第8話 ハプニング

「意外と片付いてるんだね」


 俺の部屋に入っての望月の第一声はそれだった。


「さっきまではもうちょっと散らかってたけどな。急いで片付けた」

「なるほどなるほど」

「あんまりジロジロ見るなよ、ハズいだろ」

「まぁまぁそう言わないで。取材だから協力してよね……あれ?」


 興味深そうに部屋を見ていた望月の目が、とあるポスターの前で止まる。


「サッカー選手のポスター? 好きなのかな、意外かも」

「ああ。ってか中学までサッカーやってたんだよ。その名残だな」

「ふぅん……今はやらないんだ?」

「いろいろあったんだよ。あっ、もうちょっと待っててくれ。兄ちゃんの部屋からプレイヤー持ってくるから」


 実は俺の部屋にはTVもプレイヤーも存在しない。兄ちゃんが置いていったのを運んでいる最中だったのだ。

 テレビは既に移動済み。後はブルーレイプレイヤーを持ち込んで接続するだけだ。


「手伝おうか?」

「いや大丈夫。座って待っててくれ」

「ふふふ。いいのかなー私を一人にして?」


 何かを思いついたのか。望月が小悪魔的な笑みを浮かべる。


「な、なんだよ」

「えっちな本がないかどうか、探しちゃうかもよ? 男子の部屋に友達が来たときのお約束のシーンだからね~」


 これも取材と言いながら、望月は邪悪な笑みを浮かべている。


「捜してもいいけど……本当に出てきたらどうするんだよ?」

「え……?」

「これから楽しくアニメ観ようってのに、気まずい空気になるんじゃね?」

「そ、そうかも……ごめんね。そこまで考えてなかったよ」

「いや……俺も言い過ぎた」


 言葉が強くなり過ぎたことを反省した。

 なんというか、そういうものを見たら見たで、望月のようなタイプは結構ショックを受けるのではないかと心配になったのだ。

 俺はそういう本を隠してはいないが、今後望月が他の男子の家で同じことをして、エロ本を見つけて傷ついてなんてことになったら、俺は悲しい。


 だからそういうことするなよ? と釘を刺したつもりだったのだが、望月が思いのほかシュンとしてしまった。

 友達の家に来てはしゃいでいるところに水を差すような形になってしまったな。申し訳ないことをした。


「ごめんなさい。はしゃぎ過ぎたかも……失礼だったよね?」

「いや俺も言い方が悪かった。怒ってるわけじゃないから、そんなに落ち込まないでくれ」

「うん……ありがと。私のことを思っての言葉だって、ちゃんとわかってるから」

「助かる……」


 俺は急いで兄ちゃんの部屋に行くと、ブルーレイプレイヤーを持って自室に戻る。

 そして配線を終える頃には望月も元気を取り戻してくれたようだ。


 持参した紙袋から一巻のパッケージを取り出している。


「じゃじゃーん」

「おおそれ表紙か? めちゃくちゃ格好いいな!」

「でしょでしょ! 書き下ろしなんだ~!」


 うっとりした表情でパッケージを眺める望月。そのまま頬ずりしそうな勢いだ。きっと宝物なんだろうな。

 本来なら外に持ち出したくなどないだろうに、それを俺のために。


 こんなことなら部屋くらい自由にさせてやればよかった。別にやましいものなんて何もないのだから。


「いやーそのパッケージマジで格好いいわ。期待が高まるっていうか」


 原作ラノベのイラストよりシャープでスタイリッシュになった主人公たちの姿を見て、否応にも期待が高まる。

 素直に早く観たい。俺はディスクをセットするため、ボタンを押しトレーを引き出す。


「あれ、何か入ってるみたいだね?」

「兄ちゃんが入れっぱなしにしてたやつかな……何々……あっ」


 出てきたディスクに書かれたタイトルは『同級生と〇貞の俺が部屋に二人きり。何も起きないはずがなく!? ○○○○○○○○○○○○!(自主規制)』という……いわゆるアダルトビデオというヤツだった。

 ディスクには出演女優だろう、エロい格好をした女がエグいポーズでプリントされている。


「は……はわわ」


 これこそ望月が探し求めていた『男子の部屋に隠されたエログッズ』なのだが、やはり本物を見た衝撃はかなりのものだったのだろう。

 顔を真っ赤にして、涙目でプルプル震えている。やはり耐性はなかったようだ。


「あのー望月さん。これはその……俺のじゃなくて兄さんので……本当にスマン」

「い……いいよ……ここここ……こういうこともある……よね……うん。わかってるから……桜庭くんは悪くないよ……悪いのは私で」

「いや望月も悪くないぞ!」


 この日ほど兄ちゃんを恨んだことはない。

 俺は黙ってエロディスクを手に取ると、兄さんの部屋に戻る。そして兄さんの机の上の一番目立つところに置いておいた。

 掃除に入ってきた母さんに見つかってしまえばいいと思った。


「あの……望月」

「な、何かな?」

「男子の部屋を物色しても何もいいことがないということは、わかって貰えたと思う」

「そうだね……ちなみに桜庭くんは……」

「持ってない。それは断言させてくれ」

「そうなんだ……よかった」


 いや何がよかったんだよ。


「よ、よーし。予想外のことがあったけど、それはアニメを見て忘れよう!」

「お、おー!」


 から元気の望月に付き合い、拳を突き上げる。

 とんでもないハプニングに見舞われたが、ようやく俺たちは落ち着いてアニメの視聴を開始することができたのだった。



***

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