第3話 君が笑わないから
「ふふ。どうでした? 私のお弁当は?」
「正直メッチャ美味かった」
「桜庭くんも、なかなかいい食べっぷりでしたよ。男の子に手作りお弁当を作ってくる。そんなヒロインの気持ちが少しわかった気がします」
「ほう……その心は?」
「楽しくて気分がいいです」
「それってあれじゃないか? 動物にエサをやって楽しい的な感覚じゃないだろうな?」
「ふふ。どうでしょうね」
望月は小悪魔っぽくクスクスと笑った。
おい図星かよ。
まぁ、美味しかったからいいけど。ぶっちゃけ得したよ。
「とはいえ理由付けは難しいですね」
「理由付け?」
俺の問いに望月は頷いた。
「このシチュエーションは男子的には夢のような出来事……でいいんですよね?」
「まぁ。女子の手作り弁当ってだけで正直テンションはメッチャ上がるな」
それがもし意中の相手や彼女だった場合はドキドキもプラスされるだろう。
「だからこそ青春ラブコメを書くなら絶対に取り入れたいシーンではあるのですが、そこまで親しくもない女子が何の理由もなしに手作り弁当を持ってきたら普通に怖いでしょう?」
「……まぁそうだな」
その状況はさっきまでの俺なのだが、確かに意図が読めずに怖かった。
普通に何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
「手作り弁当だから展開が重くなるのかもしれないな」
「ほう……?」
俺の言葉に、望月の目がキラリと光る。興味を持ってくれたようだ。
「最初は一緒に昼食くらいに収めるのがいいのかもしれない。理由はそうだな……」
少し考えて思い至る。それこそ、今俺たちが置かれているこの状況こそがピッタリではないか。
「相談とかでいいんじゃないか」
「なるほど。秘密の相談。非常階段でお昼の密会。互いの秘密を共有し合う内に互いに惹かれて……うん、いい! いい考えだよ桜庭くん……あっごめんなさい」
「いいよ。同級生なんだしタメ口で」
「そうかな?」
そもそも風間グループの連中にはタメ口だったじゃないか。
「やっぱり桜庭くんは凄いね。ここしばらくの悩みが吹き飛んじゃったよ」
「いや……何度も言うが、俺はべつに小説とかライトノベルとか全然詳しくないんだ。部誌を読んだのも偶然でな」
放課後校内をぶらついていたら、先輩と思われる文芸部の人に半ば押し売りのような形で渡されたのだ。
「本当に相談相手は俺でいいのか?」
「うん。むしろ桜庭くんじゃなくちゃ駄目なんだ」
「俺じゃなくちゃ駄目?」
「理由はいくつかあるんだけどね」
理由。なんだろう。
「一つ目はさっきも言ったけど、貴方なら変な勘違いしないと見込んだから」
「確かに大抵の男子はこんな状況に陥った時点で勘違いしてしまうだろうな」
そこのところは信頼されているようだ。
「次の理由。これが一番なんだけどね……」
そこで一旦言葉を句切った望月は、言おうか言うまいか悩んでいるようだ。
やがて覚悟を決めたように俺の目を見て言った。
「貴方が私の夢を笑わなかったからだよ」
「それだけか?」
「そう、それだけ。それだけの理由で、私は貴方を信用できてしまうんだよ?」
いや、でもそんな。
「いいのかよ。そんなやつ沢山いるだろ」
「そう思う? でも……風間グループのみんなは違ったよ? 本気で小説書いてるって言ったら『ちょw イタいってーw』『反応困るーw』『そういうキャラ?w』みたいに茶化されちゃった。まぁ、これは私も悪いところがあるんだけどね」
望月は夢を軽々しく語るものじゃなかったと自嘲した。
「はぁ……あんなこと言わなければよかったな。文芸部の女神様とか変なあだ名までつけられちゃうし。やりにくくなったものだよ」
「へぇ……その通り名、気に入ってないんだ」
「あ、当たり前だよっ!」
俺はいいと思うけどな。
「なるほど……望月。お前はやっぱり凄いヤツだな」
「どうしたのいきなり?」
「昔言われたことがあるんだ。他人に夢を馬鹿にされても。それでも折れずに頑張れるヤツの夢は、本物だって」
「本物……私の夢が?」
「ああ。だから改めて俺からも言わせてくれ。俺にできることがあったら何でも協力する。だから望月は夢を頑張れ!」
「う……うん。ありがとう。頼りにさせてもらうね」
改めて、望月文乃との協力関係が結ばれる。
「ん。そろそろ五時間目が始まるな」
「そうだね。じゃあまた。明日も同じ時間で」
「おう……ん? 明日も?」
「メニューのリクエストがあったら夕方までにLINEしてね。それじゃあ」
望月はささっとお弁当を片付けて、この場を立ち去った。
「えぇ……」
今日だけかと思っていたのに。明日もこれをやるのか?
***
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