スローライフvs冒険 〜異世界転生したら記憶喪失になってたけど綺麗なお姉さんとスローライフできそうだからまぁいっかと油断してたら危険な冒険に巻き込まれました〜

目高一

第1話 オープニング1

 部屋の窓のカーテンから淡い光が差し込んでいる静かな朝、ひどい頭痛で目が覚めた。

 二日酔いか…… と思いつつも、昨日の夜の出来事が思い出せない。

 あれ、どこで誰と飲んでたんだっけ……?


 寝たまま顔を横に向けて目覚まし時計を見ようとするが、あるはずの目覚まし時計が見当たらない。

 ていうかここ…… 自分の部屋じゃない??


 ベッドの上でゆっくりと上半身を起こして周りを見渡すが、部屋の内装は質素で、全く見覚えのないものだ。寝ているベッドはかなり大きく、キングサイズだろうか。

 誰かが横に寝ていた気もする……

 そもそも、僕の部屋ってどんな感じだったっけ??


「おはよう、ヒロ君」


 自分の今の状況が理解できずにベッドで呆然としていると、部屋のドアがゆっくり開いて、女性が入ってきた。

 年齢は17、18くらいだろうか。青色のロングヘアーが印象的な、目が覚めるくらいの綺麗な女性だ。


「お、おはよう…… ございます?」

「ございます?? もう熱は下がったのに、寝ぼけちゃってるのかな? 変なヒロ君」


 女性の口調はおっとりとした感じで、ちょっと安心した。


 彼女は可笑しそうにクスクス笑いながら、窓の方に歩いていってカーテンを開けた。今までの淡い光から一変して、眩しいくらいの光が部屋に降り注ぐ。


「朝ごはんできてるから。今日は私のお仕事もないし、一緒に食べようね」



 彼女が部屋を出て行った後、また頑張って記憶を思い出そうとするけど……

 うん、何も覚えてないな。

 昨日、一昨日とかのレベルじゃなくて、生まれてから今までのことを、何一つ思い出せないぞ……

 これってもしかして、記憶喪失ってやつ??

 さっきの綺麗な人、雰囲気的にお姉さんっぽかったけど……

 普通に接してきたし、僕は昨日までは普通だったのかな。


 ——考えていてもしょうがないし、とりあえず部屋をでよう。



 部屋を出て廊下を進むと、すぐに彼女のいるリビングが見えた。リビングでは、彼女が機嫌良さそうに朝食をテーブルに並べているところだった。


「それじゃ、食べましょうか」

「あ、ごめん、ちょっと待って。あの、実は……」


 さすがにこれ以上黙っているわけにもいかない。

 僕は、生まれてから今までの記憶がないことを、彼女に話すことにした。



 初めは彼女も冗談と思って笑っていたが、会話をしていくうちに徐々に冗談ではないことが伝わってくれた。


「嘘でしょう…… やっと熱が下がって安心したのに、なんで、突然こんなことに…… どうして……」


 あまりの衝撃に、彼女は顔を覆って泣き崩れていた。


「ごめんなさい……」


 彼女の悲しんでいる姿を見て思わず呟いた僕の声が聞こえたようで、彼女はハッとしたような表情で涙を拭いた。


「ううん、ごめんなさい、は私の方。何もわからなくて不安な上に、知らない人に目の前で泣かれたらもっと不安になるよね。ごめんね……」


 少し落ち着いた表情で、彼女は話を続けた。


「えっと、どこから話せばいいのかな…… まず、自己紹介ね。私の名前はセディア。セディア・エルメイドよ。そしてあなたの名前はヒロ。ヒロ・エルメイド。私達は従姉弟いとこなの。ヒロ君、数日前からずっと高熱で寝込んでて、昨日くらいから熱が下がって安心してたところだったの…… もしかして、記憶がないのは高熱のせいかしら……」


 それからセディアは、食事をしながらゆっくり話しましょうと言って、色々と話してくれた。


 セディアは18才、ヒロこと僕は15才で、それぞれの父親が兄弟の従姉弟いとこ関係であり、幼馴染でもあり、本当の姉弟の様に育った。

 ここは『アルターニア王国』の南にある『サウレス』の町の外れにある一軒家で、元々、エルメイド家の別荘だった。

 ここより遠く離れた小さな町でそれぞれ家族を持って生活していたが、ある時から疫病が流行り出し、僕とセディアはこの別荘に避難した。その時、2人の両親も疫病にかかり、一緒にくることはできず、結局2人の両親は亡くなり、そのまま2人でここで生活を続けているとのことだった。


 お、重い…… 思った以上にハードな展開だぞ、これは……


 そんな僕の心配を察したのか、すぐにセディアは話を続ける。


「でもね、ヒロ君、生活のことなら心配しなくて大丈夫だよ。お父さん達が残してくれたこの家もあるし、お金もあるし、果樹園もあるし、私も少しだけどお仕事してるから」


 両家は子供もそれぞれ一人しかいなかったため、財産はそのまま僕とセディアが相続しているらしい。エルメイド家は町の小さな商家であまり有名でなかったが、そこそこの資産はあったらしく、贅沢をしなければ生活に困らないくらいのお金があるとのこと。


