エピローグ

 昼休みの休憩室。コンビニ弁当を食べながらのくだらないお喋り。パート社員の女性たちが備え付けのテレビでお昼のワイドショーを見ながら盛り上がっている。

「あー、見てみて!西川真琴じゃん」

「すご~い、国際映画祭で主演女優賞だって~」

 受賞者の名前を聞いた途端、長内百合亜おさないユリヤは思わず振り向いた。

 テレビの画面には、輝くトロフィーを手にした振袖姿の真琴が映っていた。

 ――まこっちぃ様!

「ねぇねぇ、この子アレでしょ? ほら、前にそこのモールで踊っていた……」

「そうそう、七色ナントカ……ってアイドルだった子でしょ?」

 百合亜は思わずテレビの前ににじり寄った。

「あら、長内さん。ファンなの?」

「あ、ええ、まぁ」

 正しくはファンだった、かもしれない。急にグループを卒業してしまい、それからは映画だドラマだと、あっという間にスター街道一直線となった「推し」。

 それまでは握手したり、一緒に写真を撮ったりしていた「推し」は、自分なんかには全く手の届かない存在になってしまった。いや、近づこうにもスタッフらがしっかりとガードしていて、寄るに寄れないのだ。

 ――それでも、やっぱり素敵だなぁ。

 画面に映る彼女は、流ちょうな英語でスピーチをしている。昔から格好いい人だったが、長年の女優としてのキャリアと知性が、彼女をより一層輝かせている。

 と、真琴が誰かを呼び寄せた。小柄な日本人女性が彼女のそばに歩み寄り、二人は喜び一杯の表情でハグを交わしている。

 ――あれは…?

 目の下のほくろには見覚えがあった。新参者のファンだった、ミユとかいう若い子。にわかの分際で差し出がましい振る舞いをした、生意気な小娘。後できつくお灸を据えてやったっけ。

 ――そういえば、まこっちぃ様が卒業したのって、あの後だっけ?


「――ミユさんは古くからの知り合いです。そして今では、私を支えてくれる大切な人です。私が女優として日本で活動し始めた頃、彼女は努力に努力を重ね、海外で映画のコーディネーターとして修業を積んでいました。女優になった私が海外で活躍できるよう、サポートできるような仕事をしたいという夢があったそうです。そして今日、まさにその夢が実現したのです! ミユさん、本当にありがとう!」

 そう言うと真琴はミユをぎゅっと抱き締めた。ミユも涙をこぼしながら真琴を抱きしめ返した。

 テレビ越しとはいえ、とんでもないものを見てしまった……。


「ちょっと長内さん? もう昼休み終わるよ~」

 ぞろぞろと休憩室を出ていくパート社員たち。主任が呆けている百合亜の背中をポンと叩く。我に返った彼女は、目の前の現実を突き付けられ、重い足取りで部屋を後にした。ドアを閉めた瞬間、甲高い獣のような声と共に「ざまぁみろ~」という声が聞こえたような気がした。


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出世の呪い 塚本ハリ @hari-tsukamoto

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