呪いの作法
石衣くもん
第1話
私には、幼い頃から呪いがかかっている。それも、大人になっても解けない強力な呪いが。
眠り姫は、王子様のキスで呪いが解けて目覚めた。
カエルの王子様は姫のキスで呪いが解けて、人間に戻れた。
白鳥の湖のオデットは、誰も愛したことのない男性に、愛を誓ってもらうことができたら、呪いが解けるはずだった。オディールの所為で失敗してしまったが。
私にかかった呪いは、誰にどうしてもらったら解けるのかしら。わからないまま、大人になってしまって、今は呪われていることすら必死で隠さないといけない。
私の呪いは、父と母にかけられた。私が幸せになることを許さない、という呪いだ。父からは暴力を、母からは母自身が不幸だから、一緒に不幸なままでいてほしいと言われ続けている。
しかしながら、呪いと祝いは、よく似ていると思う。字面だけではなく、字の持つ意味がだ。一見、言葉の意味は真逆で、呪いは相手の不幸を願うこと、祝いは相手の幸せを願うこと。
どちらも無関心な相手に向けるものではなく、自分に関わる相手を思って「祈る」行為で、性質は同じものなのだ。だから字面も似ているのだろうか。
幸せを祈るのは、愛情や好意がある相手に向けてだし、不幸を願って呪うなんて、行き過ぎた偏愛や執着が憎悪に変わった相手でないとできない。なんと言っても、人を呪わば穴二つ。
どうでもいい相手を呪って、自分の命を落とすなんて馬鹿げた話だ。
「おねーちゃんはさ、呪いって本当にあると思う?」
パチン、と爪を切った音が響くほど、部屋は静寂に包まれた。突然、物騒な質問を投げかけた妹は、目を伏せたままこちらを見ようともしない。
「急にどうしたの?」
「……おねーちゃん、私のこと、呪いたいって思ってるでしょ」
「……美樹、本当にどうしたの」
お母さんに、何か言われた?
美樹の爪を整える手を止めて、真っ直ぐ見詰めながら問い質す。みるみる内に、妹の目に涙が浮かんで、零れ落ちた。そして、そのままこう言った。
「私のために、おねーちゃんは結婚諦めたのに、あんたは結婚できて良かったねって……これって北町さんとの話だよね」
心の中で嘆息する。どうして、私だけで飽き足らず、妹にまで酷い呪いをかけようとするのか、あの人は。明日はもう、美樹の結婚式だと言うのに。
「違うよ。お母さんが美樹が家を出てくのが寂しくて、拗ねてそんな嘘吐いたんでしょ」
私は笑いながら嘘を吐いて、美樹の爪の手入れを再開した。
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