第3話

 あの日、北町がかけてくれた呪いに縋って、毎日生きてきて、今に至る。

 独立して、小さいけれど自分のサロンを持つこともできたし、母も相変わらず余計なことを言うが、あの頃よりずっと落ち着いてる。美樹も無事大学を卒業して就職し、こうして結婚まで決まったのだ。


 嫌なこと、しんどいままのこともたくさんあり、両親、特に母からの呪いの上書きをしてくれたとまでは言えないが、我ながら上々な人生だと思う。


 それなのに、美樹にまで罪悪感や怨恨を抱えて生きられたら、それこそ、何のためにあの時、北町の手を取ることを諦めたのかなんて、考えてしまう。


「嘘! あの時はやっぱり勘違いだったみたいって言われて、おねーちゃんそれ以上何にも教えてくれなくて、私おかしいって思ってたんだから!」 

「……そんなに言うなら、本当に私があんたに呪いをかけてあげようか」  

 

 爪やすりで磨き上げ、薄い桃色のトップコートを丁寧に塗った美樹の爪は桜貝のように美しい。自分の仕事の出来栄えに満足して、視線をあげた先には、ギョッとして顔面蒼白になった妹の顔があった。

 

「はい、完成。あと、あんたたちがたくさん幸せになる呪い、かけといたから」  

 

 呆けたままの美樹は立ち上がった私を、何も言わず見上げていて、思わず吹き出してしまった。

 

「なんて顔してんのよ」

「だって! 私だけ幸せになるなんて!」

「もう夜だから、そんな大きい声出さないの」  

 

 声を荒げて叫ぶ妹を、慌てて宥めてももう遅かった。再び目からは涙が零れ落ち、顔を真っ赤にしながら

 

「やっぱり私も結婚やめる! おねーちゃんだけを犠牲にできない!」


なんて言い出した。

 私は、北町がしてくれたみたいに、強い力で美樹を抱き締めて、言った。


 これから、どんなことがあっても、誰に何を言われても、絶対に最後は何もかも上手くいく。これは、誰にも解けない強力な呪いなんだからね、同じ呪いをかけられた私が保証する。

 だから、絶対、幸せになってね。

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呪いの作法 石衣くもん @sekikumon

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