第10話 買い出し

 そんなこんなで、俺と望月は今、近所のスーパーマーケットに来ている。


「よかったら夕飯、一緒に食べない?」


 どこかファミレスにでも行くのかと思ったが違うらしい。

 どうやら晩ご飯を作ってくれるという。


「何もそこまでしてくれなくても」と言ったのだが……。


「じゃあ試しに聞くけど、桜庭くんは何を食べる予定なのかな?」

「ブロッコリーとサラダチキンだな。これならレンジで蒸すだけでいい」


 と答えたところ、無言でここまで連行されてきた。

 言い知れぬ圧力に逆らうことができなかった。


「ちょっと心配になったんだけど、お母さんがいる日はちゃんとしたご飯を作ってもらえているんだよね?」

「いや、母さんも料理はあまり得意じゃなくてな。いてもいなくても似たような感じだ」


 桜庭家の料理は、今まで父さんと兄ちゃんが担当していた。(ちなみに兄ちゃんは趣味)

 その二人が同時に抜けた四月頃は、母さんと二人頑張っていた時期もあったのだが。


「結果として不得意分野は潔く諦めようという結論に至った」

「たった数ヶ月でそれは潔良すぎるよ……」


 面目ない限りだが、俺も母さんも食にはあまりこだわりがないほうだ。

 美味しいものが食べられないなら、それはそれでなんとかなってしまう。


「それに、最低でもタンパク質をとっておけば問題はないからな」

「確かにタンパク質は重要だけど、それだけじゃ駄目だよ? 栄養はバランス良く摂取しないと、背だって伸びないんだから」

「そう言われるとちゃんとしなくちゃいけない気になってくるな」


 俺はカゴを取りカートにセットすると、望月の後に続き野菜コーナーに突入する。


「何かリクエストはある?」

「何でも――いやちょっと待て。ちゃんと考える」


 何でもいいと言おうとした瞬間、望月から凄まじいプレッシャーを感じた。

 おかしいな。望月は笑顔のままなのに。


 しかし、作ってもらう立場とはいえこの提案は望月からのもの。メニューお任せを封じてくるのはどうなのだろうか。

 こちらとしては、望月のレパートリーを知らないのだ。


「な~に?」

「いや、なんでもない」

「なんでもいいよ。桜庭くんの食べたいもの、なんでも作ってあげる」


 考えが見透かされている……? 望月はかなり魅力的なことを言っているのに、ギリ恐怖が勝る。


「しかし迷う。ここ数日のお弁当で、望月の料理の腕前は信頼しているからな……」


 なら、弁当では食べられないようなものをリクエストするのが最適だろう。


「オムライス……食べたい」

「わかった。オムライスだね。得意だから頑張る」

「そうか得意なのか。楽しみだ」


 望月はくいっと力こぶを作る動作で嬉しそうに笑う。そして、生鮮食品コーナーの前で立ち止まる。


「オムライスなのにどうして野菜の前で止まるんだ?」

「お昼がファストフードだったでしょ? だからお野菜も食べなくちゃと思って」

「野菜か~」

「ふふ。ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」

「むぅ……」


 もはや完全にガキ扱いだな。まぁいいけど。


「う~ん。卵1パック340円か~」


 卵売り場の前で真剣に悩む望月を見て、ふと思う。

 こうして二人並んで買い物している姿は、周囲の目にはどう映っているのだろう。


 やはり、カップルのように思われているのだろうか。


「こっちのなら10個入りで300円だぞ」

「でもそれだと小さいからどうかと思って」

「なるほど……」

「うん決めた。やっぱり340円の方を買おう。はいこれ」

「おう」


 卵パックを受け取りカゴに入れる。


 こうして、二人で買い物していく時間は過ぎていく。

 うちの冷蔵庫はほとんど空っぽだったから、色々揃えている間に結構な量になってしまった。


「~♪」


 望月は、会計を終えた商品をカゴからレジ袋の中に手際よく詰めていく。

 当たり前だが慣れているな……鍛えられている。


「それじゃあ行こうか……んっしょ。結構重くなっちゃったかも」

「いや、袋は俺に持たせてくれ」

「え? でも……」

「そのくらいは役に立たせてくれよ」


 望月の手から、袋をもらう。


「あっ……」


 俺が袋を受け取ると、望月はしばらく自分の手をぼーっと眺めていた。


「ん? どうした?」

「あっ……ううん。何でもないよ。桜庭くん、卵が割れちゃうから、振り回したりしないでね?」

「完全に子供扱いするじゃん……」

「ごめんごめん。冗談だよ。ふふっ。今回は甘えちゃうね?」

「ああ。力仕事なら任せてくれ」


 手を後ろで組んで、望月は少し前をふわりと歩き出す。そんな彼女を街灯の光がスポットライトのように照らしていて……。


 まるで本物の女神様のようだと思うのだった。



***

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文芸部の女神様が『取材』と称して甘えてくる件 瀧岡くるじ @KurujiTakioka

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