第5話 始まるお見合い
以前ヒューマン族と魔族は戦争状態だった。
しかし今の魔王、エリルギード。
10年前突然その性格が一変する。
戦争の終結と和解。
理知的で、思慮深い言動。
むしろヒューマン族との共栄を求めるようになっていた。
そしてそれから10年。
魔族によるヒューマンの殺害はほとんど発生していなかった。
※※※※※
アルデミス王国謁見の間。
跪く青年。
それを満足げに眺め、国王は言葉を紡ぐ。
「ふむ。確かにお主なら、魔王にもふさわしかろう。侯爵家が長男、そして首席で学園を卒業したお主なら」
「はっ、ありがたき幸せ」
正しい所作に理知的な顔立ち。
学園始まっての秀才と名高い男。
そして親はこの国の根幹、経済を司る金融庁の長官。
まさにこれ以上ない人選に、国王はじめ重鎮たちは安堵の息を吐く。
「ならば申し込みは私に任せるがよい。追って知らせは送ろう。下がってよいぞ」
「はっ」
終始首を垂れる青年。
謙虚、そして押さえきれぬ自信。
その様子はまるで――英雄の誕生譚、そのもの。
きっと今日の出来事――吟遊詩人が歌う。
そう確信していた。
※※※※※
今回のお触れ。
魔王の美しさを表現した顔写真付きの物が出回っていた。
目を引く美少女。
そしてヒューマンに対し寛大な彼女。
平和な時を10年過ごした今。
皆、忘れていた。
彼女は“最強の魔王”であることを。
そして事件は唐突に訪れる。
魔王のスキル『真実の眼』
その熟練度。
浅はかなヒューマンの想い――全て筒抜けだった。
※※※※※
「くくく、たまんねえ。いい女だなあ。……どんなに強かろうが所詮女。俺様の渾身の口説きテクニックとスキル…くくく。可愛く懇願する顔が浮かぶぜ」
先ほど自宅に戻った侯爵家が長男レイルース。
すでに勝ちを確信、彼は自身に絶対の自信を持っていた。
「もう。…私といるのに…他の女の話とか……サイテー……」
「ふん?サイテーな男に惚れたのは誰だよ?」
「っ!?……ん、んん…ぷはっ…も、もう……」
可愛らしい魔王エリルギードのお触れを片手に。
美しい女性、それとイチャつく青年。
(くくく…この世の女はすべて俺の思うが儘…俺のスキル『精神誘導』…こんな使い方があったなんてな…)
スキル『精神誘導』
正直大したことの無いスキルだ。
上級者には効果がないし、少しの精神鍛錬でレジスト出来るものだ。
しかし。
彼は今まで、その恵まれた環境に優れた容姿。
元々多くの異性から好意を寄せられていた。
勘違い。
そしてそれは致命傷。
最初の犠牲者はその結末を知らずに――一人顔を歪ませていた。
※※※※※
公募後3日が経過し、今日は国王より推薦された侯爵家の長男とのお見合いの日。
魔王エリルギードは可愛らしい服に身を包み、王国の城の一角にあつらえられた会場へと姿を現していた。
「ふむ、国王よ。協力感謝する。うまくいけばその男と我は婚姻を結ぶ。そしてその者は仮とはいえ“神”となろう。――その覚悟は伝えてあるのじゃな?」
「はっ。魔王陛下の希望、すでに承知しております。紹介させていただくのは我が国の侯爵家が長男。優秀な男性です」
発動させる真実の眼。
国王の言葉…嘘はない。
少なくとも魔王をたばかる、そういう気配は見受けられなかった。
「…そうか。それは楽しみじゃ。通せ」
「はっ」
程なく訪れた男性。
確かに美形だ。
「ほう。うむ、まずは挨拶じゃな。コホン。……初めまして。私エリルギードです♡17歳。エリって呼んでくださいね♡今日はよろしくお願いします♡」
完全な擬態。
恐るべし魔王。
今彼女は清廉無垢な17歳の少女を演じていた。
一目見て――顔を染める男性。
お触れより数倍美しい姿に、思わず固まってしまう。
(やべー、マジで可愛い……こ、この子と俺、ゴクリ…くく、やべー)
「は、初めまして。僕はレイルース。ルガノッド侯爵家の長男です。よろしくエリちゃん」
そして握手をする二人。
(ふわー柔らかくて可愛い手……うあ、めっちゃいい匂いする……スタイル完璧……大きすぎない胸も最高…ああ、この子が…あと少しで俺のモノに…)
舐めまわすように妄想しながらエリルギードを見る男。
当然だが紳士の皮は絶対に剥がさない。
だから彼の熱い瞳。
知らぬものが見れば…まさに恋に落ちた純情な男性。
そう見えるほど、彼の擬態は巧妙だった。
この男。
何しろ女性に慣れていた。
触れる手。
そして。
発動する彼渾身のスキル。
(精神誘導!!)
刹那。
空気が変わる。
魔王のスキル『真実の眼』
この男の下卑た、ここ数日の行為が鮮明に映し出されていた。
もちろん今。
この男が妄想でエリルギードをさんざん…コホン。
吹き上がる魔王の覇気。
「……居ね。――貴様、殺すぞ?!」
「……は?」
激しい悪寒。
息も出来ぬほどの濃密な魔力が男を包み込む。
信じられない恐怖――
男は完全に白目を剥きひっくり返る。
静寂。
信じられない光景――だが。
魔王の怒り、それはここにいるすべての者の魂に刻まれる。
「国王、これはどういう事じゃ?――この男、クズではないか」
「な、何を?」
「ふん、ならば見せてやろう、この男の愚かなふるまいを」
そして大きく映し出されるビジョン。
ここ数日、わずか2日間。
この男と7名もの女性との行為の映像。
いやらしく笑う青年、そして色を無くしていく女性たちの瞳。
(っ!?…スキル…それも精神への干渉…)
会場にいた多くの重鎮たちの表情が凍り付く。
「な、な、何という……こ、これは?!」
「我も舐められたものよ…かような下種を我が伴侶として紹介するとはな…国王よ」
「……はっ」
伝う冷や汗。
正直今回の件、国王は知らなかった。
だが。
世界を壊せる絶対者。
そのオーダー。
彼らは長き平和に――完全に舐めていた。
するべきだった対象者の身辺調査。
それを怠っていた。
「二度はないぞ?……今日は何も言うまい。だがゆめゆめ忘れるな、今回の事、我の希望ではない。この世界の命運をかけておる。分かるな?」
「はっ、こ、この度は…まことに……言葉もございません」
心からの謝罪。
それを感知したエリルギードは、未だにひっくり返っている青年を睨み付ける。
「ふん。殺す価値もない。レイルースといったな。貴様の名、忘れん。せいぜい後ろに注意することだ。それと遊ぶのなら我が相手をしてやるぞ?――殺し合いだがな」
「ひ、ひいっ?!!」
「ふむ。どうやら癖が悪いようだ。くだらぬ“スキル”まで使いおって…どおれ、我が少し細工しよう。貴様、生半可な気持ちで女を抱いてみろ。二度と使えぬよう、吹き飛ばしてくれる」
男の体を魔力が包み込む。
複雑な術式、そして抗えぬ超絶魔力。
時限式の条件魔法。
――まさに呪い。
「下らぬ。無駄な時間であった。……王よ、わらわの決意、しかと心にとどめよ。さらばじゃ」
そして消える魔王。
会場はまるで時が止まったような静寂に支配されていた。
魔王の力の一端。
それに触れた国王をはじめ重鎮たち。
迂闊な紹介、それは世界を滅ぼす。
心に刻み付けていた。
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