お祝いのプレゼント

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

お祝いのプレゼント

 幼馴染の椎名と俺、大和は、心の友でマブダチだから、いつだって一緒だった。


 手を繋いで通った保育園。昼寝は絶対隣を死守したし、勿論手を繋いで寝るのはデフォルトだった。


 小学校の集団登校。仕切ってる奴が何故か男女で手を繋がせようとしてきたので、俺は無理やり繋いできた女子の手を振り解き、勿論椎名と手を繋いだ。


 椎名の反対側で椎名と手を繋いでいた女子は、最初は嫌そうな顔をしていた。だけど椎名は椎名で俺しか見ていない。やがて諦めてあぶれていた俺と手を繋ぐ予定だった女子と手を繋いで、結果二人は大親友になっていった。俺らのお陰じゃん。


 高学年になるとさすがに外で大っぴらに手を繋ぐことはできなくなってしまい、仕方ないので俺は毎日放課後に椎名の家に凸ると椎名にべったりくっついて、ゲームをしたり宿題をしたりしていた。


 椎名の足の間に入って二人羽織みたいになると椎名にもたれることができるし、コントローラーを持つ椎名の手が俺のお腹の前にきて支えてくれたから安定感が抜群でさ。基本はずっと、この体勢だった。


 中学に上がってもそれは変わらず――だったんだけど、俺の頭が悪いせいで高校で離れ離れになってから、椎名との距離が急に開いてしまった。


 俺は寂しくて仕方なかった。俺におぶわれるように背中に抱きついてくる大きな温もりに飢えていた。とにかくマブダチとの触れ合いが足りなさすぎる。学校が終わる時間もマチマチでちっとも会えなくなって、会えるのは学校のない日曜日だけなんだよ。


 週に一回の補給じゃ足りない。なのに以前だったら二人羽織の体勢で俺を支えてくれていた椎名が、最近「ちょっと不都合があって」と言い出し、横並びにしか並んでくれなくなった。


 ……おかしい。


「不都合ってなんだよ」と問い詰めても、椎名は絶対に教えてくれないんだよ!


 俺の欲求不満は募っていくばかりだった。


 そんなある日のことだ。


 駅前の人混みの中、偶然にも椎名の姿を見かけたんだ。丁度、横断歩道の向こうとこっちだ。


 平日に会えるなんてラッキーすぎる! パアッと笑顔に変わった俺は、駆け寄って抱きつこうと思ったんだ。


 だけど、そこには先客がいた。


 椎名の腕の中には、抱き寄せられている椎名と同じ高校の制服を着た女子。


 椎名はその子の頭を見ていて、俺には気付いていない。


 あ――、と思った。


 最近椎名が俺にくっつかなくなった理由がわかってしまった。


 俺の足は動かなかった。横断歩道の信号は点滅し、そのまま赤に変わる。


 と、不意に椎名が顔を上げた。


 目が合った、かもしれない。わからない。


 すぐに背中を向けると、これ以上見ないようにしたから。


 この時俺は、初めて自覚していた。俺は椎名に友情を感じていたんじゃない。ずっとずっと椎名に恋をしていたんだと。


 だって、こんなにも悲しい。恋心に気付いた瞬間に失恋してしまったことも、無自覚だった俺を椎名がやんわりと遠ざけようとしていたことに気付いてしまったことも。


 涙が頬を伝っていくけど、拭うことも忘れてただ前に歩き続けた。


「――あれ? 大和じゃん」


 その時、正面から歩いてきていた奴に声をかけられる。


 泣き顔を上げると、保育園から高校まで俺と一緒で、高校に上がってからつるむようになった省吾が驚いたような顔をして俺を見ているじゃないか。


「ど、どうしたの?」


 駆け寄ってきた省吾が、俺の頭頂に手を置き撫でてきた。椎名のではないけれど似た温もりに、ホッとしてしまったのかもしれない。


 言う筈のなかった言葉が、ポロリと飛び出してきた。


「し……失恋、しちゃった……」

「えっ!? まさか椎名!?」


 ……なんで俺だってさっき気付いたばっかりな恋心をこいつが知っているんだ。


 泣きながら上目遣いで睨むと、省吾が情けなく眉を八の字にする。


「意外……てっきり俺……」

「……てっきり?」

「あっ、いや、なんでもないっ! ここで会ったのも縁だし、今日は俺が慰めてやるから、な!」


 そう言って、省吾が俺の背中を抱き寄せてハグしようとした時だった。


「ぐえっ!?」


 突然後ろから腰に腕を回され、ベリッと音がしそうな勢いで省吾の腕が引き剥がされる。


「はあ……っ! はあ……っ!」


 くっついている背中から、速い鼓動が聞こえてきた。俺のことをぴったり包み込む感覚は、よく知っているものだ。


 だけどここにいる筈がない。「あ、あれ?」と、俺の頭上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんだ。