 思い出せなくて申し訳ないけど、両親に感謝だな。

 イージーモードになって安心している僕を見て、セディアは不思議そうな顔をした。


「ヒロ君、ちょっと変わったかも? 前は『将来セディアと結婚するから、よろしくね』って言ってて、お金のこととか全然気にしてなかったんだよ。私も別にそれでいいかな、て思ってたんだ」


 いや、なんだそのダメ男は……

 セディアも僕のこと、甘やかしすぎじゃないかな。

 でも、それでいいの?? だったら超ラッキーなんだけど。


「それでね、私のお仕事なんだけど、時々病院でお手伝いをしているんだ」

「それって、看護師ってこと?」

「ううん、私がしているのは、患者さんが処置を受ける時に楽になるように、魔法をかけてあげる仕事」

「魔法?」

「そう、魔法。魔法を使える人はいっぱいいるけど、私の魔法はすごく珍しいのよ」


 魔法…… 魔法? 魔法を使える??

 何だろう、この違和感……


「魔法のことも忘れちゃってるのね。大丈夫、色々教えてあげるから」


 それから、セディアは魔法について教えてくれた。

 魔法は、大きく2つ、精霊の力を借りて行使する『属性魔法』と、精霊の力を借りずに行使する『無属性魔法』に大別される。

 属性魔法は『火』『水』『風』『土』の4つの属性があり、それぞれ特長があり、普通の人が使う魔法はこちらになる。

 無属性魔法は『属性魔法以外の魔法』全般のことで、属性魔法と違って魔法の源泉となる力が不明であるため、誰もが覚えられるわけではない。

 特殊な血統や特別な才能がある人が、特定の『無属性魔法』を使える。



 さっきの違和感の正体が何となくわかってきた……

 僕の中で、魔法というものが、聞いたことはあるけど見たことがない、そういう理解になっているから、『魔法が使える』話に違和感を持ったんだ。


「それで、私の使える魔法なんだけど、無属性魔法の『時空魔法』の『遅延スロー』、なんでも動きを遅くする魔法よ。すごいでしょう」


 セディアは悪戯っぽく笑った。


 可愛い…… いや、そうじゃなくて、確かにすごいな。

『時空魔法』とか、絶対強キャラじゃないか。


「うん、すごい! もしかして、時間を止めたり、加速させたり、巻き戻したりとかもできるの?」

「あ、えっと、できないわ…… 私が使えるのは『遅延スロー』だけで、それと『属性魔法』も使えないの……」


 あ、気にしていること、言っちゃったかな。

 慌ててフォローすることにした。


「でも、『遅延スロー』だけでも全然すごいよ。病院の処置の時に使うんだ?」

「うん。もちろん患者さんは薬や魔法で処置していくけど、患者さんが痛みを感じるのを遅くしたり、緊張している時に気持ちを落ち着かせたりするのに、『遅延スロー』の魔法をお願いされるの。感謝されて嬉しい仕事なんだ」


 感謝されて嬉しい仕事って、いいなぁ。

 僕には、なんか無縁な気がする。

 むしろ、仕事は怒られて苦しいものっていう方がしっくりくる。

 記憶が無くなる前に、なんか仕事してたのかな??


「そういえば、僕って記憶が無くなる前、仕事してたのかな?」

「ヒロ君はまだ、お仕事はしてないわ」

「あ、そうか…… なんか働いてた気がしたんだけど、気のせいか…… あれ、15才ってことは、学校に通ってるってこと??」


 セディアは、ちょっと悲しそうな顔をして答えてくれた。


「ヒロ君も私も、位の高い家じゃないから、高等学校には通ってないの」


 ああ、そうか、一般庶民は義務教育で終わりってことか。

 となると、僕は学校に通ってない間は、何をしてたんだ??


 話の流れを察して、セディアは可笑しそうに教えてくれる。


「えっとね、ヒロ君、前の家では何もしてなかったよ。ヒロ君って、体が弱くて、午後になると疲れが出て休んでることが多くて…… だから、お家の手伝いとかもあまりしてなかったみたい」


 えぇ…………


 絶句している僕を見て可哀想と思ったのか、セディアはすぐにフォローしてくれた。


「でもね、こっちで2人で生活を初めてから、色々お手伝いしてくれてるよ。お皿洗いとか、お掃除とか、果樹園のお世話とか。ヒロ君、えらいよー」


 まるで子供を褒めるお母さんみたいだ……

 ちょっとつっこみたくなったけど、セディアは嬉しそうだし、まぁいいかな。



 この後も色々と話は続いたけど、とりあえず大きな心配事は無さそうだった。

 ただ、気になるのは、魔法の話とか、セディアが話す内容の中に、僕にとって違和感を覚えることが所々にあったことだ。

 どういうことなんだろう……


 漠然とした不安を感じつつも、ゆっくりと朝食をとった後、散歩がてらに話にでてきた果樹園に行くことになった。

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