第5話 即堕ち2コマ
「それにしても凄い本の量だな。全部小説か?」
「少し漫画もあるけど……そうだね。ほぼ全部小説かな」
ここにある本のほとんどは歴代の先輩たちが置いていったものらしい。そう聞くと、歴史を感じる。
「まぁ小説と言っても、ほとんどラノベだけどね。文学作品は図書室にも沢山あるし、個人の持ち寄りだからどうしてもそうなっちゃうんだけど」
「あのさ。前々から気になっていたんだけど、小説とライトノベルって何が違うの?」
数は少ないが図書室にもライトノベルが置いてあるから見かけたことはある。
漫画ぽい表紙で一瞬「おっ」と思うのだが、中を開くと文字ばっかりでテンションが下がったのを覚えている。
「うーん。一般論からすると、ライトノベルっていうのは10代~20代向けに書かれている小説のことだね」
「若者向けってこと?」
「そう。キャラクター性と会話で話を進めていく、読みやすいエンタメ特化型の小説ってところかな」
「なるほど……でも結局、ほとんど文字なんだろ?」
そうなってくるとハードルが高いな。少し興味は出てきたものの、やはり一冊分の分量を飽きずに読めるかどうか自信はない。
「う~ん。桜庭くんならラノベも気に入ると思うけどな。正直、私の文章よりよっぽど読みやすいし」
望月は「悔しいけど」と最後に付け加えた。
「いやいや。望月の小説はかなり読みやすかったぞ」
他の文芸部員のように難しい言葉や言い回しがとにかく排除されていて、会話も多め。それでいて誰が何を言っているのかもわかりやすかった。
「読み手に対する親切心を感じたよ」
「あ、ありがとう……そんなところから褒められるとは思ってなかったから……ちょっと照れちゃう」
あれ……なんか。滅茶苦茶嬉しそうだな。口元が緩んでいる。
俺に部誌を渡してきた文芸部の人もそうだったけど、小説を書いている人ってもっとこう「読んで読んで」って、作品に自信満々なイメージだったけど。
望月のやつ、俺が思っているより自己評価低いのか?
「望月は自信持っていいと思うぞ。何せ、小説なんて全然読まない俺にも楽しめる小説を書いたんだから」
「う、うん……ありがとう。って私の小説の話じゃなくてね」
そうだった。ライトノベルの話をしていたんだった。
「つまりその……アマチュアである私の小説を楽しめてしまうくらいだから、プロの作品ならもっと楽しめてしまうのではないかと、私は思うのですよ」
照れ隠しなのか、変な言葉遣いのまま本棚の方へと移動する。
「まぁそこまで言うなら……何かオススメのとかあるのか?」
「私のオススメはね!」
その時、待ってましたとばかりに笑顔を浮かべる望月。
本棚から一冊を手に取ると、身を乗り出して迫ってくる。
気のせいか、声のボリュームが一段階上がったような気がする。
「これがオススメかな!」
「ええと……『学園異能のスキルオーバー』? なんだこれ?」
興奮気味の望月から手渡されたのは、そんなタイトルのラノベだった。
タイトルから内容がまったく想像できないし、金髪の女の子キャラがデカデカと書かれた表紙はどことなく抵抗がある。
「凄い人気作でね。去年はアニメ化もされたんだよ。きっと気に入ると思うな」
「わ、わかったから離れろ。ふぅ……」
本当に好きなのだろう。顔がぶつかるのではという距離まで詰め寄ってくる。
「読んだら感想、聞かせてね」
「ああ……まぁそこまで言うなら。読めたら読むよ」
「あー! それ絶対読まないヤツじゃん」
バレたか。
今のところ、そんなに俺に刺さっていないことに。
ぷくーと頬を膨らませ怒る望月をなんとかやり過ごし、この日の昼は解散となった。
***
そして次の日の昼。場所は再び文芸部の部室。
「メッチャ良かった。想像の100倍良かった」
昨日、寝る前にちょっと読んでみるかと手に取ったが最後。夢中になって最後まで読み切ってしまった。
「不思議な経験だった。文章だけなのに情景が浮かぶし、小説というより漫画を読んでいる感覚に近い。それでいて三時間は夢中になれる。一人称視点は主人公に感情移入しやすくて俺もあの世界で一緒に生きているような体験ができた……ライトノベル……俺結構好きかもしれない」
「むふふ」
「なんだよその笑い方」
「ううん。私の好きなものを桜庭くんも好きになってくれて、すごく嬉しいなって」
微笑ましいものでも見るように、望月は目を細めた。
「望月の見立てが冴えていたんだろ。俺にクリティカルになる作品を薦めてくれた」
「でも嬉しいんだ。自分の好きな作品をオススメしても、読んでくれる人は貴重だし、好きになってくれることなんて殆どないから」
「そんなもんか?」
「そんなもんなんだよ。ねぇねぇ。もっと感想を聞かせて欲しいな」
「なんで俺なんかの感想知りたいんだよ。望月の方が物語の理解度高いだろ?」
「ふっふっふ。作品ファンにとって、初心者の感想は栄養なのです」
なんだそれ。まぁ今日のお弁当も美味かったし、望月に求められているなら仕方ないか。
その後も俺は率直に感想を述べた。そして望月は、それを楽しそうに聞いていた。
「あ、でも一つ気になったところもあるな」
「気になったところ?」
「ああ。キャラが大勢出てきたけど、あんまり出番のない子とかいたよな。あれ、何の意味があるのかなって」
主人公と知り合いになったシーンだけで、その後ほとんどストーリーに絡んでこない女の子が何人かいたのだ。
「それはね、続編で活躍するためだよ」
「ぞく……へん?」
「実は昨日貸したラノベ。続きがあります」
「マジか」
「14巻まで」
「じ、14巻!?」
それってつまり……。
「14倍楽しめるってことじゃねーか」
「ふふふ。『そんなにあるのかよ』って絶望じゃなくて、そんな風にワクワクできちゃうところ。やっぱり桜庭くんにはオタクの才能があるよ」
「そりゃ嬉しい」
何事も才能があると言われるのは悪い気はしない。
「じゃあ続きも貸してあげるね」
「助かる。あ、でもいいのか? これ文芸部のものだろ。部外者が持ち出したりしたら……」
「大丈夫。私の権限でなんとかするから」
「権限て……お前まだ平部員だろ?」
「そうだよ。でも順当に行けば来年の秋には部長だから」
「出世払いかよ。悪いやつめ」
「ふふふ。桜庭くんも共犯だよ?」
「また秘密が増えるやつじゃん……」
小悪魔のように笑う望月と先を読みたい欲に負けて、「文芸部の皆様すみません」と心の中で謝罪しながら、俺は二巻を手に教室に戻る。
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