 だって、さっき一緒にいた彼女はどうしたんだよ。なんでそんな全力疾走してきたみたいに息が上がってるんだよ。


 省吾が、俺を背後から抱き締めている相手を睨みつけた。


「――おい、どういうつもりだよ椎名」

「はあ……っ、どういうつもりも、何も……っ、大和、絶対誤解してる、から……!」


 省吾が顔を思い切り歪ませる。


「はあ!? どういうことだよ? 大和を泣かせておいて何言ってやがるんだよ!」


 と、椎名が息を呑む音が聞こえてきた。


「大和……泣いてるの!? 顔見せて!」

「わっ、馬鹿、やめろっ」


 椎名は俺の向きを強引に変えると、正面に向かい合った状態になり俺の顔をガン見してくる。さすがに泣いている原因に泣いている顔を見られるのは嫌で、せめてもの抵抗に目を逸らした。


 すると椎名がおでこをゴツンと押し付けてきて、無理やり俺の顔を上げる。


「大和、あれは違う」

「ち、違うって、何が」


 至近距離から見つめられているけど、それでも必死で目を逸らし続けた。いくらなんでも近すぎるんじゃないか? こんなことをしたら、いくら俺が男でも彼女が誤解しちゃうだろ? だから離せよ、な。


 大和の熱い息が、俺の顔に吹きかかる。


「あの子はたまたま駅前で会ったクラスの子で! 横断歩道の段差で躓いて、咄嗟に受け止めただけだから!」

「へ……」

「僕が好きなのは大和だけだから! 誤解しないでよ!」

「で、でも……」


 たとえそうだとしても。


「椎名、最近俺とくっつくの嫌がるし……」

「それは! 反応してるのに気付かれたら大和が怖がるかと思って!」

「……反応?」

「そう、反応」


 椎名はおでこを離すと、目線を一瞬下に向けた。……あっ。


 椎名が言っている意味を察した俺の身体が、一瞬でカアアッと熱くなる。


「こ……怖がら、ない」

「……本当?」


 椎名が、鼻先を俺の鼻先に愛おしそうに擦り付けてきた。


「じゃあ、この後僕の部屋で前みたいに抱き締めてもいい?」

「う……うん」


 抱き締められたら俺はその先どうなっちゃうのかまでは、考えられなかった。ただ恋しかった椎名の温もりをまた味わえると思ったら、頷く一択だったんだ。


 ふ、と椎名が顔を上げる。


「ということでさ、省吾」


 これまでとは打って変わって柔らかみのない低めの声で、俺の後ろにまだ突っ立っていた省吾に向かって言った。


「大和は僕のものだから、もう狙うなよ」

「……!」


 省吾は悔しそうに唇を噛み締めると、「クソッ! 大和、また学校でな! 俺はまだまだ諦めないからな!」と、肩をいからせながら去っていく。


「ん? どういうこと?」


 よくわからなくて椎名に尋ねると、椎名は「ううん、大丈夫だよ」とにこやかに微笑んだ後――。


「大和、大好き。今からさ、僕たちの恋人になったお祝いにプレゼントを貰っていい?」


 唐突な提案に、目を白黒させた。でも、椎名がほしいというならあげたいのが俺だ。


「プレゼント? な、何? 俺が持ってるものなら――」


 すると、椎名が幸せそうに笑う。


「うん、恋人になってからのファーストキス。ファーストキス自体は保育園時代に大和が寝るといつもチュッチュしてたからさ」

「え、そうなの? それは知らな――」


 話している最中なのに、椎名の唇が重なってきた。


 ――よかった。俺たちずっと両想いだったんじゃん。


 俺は幸せいっぱいに瞼を閉じると、ずっと恋しく思っていた椎名の温もりを堪能することにしたのだった。

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