどそんな歌詞を書いてこられたら、かなたくんも透真くんもやらないはずだ。


なら偶然か。


離れても僕は歌うよ。


途中まで、音しか聴けていなかった。

気づいたときには、歌詞が胸に入ってきていた。

自分が、歌い続けて良いんだと言われている気がした。


上京して最初の仕事は実は俳優で、おまけで主題歌を歌わせてもらえるらしい。


とりあえず歌えるから、歌ってみようみたいな話だった。


でも、歌って良いの?俺。


俺が歌うことは、奏太くんにとっては嫌なことでないのかな。


赦されている。


そう、思うのは、自分に都合の良いだけの解釈かもしれないけれど。


帰りにカウンターにおいてあったデモテープを買った。メッセージください!の紙に、あの日から触っていないバッグの中のピンクのフェルトペンで花丸を書いて入れた。


俺だと気づいてくれなくても、花丸だと思った客が一人、スターダストに居たことが伝われば良い。


上京する電車の中で、何度も聴いたStar line


こんなふうに音で愛を伝えていたら、

俺は、二人とまだ一緒にいられたのかもしれない。


2人は年上で、テクニックもあるから、自分の要望通り、いや、それ以上に演奏してくれた。


それが良いと思っていたし、多分、それでも成功していたんじゃないかと思う。


Star lineには、メンバーの好きなものが詰まってる。

きっと、メンバー全員で作ったんだろう。


ドラムはどう叩く?


ギターはどう入る?


ベースは埋もれてしまうことが多い。だけどベースもすごく良いから聴かせたい。ならギターには沈黙してもらおう。


全員で作っている姿が目に浮かぶようで。


奏太くん、透真くん、ベースの子も楽しかっただろうな。


俺だって、みんなの出す音が好きだったはずなのに。愛を伝えられなかった。


ただ、奏太くんだけに、自分を愛してくれと言うだけで。




『……バンド仲間じゃないなんて考えられない。ミナトと、ずっとバンドを続けたい。ミナトとなら、いけるって思ってる。俺にとっては正直恋愛よりも、バンド仲間の関係のほうが大切なんだ。』


かなたくんは、最後まで友人関係を壊したくないと言った。だから


『これで、最後にするから、最後に、抱いてくれない?』


ズルい奴だ。


バンドを続けたければ俺を抱けと言ったんだ。


そんな会話をした。それが最後になった。


奏太くん、俺は先に行くよ。


そして絶対売れて見せる。俺はいつでも君の光でありたい。奏太くん透真くんと、俺のスターラインはまだ、消えてないよね。


いつかまた、忘れた頃に会えるように。

スターラインの先頭を走ってみせるから。

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