第6話 魔王様の乱心

一応の“見合い”を済ませた魔王エリルギード。

その帰還に、ラギドは思わずいぶかしげな目を向ける。


「…魔王様?…ずいぶん早いお帰りですが…」

「…ラギド…貴様らが以前ヒューマンをいじめていた事実…少しわかってしまった」


なぜか遠い目の魔王。

ラギドの背に嫌な汗が吹き出してしまう。


「ふっ。我もまだ青いという事…ラギド、少し休む…頼めるか?」

「はっ」


ぎりぎりの威厳。

それをどうにか保ったまま、エリルギードは自室へと向かった。



※※※※※



(こわいこわいこわいこわいこわい、きもいきもい、きもいきもいきもい!!)


どうにか自室へと戻ってきたエリルギード。


彼女は自分の部屋でベッドにもぐりこみ。

先ほどの男が“妄想していたこと”をどうにか記憶から消そうと一人震えていた。


(な、なに?あの男?……妄想とはいえ……私の顔とか体…ひいっ…うあーマジで無理!!気持ち悪い!!!)


魔王の能力は非常に高い。

つまり再現度もあり得ないほど現実に近かった。


目を閉じても――まるで虫が這いずり回るような感触が体を駆け抜ける。

向けられる男性の欲情。

そして妄想故、抵抗のできない魔王。


(うあああああ、やだ、やだよおおおっっ。怖い、こわい、キモイ、キモイ!!!)


そしてエスカレートしていく男性の妄想の残滓。

まさに乙女の危機。

その事に、彼女の我慢が限界を超えた。


「殺す!!!!」


城が吹き飛ぶほどの膨大な魔力が彼女の部屋を軋ませる。


刹那の転移。

何もない大海原の中央。


大気が荒れ狂うほどの魔力――

極大魔法の競演。


法則自体を無効化するほどの破壊。

ようやくエリルギードは、肩で息をし、大きく息を吐きだした。

「はあっ、はあっ、はあっ………帰ろ」



※※※※※



未曽有の大天災。

その日――周辺諸国を大津波が襲っていた。


甚大な被害。

死者は出なかったものの、多くの建物に被害が発生していた。



原因の分からぬ、晴れた日に襲う大津波。


「…祟りじゃ」


そう呟く老人の声。


それはむなしく――混乱する街の喧騒にかき消されていた。



※※※※※



帰宅し自分のベッドにもぐりこんで震えている魔王。


『ねえ』

「………」


『ねえってば』



「……なに」


『ねえあんたさ、無理なんじゃないの?結婚とか』

「……どういう意味よ」


『だってあんた、全然乙女じゃん。“向こう”でも経験ないんでしょ?』

「…だから?」


突然声をかけてきた元魔王。

思わず怒りを自身の脳内に向ける。


『うぐ、お、怒んないでよ。本当の事じゃん』


元魔王の言葉。

まぎれもない事実だ。


病弱だった前世の宮下恵理。

当たり前だが…お付き合いどころか、同年代の男性と話すらした事がない。


だからこそ。

彼女は非現実的な恋愛――いわゆるBLに逃げていたくらいだ。



「……でも、この世界なくなっちゃうでしょ?」


『そうだけど……ねえ、ラギドあたりで手を打てば?』


元魔王の突然の提案。

エリルギードの脳内で盛大にクエスチョンマークが浮かぶ。


「はあ?……なんでラギド?そもそも魔族はみんな私の事怖いでしょ?」

『はああああああああああああああああ』


やけに大きなため息をつく元魔王。

何だか居た堪れない気持ちになってくる。


『あんた優秀なんだかアホなのか時たま分かんなくなるよね』

「っ!?な、何よっ、言いたい事あるのなら言えばいいでしょ!!」


ここで無視?

酷くない?!!


『……とにかく、また同じ事になるよ?男は大体あんな感じ。まあ、あいつはちょっと異常だったけど』


「……うわーん。もうヤダ」


『よしよし。こうなったら『おねいさん』がレクチャーしてあげよう』

「……レクチャー?」


『うん。ね、リンクして?できるよね』

「う、うん……ひいっ?!!!」


そして始まる脳内映像鑑賞会。


おい、元魔王。

貴様何処でこの映像をっ?!


直視できない男女の姿。

耳をふさぎたくなる聞いたことの無い声。




エリルギードは気絶した。


『……やれやれ……先は長そうだね……』


エリルギードが気づいた時、すでに朝が訪れていた。



魔王の婚約者探し。

それはまさに至高の難易度となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛初心者の最強魔王、愛を知る前に神を殺してしまいました たらふくごん @tarafukugonn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