勇者の心は黒い。だから、弟子は剣を取った

ミツマン

プロローグ

“勇者は世界を救う”

そんな主人公的な幕引きにより、世界は救われた。


ある者は筆を取り、勇者の伝説を書き留める。

ある者は後世に伝えるための歴史にする。


そう、勇者の栄光は、この世の輝かしい未来を絵描く物語だった。

その名はアルテア。たった一人で魔王を討ち取ってしまった青年である。


「僕は皆の笑顔が見たい。だから魔王を倒すなんて僕しかできないよ」


 国民にそう語るアルテア。

 想像通りの優しい人だ。さすが人望の高い英雄である。

 おまけに礼儀が良い。だからアルテアは、国民推薦により王となった。

 国王や貴族も、その意見に異論はないと頷いている。


「かの勇者アルテア。今日この時から第二国王継承の儀を執り行う」

「はい、この勇者、いや第二国王アルテア。この国のために身を挺してまいります」


 アルテアは目を逸らさずに、自身の抱負を高らかに宣言する。

 その言葉に素晴らしいと評価する配下。英雄の誕生で熱烈な声援を送る国民。

 次代の国王誕生に、観客は大盛り上がりである。


 しかし、勇者は国民に対して嫌悪感を持っていた。

 最初から全部間違っていたと。


(そうさ、みんな知らないんだ。僕がどれだけ苦労して魔王を倒したのか)


 魔王を討伐したことで、自分が英雄? 勘違いしないでほしい。

 確かに正義を全うしたが、褒められるような活躍なんてしてない。

 偶然と落ちた物を偶然に拾い、結果として世界を救った。


 それが物語の真相。

 

 全てがわかる。王族、貴族、国民は勇者の表向きにしか目を合わせていない。

 常に結果論だけ。そればかりなのである。

 だから、勇者は恨んでいる。自分の決断は正しい結末だと言われた。


 なら全部間違っていたなら、全部やり直せばいい。

 その瞬間、背中の重りが外れた音が体に鳴り響いた。


勇者の心は黒く染まる。

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